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領主編 60話 ドヤ顔のジェームス

長いので分割します


 俺の名前はジェームス。28歳で独身。シールドウェスト所属のDランク冒険者だ。と言っても今はソード・ノヴァエラという開拓地に拠点を移している。ちなみに先日、魔物の取り分について口論になり彼女にフラれてしまった。今のところ、楽しみといったらツレと酒場に行くことと、冒険者ギルドの見目麗しい受付嬢と会話することくらいだ。


 ソード・ノヴァエラ地方の魔物はとても強く辺境にあるため中々訪れ辛い。しかし、それを補って余りあるほど実入りが良いのが魅力な場所だ。そして、武器防具屋は領主自らが施策を進めているおかげか、販売されている武器も冒険者も王都で大枚はたいて買える武器よりもずっと強く質が良いことでも有名だ。かく言う俺も、ラグナ重工という武具メーカーの大ファンで、ラグナ重工の大剣を頼りにDランクまで上り詰めたのだ。


 そんな俺は今日も何時ものように狩りに出かけ、はぐれオーク、グリックの幼体を2匹討伐した。ラグナ重工の製品に買い替える以前の武器や防具じゃ考えられない成果だ。


 前の狩りよりもずっと大漁な結果に少しだけ満足している。この戦果であれば希少品となったイエティ肉も食えるかもしれないし、意中の受付嬢に振り向いてもらえるかもしれない。…さっそくギルドに帰ろうかな


 俺はギルドで無料貸出されている専用の手押し車に魔物を入れて町へと凱旋した。


 もう夕方だというのに、俺の他にも手押し車を引いている冒険者がわんさかいる。門前では商人や冒険者がごった返していた。まいどのことだが、日に日に増える人、人、人……すごい人数だ。入り口付近に重要施設が揃っているから仕方がないが。


 そんな町の入り口は、全てを受け入れるように広く設計されていて、たとえドラゴンのような大型の魔物でも容易く搬入しやすいようになっている。手押し車の貸出もそうだが、こういった細かな気遣いがあって、この町はとても好きだ。他の都市じゃ魔物引きずって帰るなんざザラにあったからな。娯楽施設が少ないのはちょっと残念だが、領主が冒険者上がりという話もあってか、冒険者にとって過ごしやすい町に開拓されつつある。最も、ドラゴンなんて討伐できるのは一部の英雄のみだ。俺が心配することじゃないが。…この町で滞在する実力者でも、大型はパーティーを組んで戦うだろうさ。


 この町で最も実力が高い冒険者といえば3名ほど有名なのがいるが、俺は専ら赤のラグナーさんを推している。何時か彼のように強く逞しい冒険者として大成したいところだ。この間なんか、マチルダさん、オーメルさんというビッグネームドたちでパーティーを組んで大型の魔物を討伐していた。町の自警団の力も借りて大型の魔物を引き、彼らが町に凱旋したときなんかすごい歓声だったな。…俺もいつか……なんて考えは甘いのだろうか?


 俺は自分の手押し車に入っているオークとグリックの死体を暫く眺めて、ため息をついた。…上を見上げるとキリがないな。


 「ふう……さて、冒険者ギルドへ向かうか…」


 人口密度が過多な入り口を通り過ぎ、いつもの冒険者ギルドに到着。ギルド横に併設されている魔物搬入口で職員に札と魔物を交換して建物に入った。この魔物専用の搬入口も領主の考案らしい。俺たちにとっても助かる仕組みで、受付と切り分けて札で管理することによって、ギルドの中を清潔に保ちつつ獲物の精算でごたつくことが無いという仕組みなのだ。ストレスが無くて気に入っている。


 ギルドには通称のような名前が存在するが、このギルドは新設ということもあってか、まだ名前の看板は出ていない。新築独特の香りと酒の匂いが混ざったような香りが入り混じっている。ピカピカなカウンター越しに受付嬢が笑顔で控えめに手をふって出迎えてくれた。…こ、これが癒やしなのだ!!うぉおおん、今行くぞ受付嬢ちゃん!


