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領主編 56話


 無事に戴冠式も終了し、アイリスらも数日の休暇後、自領に戻っていった。早速、俺の開拓地…ソード・ノヴァエラへの物資提供と、国王への対応を進めてくれるようだ。


 全力で支援してくれることを決意したアイリスのためにも、俺だって負けてはいられない。新たな土地の正式な領主として、またデオスフィアを持つ隣国への対抗策として領土の発展を急ぐつもりだ。正式な領主としての記念すべき最初のお仕事は、短期間での兵力強化として見据えている。目指すは一騎当千の強者…


 しかし、兵力の強化をする上で、我が領にひとつの大きな課題があることに気がついてしまったのだ。それは…


 「お、お金がなぁぁぁいいっ!!」


 俺は誰も居ないリビングで、山のような収支報告の資料を撒き散らしながら絶望した


 …そう、お金が無いのである。


 もちろん、武具屋の売上はこの上ない程に好調だし?その武具屋で広告塔となってくれている3人は獅子奮迅の働きを見せているし?既に町レベルとなった開拓地の発展具合は留まることを知らないほど順風満帆だ。冒険者ギルドの誘致と設営も完了し、今は仮のギルドマスター主導のもとギルドが本格的に稼働し、ソード・ノヴァエラを拠点とする冒険者の定住も現実的なラインになってきた。有り体にいって町の成長速度はとても早いと言える。そう、とてもとても早い。


 しかしそれは…裏を返せば、発展以外に回せる金と時間の余裕が無い状況とも言えるのだ。ギルドや武具屋で生まれた利益はすべて町を発展させるための資金に回している。仮に、町のへの投資をおろそかにして資金を兵站に回せば、表面上の兵力強化はうまくいくだろう。しかし、それではせっかく軌道に乗せた商業をすべて潰してしまいかねないのだ。発展に使用する資金は絶対に手をつけられない。軌道に乗せたら、落とさないことが重要になるからだ。


 だから兵に回すお金が無いのである。


 「どこからも切り崩せる金がなあい!俺の懐でどうにかなるレベルでもない…あぁ、あちらこちらと手を出せば何処かが手につかなくなる状況をなんとかせねば…!」


 目下の問題は兵力を強化するための装備一式と定期的なメンテナンス、防衛施設、トレーニングのための器具や魔物と定期的に訓練を重ねることができる仕組み作り。考えるだけで山積み…金は幾らあっても足りない


 必要なのは、目標達成に向けた、新たな資金練りである


 「ふふふ…こうなったらやるしかないな!?あれを!」


 俺は誰も居ないことを3回ほど確認して自分の部屋に駆け足で戻る


 鍵付きの引き出しにポケットに入っていたカギをあてがい解錠し、中から『オペレーションβ 極秘』と書かれたメモを取り出し、天に掲げ決めポーズまでとってみる


 「オペレーションベータ!始動だ!ふはは…この叡智を以て、すべてを好転させてみせるっ!」


 これには俺が温めていた計画の一部が記されている。自分の身に何かあっても良いように、ある程度は方針と対策を書き記してあるのだ。…まぁ、そんなことは起きないに越したことはないし、あまり考えたくないことでもあるのだが


 気持ちを切り替えるときは、こうして大げさな動作と宣言をする。もちろん、恥ずかしいので誰も居ないのを確認する。一種のルーティンってやつだな


 「…なにそれ?」


 誰も居ないはずの部屋から美女の声が…!?


 「ぬわあああ!?」


 俺は格好つけた姿勢で驚き勢いよくぶっ倒れた。視界にはカルミアが!?


 「カルミアさん!?さ、3回も確認したのに…いつからそこに!?」


 「……さ、叫ぶ前?」


 カルミアは気を使ってかバツが悪そうに答えた。しかし叫ぶ前と知っている時点で叫んでいるときには既にいたことになる。これは恥ずかしい


 …というより、なんで疑問形なんだよ。優しさで溢れているよ…やめておくれ……


 俺は気持ちを切り替えるため、何事も無かったかのように振る舞った


 「実は、現状のソード・ノヴァエラでは兵力に回せるほどの資金の余力がない」


 カルミアは頷く


 「うん…お金がないって、叫んでいたわね」


 …いや、聞いていたのはそこからかい!?優しいね!?ずっと見守っていたんだね!?本当にありがとう!


 俺は心の叫びを圧し殺して平然なフリをした


 「そそ、そうなんだよ。だからここに記した新たな資金練りの施策を、ここ…ソード・ノヴァエラで展開したいと思っている。想定では、これがうまくいけば兵力だけではない、他インフラが整う基盤にもなり得るんだ」


 人差し指を立て、部屋の隅から隅へと練り歩く。プレゼンテーション中は歩くと考えがまとまるのだ


 カルミアはそんな俺を目だけて追って薄い反応を示した


 「ふーん……その施策って何?」


 よくぞ聞いてくれましたと言いたい


 俺は歩行をピタリと止めて、カルミアに振り返り人差し指を突き出した


 「それはね……カジノだよ!」






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