領主編 58話
カジノのメインウェポン…になる予定のからくり。今日はその試作品が出来上がったと連絡があった。この世界に存在しないであろう概念を断片的ではあるが、こんなにも早く理解し、形にしてしまうのだからさすがの二人である。
さっそくイミスとガルダインの仕事場へ直行すると、既にそのからくりは鎮座していた。大きく3つに区切られた絵柄を表示するスペース。絵柄の下には同じく3つの対応したボタン。大きなレバーに、音声を流すための穴もしっかりと作られる。
…そう、これがカジノ計画のメインウェポン……いわゆるスロットを模したものである。
ガルダインとイミスは俺の姿を確認すると待ちわびた様子で歩み寄る
「フン…遅いぞ」「サトルく~ん!設計通りに作ってみたよ!どうかな…?」
「想定よりずっと早かったね。本当に数日で仕上げてしまうなんて…」
ガルダインは自慢気に鼻を鳴らす
「フン…誰に言っておるのじゃ」
「ねぇねぇ、これをどう使うの!昨日から気になって全然寝れなかったの」
「まぁまぁ、今から見せるから…」
イミスをなだめつつ、スロットの前にある簡易的な椅子に座りレバーを回す
設計通り、軽快に絵柄が回り始めた。これの仕組みは簡単だ。このスロットの大部分はイミスの特性ゴーレムの駆動によって成り立っている。イミスが武器型や防具型のゴーレムを製作した段階で、俺は人形である必要はないという可能性を感じ取っていた。これが予想通りに働いたのだ。絵柄を回すだけのゴーレム、レバーを作用させるだけのゴーレム、ボタンを機能させるだけのゴーレム。それぞれのゴーレムが独立し、ひとつの「機械のようなもの」を一部だけ再現してみせたのだ
「よしよし…設計通りならこれは」
俺はスロットもどきの上部フタを開けて、ポケットマネーを詰め込んだ
「これでよし、イミスさん。テストしたときと同じように回してみてくれ」
「うん!わかった!」
イミスが元気よくスロットもどきを回す。何回か絵柄を外すが、タイミングよくひとつの絵柄が揃った
そのタイミングで絵柄の下に配置された受け皿へ俺が先程仕込んだ幾つかの金貨が出てきた
「わわ!?金貨が出てきたよ!?もしかしてあの駆動ってこういうことだったのかな!?…ということは、絵柄を揃えれば揃えるほどお金が増える…!?」
「ウム…これは、そうか…そういうことか!!ガハハ、サトルめ、やりよるわい」
…そう。そういうことだ。さすがは二人だ。たったこれだけの情報だけで、スロットもどきでやりたいことが伝わってしまった。ハイスペックなクラフトマイスターである
テストをさせたイミスは夢中になって回しまくっている…
「すごいすごい!これで今日の昼は贅沢できるね!?なにこれ~楽しい~~!」
「わ、わしも少しさせてもらえんかの…」
「うん!いいよ~!お金稼ぎ放題だよ!」
「製作者冥利に尽きるわい!」
…いや、お二人さんや、それ俺のポケットマネーなんだけどね!?
「ゴホン……まぁ、これは試作品だから実際は商売が成り立つ程度にやり方を決めるつもりだよ。それと、やってて思ったけど、当たったときの音であったり、音楽をゴーレムに記憶させて、特定のタイミングで流すようにするともっと良いかもしれない。具体的には……」
「いけ!その絵柄!一番高いやつだよ!」「ウム…ここじゃ!」
バシンと勢いよくボタンを叩きつけるガルダイン
二人は超エキサイティングしており、俺の話を全く聞いていなかった!!
「あの~もしも~し……」
「ぬわあああ!?だめじゃああ!」「もう一回!もう一回やればいけるかも!」
ガルダインがこんなに興奮するなんて、これはある意味で、これ以上にない成功だったのではないだろうか。
「…まぁ、二人が楽しんでくれるなら成功ということで」
俺のポケットマネーが無くなるまで回しまくっている二人を、微笑ましく観察する時間が流れたのであった