 札を受付まで持っていって、個人的に狙いをつけている受付嬢へ戦果を自慢する


 「お嬢ちゃん、これ討伐札ね。いや~それにしても今日も美人だね。俺な…今日は、オークを討伐したんだけどさ…この金で今晩―」


 「あ~!すごいですね!そうなんですね!へー!!あ、札はたしかにお預かりしました。では、席でお待ち下さいね!次の方どうぞー!」


 「あっ……はい」


 俺が口下手なせいか、それとも見目麗しい受付嬢は軟派に慣れているのか。かる~く流されてしまった。俺を押しのけるように次の剣士が札を渡し、俺と同じように戦果とディナーのお誘いを始め、同じ末路を辿る…ま、いつもの事なんだが……っく!!!受付嬢ちゃん!そりゃないぜ…


 やけに座り心地のよい椅子に腰掛け、やけに重苦しい気持ちで事務処理を待っていると


 「よぉ!ジェームス!今日もフラれてやがったな!」


 如何にも陽気で活発なイメージが連想できる、短髪で笑顔が光る男が声をかけてくる。俺の昔ながらのツレであるトゥーマスだ


 「トゥーマス…お前か」


 屈託のない爽やかスマイルで俺の背中をバシンと叩き横に座る。悪気がないのは分かるが相変わらずの奴である。俺の様子を察してくれないのだろうか。


 「お前、今日はこの後ヒマか?いや、ヒマだろうな!さっきフラれてやがったしな!」


 大声で話始めるものだから周りに座っている連中が可哀想なものを見る目で見てくる


 「ほっとけ!このやろ!てかこの場でそれ言うのか!この!」


 俺は怒りの拳を振るう


 「おっとぅ…!あぶねーあぶねー!」


 とらえどころのない動きでかわされてしまった。…気に食わんやつめ


 舌打ちして椅子に座り直す。


 「で…どうなんだ?ヒマだよな?」


 学習していない動物のように顔を近づけてくる。そのまま殴りたい気持ちを抑える。こいつは昔からこうなんだ。もう割り切ろう


 「あぁ、ひまだよ!いちいち聞いてんじゃねえ!」


 目の前の靄を払うように手をふる


 俺の動きなど気にも介さず、それを聞いてか満面の笑みを浮かべたトゥーマスは


 「だよな!それなら行こうぜ…!今日、行くんだよ」


 はぁ?こいつは何を言っているんだ


 「行くったってどこだよ。お前と狩りなんざ御免だぞ。それに今日の狩りは終わった」


 トゥーマスは手を何度も顔の前で振って顔をしかめた


 「ちげーちげーよ!お前ほんっとうに…流行に疎いのな……」


 「だからほっとけ!」


 ムカつく顔面にパンチをお見舞いするが、やっぱりかわされた


 トゥーマスは気にせず話を続ける


 「っとと…今日、実は例の店がオープンすんだよ。お前も絶対に来い…というか連れていくぞ」


 「はぁ?例の店?女遊びか?それとも飲食店か?新しい武具屋か?俺はラグナ重工のメーカーしか買わないぞ。お前がミラージュのメーカー品しか買わないようにな」


 「どれも違う、というか全く新しい店だ…聞いて驚け……その名も……カジノォオオオ~!」


 トゥーマスはギルドの待合室で拳をかちあげて無関係な者の注目を独り占めにする


 「うっせえ!やめろ!他の客の迷惑だろ!」


 「…お前の声も十分うるさいけどな。まぁいい、カジノだよカジノ!!店の周りは開店数日前から綺羅びやかに輝き、夜を昼に変えるほど明るく照らす無数の光源!全てを誘惑するような何か、絶対に何か面白いことがあるに決まっているだろう!!」


 やけに芝居かかった身振り手振りで、注目を浴び続けるトゥーマスは即興の宣教師のように言い聞かせ始めた


 …そういえば噂には聞いたことがある。彼女も行きたがっていたっけな。それが今日開店するってのか。まぁ、俺も気にならないと言えば…嘘にはなるが


 「そのカジノとやらは…何があるんだよ」


 トゥーマスは、チッチッチッと指をふって


 「夢…だよ!」


 なんて言うもんだから追加で拳をお見舞いする。やっぱり避けられる


 「ふざけてんのか!真面目に答えろ!」


 「っとと…あぶねーな!俺は至って真面目だ。あそこには夢がある…オープン日が決まってからも毎日のように店の外観を見るために人が集まってくる。情報屋のツテでは、どうやらあそこは賭け事をする場らしい」


 …なんだ、ただの賭けか。どうせ闘技だろう。ははぁ~ん、あの光り輝く建物は内容のショボさを包み隠すためのハッタリってか


 「ふん…闘技場の類か?くだらないな。人の生き死を賭けるのは好きじゃない。明日は我が身である冒険者としては、闘技場で食いつなぐ闘士も他人事に思えねえ。そんなもん見ても楽しくはねえな。それはお前も同じはずだろうが」


