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領主編 53話


 「全く、お前は何時も私を楽しませてくれるんだな…?」


 狩猟する狼を連想させるような、凶暴な笑みのアイリス。それもそのはず、先程の戴冠式では寛大にやらかしてしまったからだ。まさか俺自身が無意識に能力を発動させたうえに、クラスアップしてしまうとは…


 「も、申し訳ないです…」


 戴冠式はアイリスのフォローもあり無事に閉幕。少しトラブルがあったものの、措定外のクラスアップ時に発生した光は、神の啓示や祝福として有耶無耶にした。…そして今は俺の住居、リビングにアイリスとパーティー全員を迎え入れている


 アイリスはどこからともなく酒を取り出し、盛大にあおった


 「ぷはぁ~!…やっぱり仕事の後はこれだな。これしかない。…ひとまずは戴冠式、お疲れ様。そしてサトル、おめでとうと言わせてくれ」


 残り少ない酒瓶を掲げて祝ってくれた


 「ありがとうございます。おかげでどうにか形になりましたよ」


 アイリスがいなかったらどうなっていたことやら…


 「可愛いサトルのためだ。構わないさ、それに…よくもまぁこんな短期間で町に匹敵するほどに大きく発展させたものだ!一体どんな手品を使ったのだ?いや、手品ですらこのような芸当は不可能だ。私はてっきり何もない野原と積み上げられた木材の上で、小さな戴冠式をするものだと思っていたぞ?他の領主はそんなものだろうし。…ククク。本当に面白いな」


 「俺一人の力では到底、ここまで実現できませんでしたよ。ドワーフやエルフの皆、冒険者や商人が新しいチャンスを求めて遠路はるばる来てくれました。そこからは助け合いでどうにかなっています」


 「そうか…なるほどな。当主がその気概であれば、今後の発展も問題ないだろう。何か困ったことがあれば私に言え、お付き合いと対価に…領主の先輩たるお姉さんが、クク…なんでもしてあげる…」


 少し色気のあるような声で笑うアイリス


 「た、頼りにしています」


 カルミアはムっとした顔で咳払いした。その様子にやれやれと手を返すアイリスは話題を変えた。恐らく、一番聞きたかったことだろう


 「それで…先の光は何なのだ?サトルく~ん?君の能力なのだろう?」


 アイリスは状況を愉しんでいるのか、ニヤニヤしながら詰め寄ってくる


 …もはや隠しきれるものでもないだろう。丁度いい、皆にも俺の能力のことを知ってもらう良い機会だ


 「説明します…実は―」


 俺自身が知っている範囲で自分の能力のことを伝えた


 意外にも、皆は驚く様子もなく、俺の話す内容を受け入れている。パーティーメンバーに関しては最初から分かっていたような雰囲気すら感じた


 アイリスは少し考え込み


 「概ね合点がいった。君の周りに集まるすべての人間が、不自然なまでに化物じみて強いところも含めてな」


 パーティーメンバーへ目配せし、話を続ける


 「本来、君が言うところの能力…クラスチェンジ、だったか。君自身が自覚しているかどうかは分からないが、それは…この世界の理を変えてしまうほどの力だ。…そうだな『クラス適正持ち』という言葉は聞いたことがあるだろう」


 「はい、何度か聞いたことがあります」


 …アイリスの館に転生したとき、盗賊共が言っていたっけな


 「そうか。それなら知っているとは思うが、特別な力を持つものや、人よりも秀でた能力を持つ者をそう呼んでいる。身近な存在で言えば……サトルくん、君の仲間であるカルミアの故郷は、メイガスの民といって、シールドウェストでは有名な『クラス適正持ち』の集団だ」


 カルミアはひとつ頷く


 「…そう。私を除いて、メイガスの民すべてが強い魔力を生まれながらにして持っている。持たざる者は、追い出されるだけ。今までも、これからも」


 アイリスは少し複雑な表情を見せるが、すぐに持ち直して話を続けた


 「そうだ。そしてそれは、基本的に覆ることはない…。カルミアの例だけではない。国内の権力争いや仕事や生活に至るまで、その不条理は逃げ場が無いほどに罷り通っている。それがこの世の理だからだ。生まれながらの能力やクラスは、やがて努力では追いつけないほどの差になり、それは時間が経つごとに顕著に現れる。それが当たり前だと子供の頃から言い聞かせられ、そんなものだろうと折り合いをつけて皆が生きている。私は努力を怠ったことは無いし、だからこそ勝ち取れるものもあった。それでも、手が届かない存在やクラス適正という現実によって、理不尽にねじ伏せられたことは数え切れないほどある」


 アイリスもクラス適正持ち…ということか。そして、そのしがらみも良く知っていると


 「君の力は、そんな当たり前をよくも悪くも全てを破壊し、変えてしまうだろう。…力を使うなとは言わない。それは君に備わった君だけの能力だ。ただ、力を使うとき、その意味を正しく知っておいてほしい…そのことは、決して忘れないでくれ」


 「…分かりました」


 アイリスは一息ついて


 「それと…今日ここでサトルが話をした内容は、他言無用だ。サトル、分かっているとは思うが…仮に力を行使しても、その内容までを知られることは許されない。それは君自身を守ることにもつながる。ゆめゆめ忘れることが無いように」


 「…分かっています」


 「そうか、それなら良い」


 ・・・


 しばらく俺の能力についてすり合わせる時間が続き、話題は例の石の件になった


 

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