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領主編 66話


 「あ、どうも…へへへ」


 冒険者ギルドに入ってきた新人ちゃんと思われる人物は、すれ違う人に頭をペコペコ下げながら受付嬢の元に向かっていた。


 オーパスは目頭をおさえ、ギルドマスターに確認をする


 「おい、まさかてめぇ…あいつを使えるようにしろとでも言うんじゃないだろうな」


 ギルドマスターはオーパスの威圧を軽く受け流し、視線は新人ちゃんに向けたまま、平然と伝える


 「その通り。テスト期間中は、貴方は仮のギルドマスターとして、この道の門を叩く者を導いてもらう。……ギルドマスターたるもの、人材を正しく斡旋し導いてあげる必要があります。その者が困難を抱えているほど、我らギルドの者が支援して差し上げるべきでしょう。最初から万能な者など存在しませんから」


 ギルドマスターはコホンと咳払いし


 「あの者は、私がこの町に到着してからというもの…夕方の時間帯にここまでやってきては、ギルドの前で立ち往生するという行動を繰り返していたのですよ。不思議に思って話を聞いてみると、冒険者に成りたいと言ってくれたのです。こんなに嬉しいことってありますでしょうか」


 ギルドマスターは優しい顔を彼に向けた


 「今日、彼に勇気を出してもらってご足労いただいたのは、オーパス…彼を、君の試験対象とするためです。ギルドにとって良い導き方をしてあげること。どんな形でも良いので、私が納得できれば、合格。それをテスト内容としましょう」


 オーパスはため息混じりに首をふって、吐き捨てるように言う


 「はぁ…ギルドマスター、お前の気持ちは分かった。だがな…本当に本人とギルドの利益を考えるなら、今すぐにでも冒険者をやりたいなんざ、そんな気持ちを圧し折ってやるべきだ」


 すると、オーパスは新人ちゃんの元へ大股で向かい、その頼りない肩を大きな手で鷲掴みして受付への道を阻む


 「おい、兄ちゃん。ちょっとまちなぁ」


 …オーパス!それじゃなんだか冒険序盤にやられる敵の役目みたいな立ち位置だぞ!と心の中で彼の行動にツッコミをいれた


 「はははは、はぃいい!?ななな、なんでしょうか!?」


 新人ちゃん、完全に怯えてしまっている


 「見たところ依頼じゃねぇだろう。冒険者になりたいってか?冒険者てのは甘いもんじゃねぇ、夢はあるが、常に死と隣合わせの世界だ。甘っちょろい覚悟と強さじゃ痛みしか生まれねぇ。悪いことは言わないから、やめておけ。って…なぁ?」


 「ひ、ひぇえ」


 新人ちゃんは驚きのポーズをとって、そのまま銅像のようにかたまった。ギルドマスターは大きなため息をついてオーパスの行動に言及する。その目は哀れみの色すら感じられた


 「ふぅ……手の施しようがない。サトル君、本当に彼しかいないのでしょうか。貴方からのお願いとあれど、あれで人の上に立つなど…」


 …困ったなぁ。オーパスもギルドマスターも考えは正しいものだ。ただ少しだけ方向性が違うだけなのに……どうにかならないだろうか。


 「ギルドマスターがそう判断されたのであれば、結果は受け入れますし、それは仕方がないとは思います。ですが、彼にも考えがあってのことです。テストは最後まで見てあげてください」


 とりあえずテストは最後までやってもらうということで、見届けてもらうように説得する


 ギルドマスターは渋々頷いた


 「…良いでしょう。他ならない貴方からの頼みです」


 オーパスに捕まった新人ちゃんは、しばらくフリーズしていたが、再起動したようにハッと気持ちを持ち直す


 「……け、警告は感謝しますが、あ、あなたにそんなこと決める権利はないのでは!?ぼぼぼ、僕は冒険者に…冒険者になりたいんだ!」


 「お前…家族は?心配してくれる人はいるのか」


 「い、いません…ぼ、僕は冒険者になりたい…です」


 「……」


 逃げて帰るとおもいきや、少し意外な返しをしていた。彼にとってもそこは譲れない部分だったのだろう。オーパスも、少し脅せば帰ると思っていたようで、何か言おうとしては口を開き、言い淀むように噤んでしまった。オーパスとしては、若い命がむざむざと散り逝く姿を見たくないのだろう。それが結果的に『ギルドと本人のため』という解釈でこういった行動をとってしまうのだ


 ギルドマスターはオーパスの元まで歩いて告げた


 「オーパス、仮のテストとはいえ、今日からテスト完了までは貴方がこのギルドを預かる身です。発言とふるまいには気をつけて、くれぐれも彼を『追い返す』や『脅して従わせる』などという方法で解決をしようとしないように!その方がしっかりと冒険者になれるまで導いてみなさい。……さて、わたくしはこの町のイエティ肉と、カジノとやらを堪能してくるとしましょうか!では、また様子を見に行きますね」


 「お、おい…テストは」


 「テストは最後までとお願いされておりますので…では!」


 姿勢を正したギルドマスターは何か言いたげなオーパスの返事も待たずにスタスタと去っていってしまった。


 オーパスはギルドマスターを止めようと伸ばした手で頭をかいて新人ちゃんに目をやる


 「導いてだと…導くたって……こいつは…」


 才能が無いとか、危険だとか、オーパスの頭にはそんな単語が列挙されているのだろう。激しいスタンピードを生き残ってきた彼だからこそ、今回のテストは納得がいかないことばかりだ。


 新人ちゃんはオーパスに向かい合い、お辞儀をする


 「よく分かりませんが、貴方が面倒見てくれるんですかね。これからよろしくお願いします…へへ」


 「……」


 オーパスの返事は無かったが、新人ちゃんを受付まで手を引っ張って行った


 …ギルドマスター、これは『簡単なテスト』じゃない気がするぞ



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