 トゥーマスは、やれやれ!といった仕草を見せる。いちいち鼻につく動きしやがる


 「お前はな~~~んも分かってないな!な~~~んも!」


 「てめぇもだろ…ニ回言うな!」


 「なんでもその情報屋いわく、世界で一番新しい賭けのスタイル。安心安全をモットーに楽しい場を提供するなんて話だ」


 「なんだと?」


 「俺たちが見たことも聞いたこともない賭けがそこにあるらしい。しかも…ここだけの話」


 トゥーマスが顔を近づけてくる。


 「顔が近いぞ。気持ちが悪いぞ」


 「…ここだけの話、賭けの景品は金だけじゃねえんだと」


 顔を突き放そうとした手が自然と止まる


 「どういうことだよ…?」


 俺も自然とヒソヒソ声だ


 「今上がっている情報だと、ソード・ノヴァエラ公認武具屋提供の、完全フルカスタムメイドのウェポンなんかもあるらしい」


 俺は思わず立ち上がって大声で確認してしまった


 「だにぃ!?完全フルカスタムメイドの武器だとぉおおお!?」


 「っし!声がでけぇって!」


 俺の声に成り行きを半ば見ていた周りの冒険者たちもソワソワしだした。


 「おい、今の聞いたか…?」「あぁ、普通じゃ手に届かない武具だよな。冒険者ランクも必要だし」「カジの…だったかあ?そこ行きゃ貰えんのかよ」「ばっか、お前賭けって言ってただろう。勝たなきゃ貰えねぇよ」


 周りのソワソワ具合に「やってくれたなぁ!」という顔で見てくるトゥーマス。でもちょっと楽しそうだ


 「ジェームス!お前なぁ」


 「す、すまねぇ…」


 だって驚くのも仕方がないだろう。この町で受注生産される完全フルカスタムメイドの武具は、かの赤のラグナー、青のマチルダ、黄のオーメルが所有する…超がつく高性能武具だ。これ見よがしに武具屋のマークが彫られていて、見た目も最高な上に性能も数打ちと段違い。今の所その3名くらいしか持ってない。金があれば買えるわけでもないし、冒険者ギルドのランクだけ高くても買えない。どちらの条件も満たした者だけが身につけることを許された…まさに冒険者間では『見える伝説』…レジェンダリーウェポンとして語られているほど


 ずっと縁がないと思っていたところに、1%でも可能性があったと知ったらそりゃ飛びつかずにはいられないだろう。それが冒険者なのだから。


 トゥーマスは更にもうひとつ付け加えてきた


 「それとな…もうひとつ、景品の情報ってのがあんだよ」


 「な…!?まだあるのか!一体それは…?」


 ごくりと息をのみ、トゥーマスから語られる真言を座して待つ


 いつの間にか周りには冒険者も聞き耳を立てて集まってきているがそんなのもうどうでもいい


 「こ、これに見合うほどの景品が、まだあるってのかよ」


 トゥーマスはゆっくりと頷く


 「あぁ…あるぜ、それはな……」


 「それは…?」(冒険者一同声を揃える)


 トゥーマスはスタイリッシュな動きで冒険者ギルドのカウンターに指をさす


 「受付嬢とのデート権だぁあああ!」


 「よしゃ行くぞお前らあああああああああああああ!!!!」


 「うぉおおおおお!!!」「ほおおおお~!!!」「きいいい~~~!!」「武器の方がぐぺぇ」


 神は存在していた!


 見ず知らずの居合わせ冒険者共と拳を振り上げ謎の勝鬨を上げた


 俺は直ぐ様カウンターで精算を済ませ(受付嬢へのウィンクは忘れず)今日の稼ぎを全て腰にひっさげる。若干引き気味なトゥーマスを皆で無理やり担いでカジノとやらに向かった


 男共の嵐のような動きは周囲を巻き込んで熱気を上げていく


 そして、ギルド内でダラダラしていた冒険者は全員消え、建物内に残ったのはポカンとした表情の受付嬢だけだ。


 そして受付嬢は独り言を呟く


 「はぁ…私とのデートが景品って…。安全は約束してくれたし、ご領主様たってのお願いだから仕方なく受けたけど…特別手当、本当に出してくれるのかしら?」


 男共の色目はどこゆく風か、なんともクールな受付嬢だった


 ・・・



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