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領主編 62話


 カジノ開店から1週間が経過した。建物の奇抜なデザインと、この世界ではまだ類を見ない賭けの提供スタイルが受けてか、噂が噂を呼んでか、開店前よりも町は一層賑やかになっている。


 スロットもどきのプロトタイプは改良され、音が鳴るように進化させられるか、十分にイミスたちと話し合い設計し直したし、ルーレットを始めとした他の賭けも同時に展開することで、飽きづらい遊び場を提供できたと思う。その成果もあって、毎日上がってくる収支が日に日に増え続けていた。…これは大成功といっても良いのではないだろうか?


 収支報告には、初日に大きな賭けに勝った者が出たと書いてあるが、それ以降の利益は順調。武器や景品を豪華にしているためか、お金に引き換える人は少ないようだ。初日の大当たりについては(此方側としては)不幸中の幸いか、そのお客さんは金ではなくギルド嬢に興味があったらしく、勝った分はお金にはならないデート権に全て引き換えたらしい。これに心奪われたギルド嬢は、これ以降のデート権発行をお断りする願い届けをカジノに提出し、そのお客さんと真剣にお付き合いしているのだとか。


…とても人気があった受付嬢だったので、デート権発行ができなくなるのは痛手だが、まずは二人の幸せを祈るべきだろうな。


 今日の収支報告も確認が終わり、ひとつ伸びをして順調な推移に何度も頷く。


 ひとつ問題があるとすればそれは…


 「あ、俺まだカジノで遊べてないじゃん…」


 そう、開店からというものの裏方の仕事に徹し、現場が安定するまではあらゆる仕事を手伝っていた。カジノをこの町に作りたかったのは、もちろん儲けの基盤にする目的が強いが、俺が遊びたいというのも大きな理由になっている。


 …遊び、いや調査に行かなくては!何よりも提案者が楽しめないものは、提供しても楽しめないに決まっているからな!そう、これは調査なのである。まだプロトタイプを改良したスロットを本格的に遊べて…いや、調査できていないのだ!!


 というわけで俺は今日、お客さんとしてカジノに乗り込むぞ!


 ・・


 日が落ち始めて、冒険者たちが狩りから帰ってくる頃合いの時間になった。町には手押し車に魔物を乗せた冒険者たちが至る所で見られる。この景色は最早この町の名物と言っても良いだろう。冒険者同士がすれ違うときは、互いの獲物に意識を向けたりしている。これが狩りモチベに対する良い刺激にもなっていたりする。ライバルが大型の魔物を引っ張って町に凱旋したら、闘争心が燃えたぎるだろう。


 「お…お目当てのカジノにも到着っと」


 行列の最後尾に並んで、自身の姿を再確認する


 俺は、戴冠式で派手にクラスアップの力を行使し、神々しい光を全開にしたせいで、町の人たちからは『神の御使い』と呼ばれるようになってしまった。当然普通に顔を出して歩けば拝まれ、物を買おうとすればタダで差し出そうとしてくる。騒ぎになって遊びや調査どころじゃなくなるので、あれから町に出るときはマスクをするように布を顔下半分巻いて、服も駆け出し冒険者を装うものを着用するようにしている。念入りに変装してあるし、バレないと思う。…多分。


 …こうしないと、まともに外を歩けないのが最近の悩みなのだ。まぁ、気持ちを切り替えよう


 「よぉ、見ねえ顔だな?お前もカジノか?」


 「ん?」


 俺と似たような格好をした、如何にも冒険者といった装いの男が声をかけてきた。


 黙っていれば不審だろうし、ひとまず何か返事しておくか


 「あぁ、今日が(遊ぶのは)初めてだな…本当に遊びたかったが、忙しくて」


 思わず心の声がにじみ出る。気苦労しているように思われたのか、男の声が控えめになった


 「そ…そうか。ま、まぁ今日が初めてなら楽しまないとだな」


 カジノはメインとなる中央通りに建設したので、もちろん3大メーカー武具屋や新設した冒険者ギルドとも近い。建物の属性…というか、相性も良いのか、狩りで得た金を引っ提げてカジノに向かう冒険者の数も日に日に増えている気がする。この男も、狩りの稼ぎを増やすために通っている客かもな


 「あぁ、ところで…」


 男は何かを察したように


 「おっといけねぇ。俺はチャンスだ。クラスはスカウト。武器は短剣を使う。急所狙いが得意なんだぜ。別名では千載一遇とか言われているな…まぁ名前をからかってつけられた愛称みたいなもんだ。好きに呼んでくれ」


 チャンスは人懐っこい表情で手を差し伸べる


 「よろしく、チャンス。俺はサト……サトールだ。愛称は無いからこちらも好きに呼んでくれ」


 俺は手を握り返した。……一瞬バレないかと心配になったが咄嗟に思いついたのはそれだけだった。俺の命名スキルが絶望的なのは、今に始まったことじゃないので仕方がない。


 「…?どこかで聞いたことあるような…まぁいいか。よろしくな、サトール。今日が初めてなんだよな?もし予定がなければ、俺で良かったら案内するぜ」


 「助かるよ。チャンス」


 どうやら案内してくれるようなので、そのご厚意に甘えるとしよう


 ・・


 「カジノ、まもなく開店しまーす!」


 カジノの入り口に立った獣人の女の子ニ名が、大きな両扉を開く。扉から徐々に漏れてくる強い光と、楽しそうな音楽が、自然と客たちを吸い寄せるように客足を早めた


 自分で発案していてなんだが、すごい完成度だと思ってしまった


 「ほら、呆けてないで、とっとと行こうぜ。当りが出やすい良い席ってのがあって、それは早く埋まっちまうんだよなあ」


 …初耳である。公平性を売りにしている手前、そんな仕様にはしてないはずだ。でもギャンブラーってそういうジンクスをすごく大事に持っているというのは知っているので、イチイチ突っ込んだりはしない。そういう経験や法則によるパーセプションが当りを引き当てる可能性だってあるのだから。


 「そういうもんか…分かった」


 チャンスの案内の元カジノに入店し、(お客さんとしては)初見ということで説明を受けて100コインのウェルカムコインとケースをもらい、ようやく自由タイムだ。ちなみにずっとチャンスは付き添ってくれている。…謎に親切だなおい。


 「受付は終わったぞ。最初は何をするんだ?」


 チャンスは少し考え込んで


 「う~ん…初動は遅れたから大型ルーレットは見学になるし…まだ飯には早い時間だ。なら、やっぱりスロットだな」


  …お、とうとうイミスが改良に改良を加えたゴーレムスロットちゃん3号…(イミス命名)とご対面だな


 「分かった。悪いが案内を頼む」


 「あぁ!任せておけ!このチャンス様のスロットさばきを見せてやるぜ!」



 

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