領主編 57話
「…かじの?」
カルミアは首をかしげる
…この世界にはまだカジノが無いのかもしれないぞ。そうであれば、更に期待ができる
「聞いたことはないかい?早い話、色々な賭け事を提供する場だ。お客さんは好きな賭け事に没頭するもよし、遊び終わったらくつろいでもらうもよし…そんな場を作る」
「私の知る限り、賭け事は喧嘩や死合いだけ。どちらかが勝つのか、生き残るかを皆で賭けるのよ。…まさか、捕まえた賊同士にでも戦わせる気?」
やはり、この世界では人の生き死や勝敗を賭けるものの印象が強いようだ。だからこそ、まだまだ発展の余地があるジャンルと言えるな
「そんな危険なものじゃない。それに、俺は人の生き死を娯楽にするのは反対だよ。俺が描いている賭け事は、誰にでもできるもので、楽しむことが目的だ。人が傷つけ合うような仕組みは必要ない」
カルミアは、う~んっと唸る。どうやら概念が無い分イメージとして伝わり辛いところがあるようだ。…それにしても悩む姿も可愛らしい
「まぁ、まずは実物を見てもらうのが早いだろう。すぐに出来るかは分からないけど、簡単な設計書…(といっても落書きレベルだけどな…)これをもってイミスさんに頼んでみるよ。カルミアさんも行こう」
俺は設計書を脇にかかえ、カルミアの手を引っ張って家を出た
「う、うん…」
カルミアは手を握り返し、少し遅れて歩幅をあわせた
・・
イミスは普段、俺が用意させた鍛冶場兼、実験場にてゴーレムの設計や開発に殆どの時間を使っている。本人としてもそれが本懐と言うほどにのめり込むので、時偶に食事を忘れてしまうほど。
今は絶賛、イミスの相棒創りに精を出しているようで、すっかり仕事の相棒的立ち位置になったガルダインと、あーでもないとゴーレムを弄くりまわしているところだった。イミスの相棒となる新型ゴーレム創りは難航していると言っていたが、見た目は良い感じに完成に近づいているように見える
「イミスさん、頑張っているね。ガルダインさんも、お疲れ様です」
俺が手をふると、イミスは笑顔で手を振り返す。ガルダインは腰に手をあててフンと鼻息を鳴らす
「フン…わしはイミス嬢ちゃんのオマケか?」
「そ、そんなつもりないですよ…」
ガルダインは不機嫌そうに横目で見てくる
…まさか、おっさんドワーフのツンデレ!?需要が無い気がする!
「ねぇねぇ!今日はどうしたの!サトルくんから遊びに来てくれるなんて珍しいよね!?ウチ、とっても嬉しいなぁ~!」
イミスは俺の手を握ってぶんぶんする。これはイミス流の嬉しいときによくやるやつだ。欠点は俺がぐわんぐわんに目を回すことくらいか
「あ、あぁ…俺も、嬉しいよ。今日は…うぇっぷ…設計書を持ってきた。例の…カジノ計画だ」
激しく揺れ動く視界のなか、どうにか彼女へ設計書を手渡すとイミスはピタリとぶんぶんするのをやめて設計書を読み始める。その表情はにこやかであった先程とは別人とも見紛う程
イミスは何時だって努力を続け、研究や勉強を怠ることがない。新しい技術やゴーレムに関する知識への探究は、真剣そのものだ。
「ふんふんふん……!?…でもってこれがあーなって…むむ!?…これは、ウチだけじゃ難しいね。ガルダインにも手伝いをお願いしないと…量産も、現状は厳しいと思う」
イミスはガルダインに設計書を見せる
「フム……なんじゃこれは!?絵柄が回って…揃って…ゴーレムの駆動を使って…こんなガラクタを作って何がしたいのじゃ?」
ガルダインは奇っ怪なものを見る目で設計書を顔から遠ざける
…まぁ、最初から受け入れてもらえるとは思っていない
「大丈夫、量産は必要ないよ。これは販売するものじゃなくて、遊ぶために設置するものだからね」
「…よくわからんわい」
「でも、サトルくんが持ってきてくれたこれには、ウチたちが知らない世界を見せてくれそうな気がする。ウチも正直、これが何なのかよく分からない。でも、なんだか新しい知識になりそう…もしかしたらゴーレムにも活かせるものかも。やってみる価値はあるんじゃないかな?ね!そう思うよね!?」
イミスが情熱を込め、まくし立てるようにガルダインに詰め寄ると、ガルダインは勘弁するように両手をあげた
「わかったわかった!…全く、嬢ちゃんが言うなら仕方がない。サトル、数日くれ。それまでに試作を仕上げておこう」
「ありがとう!イミスさん、ガルダインさん!」