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30話


ふなばたを叩く音が響く。ハゲのおっさんから道具を手渡された俺たちは、すぐに船へと乗り込み海へと繰り出した。残念ながら、大型の船も魔道具による推進機構も高価らしく、一般の漁師には手が出ないものらしい。という訳で致し方なく、一人と荷物が入る程度の小舟を人数分用意して、人力で漕ぎ続けているのだ。


「はァ~…サトルゥ~…疲れたよォ~!」


「…まだ半刻も漕いでないわ。サリーはもうちょっと体力をつけないと」


サリーがぼやくがカルミアがサリーの横について励ます。


「おう、海の男ならこんなことで根を上げちゃならねぇな!そろそろ着くから我慢しな!」


ハゲのおっさんは自身の頭をリズミカルに叩いてこちらを煽ってくる。その動きやめろ。そして根を上げているサリーは女性だぞ!俺は心のツッコミを具現化しないように堪えながら言う通り、更に半刻漕ぎ続けた。すると、不自然なほど波が緩やかなポイントまでやってきた。


「おう…ここだ。今からここで釣る。魔道具があれば網でも良いが、専用の餌を使えば傷が少なくて良い魚が手に入る」


おっさんは慣れた手付きで餌を釣り竿につけて、海へとキャスティング。小気味よい音と共にルアーが落下する。すると数分で浮きが沈み、竿が激しく振動する。


「おう!!きたぞぉ~。ここでは…なっとと、この餌であれば数分で入れ食いになんだよ。よおっと!!」


おっさんは渾身のドヤ顔で片手を腰に、もう片方の手で釣り上げた魚を見せつける。その魚は、まさしくランスフィッシュ!白銀の槍と見まごうその姿は、陽光に反射して身をバタつかせている。美味しそう。


「なるほど…よぉし、俺たちもやってみよう」


おっさんに習って、俺たちも各々が釣り糸を垂らす。すると本当にその通り数分で一匹、また一匹と釣り上げることができた。


「カルミア、サリー、見てみろ! 簡単に釣れたぞ!」


「…サトル、すごいね」


「アタシも負けないぞォ!」


カルミアは、一旦手を止めて笑顔で拍手をしてくれた。サリーは負けじと釣りまくる。しかし…こんなにも簡単に短いインターバルで釣れてしまうと拍子抜けを飛び越えて楽しくなってくる。こいつらが俺たちの今日のご飯だと思うと更に気合いが入る。


 それからしばらくの間は釣り続けて、小舟に乗らないほど釣ったかな?というタイミングで、フィッシングライバルに認定したサリーの戦績を確かめる。…積んである魚の量的に、どうやら俺のほうが一割ほど多く釣っているのが分かった。


「サリー!大したことないな!今回は俺の勝ちみたいだ~!」


少し声を張って威張ってみる。普段から二人には色々負けっぱなしなのでこういうタイミングぐらいでしかマウンティングできないからだ…!ふふふ、大人げないかね?サリーは悔しそうに顔を歪める。意外と負けず嫌いなのかもしれない。


「うぐゥ…サトルぅ~!そんなこと言ってェ!! …あっ良いこと思いついタ!」


サリーは余程悔しかったのか、クォータースタッフを取り出し、餌に魔法を唱える。


「エンラージ・マテリアル!」


すると餌は小指サイズから、どんどん大きくなって手の平サイズまで巨大化した。ボトンと重々しい音と共に釣り竿がしなる。…そんなサイズの餌、ランスフィッシュは食いつけない気がするんだが。…でも、顔を真っ赤にして釣り竿を睨みつけるサリーが可愛かったので、そのままにしておくことにした。どうせ何も釣れないだろうし。勝利の余韻に浸っていると、サリーの釣り竿が激しく揺さぶられる!物凄く強い引きだ。


「ささ、サトルゥ~!! 何かキタよォ~! …んぐぐ…手伝ってェ~!」


「まずい!カルミアさん!」


このままだと釣り竿ごとサリーは持っていかれるだろう。俺はカルミアへアイコンタクトを送り、勢いよく海へと飛び込んだ。カルミアもそれに続いて飛び込み、すぐにサリーの小舟に到着。持っていかれそうなサリーを支えつつ、三人で釣り竿を引っ張る。だが、釣り竿が重すぎてうまく持ち上がらない。


「おう!…まさか本当に来やがったか」


そこにおっさんもやってきて四人VS一匹の綱引きが行われる。勝負の行方はしばらく拮抗していたが、魚のほうが観念したのか、激しい水しぶきをあげながらその姿を顕にした。何故かそれは重力を無視するように空中に浮かびあがったまま静止し、こちらを睨みつけている。あぁ…これはイケナイものを釣ってしまったかな…?


「グェエエエエ!」


その姿は、ランスフィッシュだった。ただしサイズがとんでもない大きさだ。本来はキーボードサイズ程度のランスフィッシュなのだが、こいつはヒューマン三人分ほどの体長にもなる巨体だ…そして空中を泳いでいる。一度海水からあがったランスフィッシュは硬質化するが、こいつは硬質化しているにも関わらず、魚らしい柔軟な動きで威嚇してきている。水に戻る気配はない…おっさんは震え上がって口を開いた。


「こここ…こいつは三十年に一度現れるという、ランスフィッシュのヌシ……出会った者を鋭い口で残らず串刺しにしてしまうという悪魔だ…俺たちは、もうおしまいだっ!」


おっさんは大声で泣き始めてしまった。おっさん…強そうなのは見た目だけだったのか…!もう、頼りになるのはカルミアとサリーくらいだ。


「カ、カルミアさん…サリーさん…畳んでしまいなさいっ」


「サトル…めちゃくちゃ言わないで」


「見たかァ!サトルゥ!これでこの勝負はアタシの勝ちだァ~アッハッハ!」


「サリーさん…そんなこと言ってる場合じゃないよ…」


「うおおおおおん!」


混乱した四人を待つこともなく、ビッグランスフィッシュは小舟めがけて猛烈な勢いで突撃してきた。


「グエエエエエ!」


「…!危ない!」


カルミアが抜刀してランスフィッシュの口を逸らすと、魚は勢い余って水面へ突っ込む。直後に水面からまた空中へと飛び上がって、空を泳ぎ始めた。


「…ぐ、なんて威力なの。直撃したら間違いなく死ぬ…サトル、防げてあと数回よ」


「なんだって!?」


バチバチモードのカルミアであっても、防げたとしてあと数回程度の威力を持つ突撃…。強敵だ。このままではジリ貧だが何か手はないだろうか?


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