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領主編 47話


 俺たちは『本物』の冒険者ギルドの監査官を酒場に迎え、事情を説明していた。監査官は優しそうな男性で、清潔感のある服に胸には鳥の紋章のようなマークがついている。場が場だけに監査官だけちょっと浮いている感は否めない。…いい加減、酒場以外でもてなせる場所を作ったほうがいい気がしている。まぁ、飯はめちゃくちゃ美味いからそこは満足しているのだが……。


 「―ということがあって、今まで『偽』の監査官を相手にしていたみたいなのです」


 簡単に経緯を説明し、対面に座る監査官に冒険者ギルドの印が入った手紙を差し出した


 監査官は困惑気味ではあるものの、手紙を受け取り驚く


 「これは…間違いなく、本物のギルド印です。一体どうやって……それに、この内容…!?いや、それよりも……」


 監査官は手紙の内容を一通り流し読みを終えると頭を下げた


 「まずは謝罪ですね。この度はご迷惑おかけしました」


 「あ、頭を上げて下さい。貴方がこの一件に関わっているとは思っていません…それに、特に実害は出ていませんし」


 …偽の監査官がこの開拓地でやっていたことと言えば、せいぜい偉そうにふんぞり返るか、豪遊することくらい。町の皆も特にそれ以上の迷惑は受けていない。むしろ、お金をたくさん落としてくれたということで、感謝する店もあるぐらいだ。


 監査官は頭をゆっくりと上げる


 「そう仰っていただけるのであれば……申し訳ございません。ギルドも一枚岩ではないのです。今回のケースのように、ギルドという大きな立場を利用し、各国と癒着して悪事を働く者が…残念ながら一定数いるのは確かで…」


 同じく話を聞いていたカルミアは少し怒っていた


 「サトルを良く思わない者の犯行ってことね」


 監査官は申し訳無さそうに頷く


 「我々、ギルド員の印象を悪くすれば、当然ながら、開拓地に住む人へのイメージダウンにつながります。ギルドとして信用され、町の一部として機能するのが遅れるのは立派な妨害行為……。故に、今回の件はギルドとしても重く受け止めております。サトル様を妨害された、何者かもギルド内部による不正が行われた可能性が高いです。私の管轄でどこまで調べられるかはわかりませんが、犯人の特定を急ぎますので…」


 ひとまず、冒険者ギルドの誘致妨害が、監査官らギルドをまとめる本部の者による総意ではないことが分かった。


 「では、改めてお伺いします。ギルドとしては、この地への誘致には前向きに考えてくれているのですか?」


 監査官は大きく頷き


 「もちろんです。元々、監査とは名ばかりなものです。派遣が決まった時点で誘致は内定しており、訪問については、双方合意しているという最終的な事務手続きの側面が大きいです」


 …よく分からないが大丈夫らしい


 「ではこれにサインを…」


 資料が丁寧に揃えられた鞄から、一枚のスクロールを取り出して広げる監査官。高級感のある紙を、装飾のように飾る複雑な魔法陣に目がいった。ただの契約書には見えない


 「何らかの魔法がかかった契約書…ですか?」


 魔術が刻まれている模様に指をさすと、監査官は表情を緩める


 「おや、初めてご覧になりますか。こちらは契約の魔術…一種の呪いに近い魔術です。呪いとは言っても、悪いイメージに使われる類ではありません。あくまで技術的には近い…というもので、害する用途で使うことはできません。スターリム国で許可された正式の契約魔法ですよ…ただし、コストが大きいので、国や町同士のお約束など、重要な契約でしか使えないのが欠点ですね」


 …普通に暮らしてて、まずお目にかかれない契約書ってことか。何だか領主の仕事をしている気分になってきた。まぁ領主なんだろうけども……いかん、スクロールに目を遠そう


 ざっと見て内容に不審な点はない。冒険者ギルドを誘致することと、ギルドが得た利益の5%は開拓地の町が徴収する。町の問題が発生した際の依頼は割増になるなど細かい規約ははあるものの、総じて妥当だと思える内容だ


 「分かりました。この内容で登録しましょう」


 「サトル様、ありがとうございます。では、ここにサインと血を一滴いただきます」


 監査官は一本だけの剣山のようなアイテムを取り出しスクロールの上に置いた


 俺は承諾し、剣山に指をそっと乗せると自然と血が針を伝ってスクロールへ落ちる。すると、スクロールは赤く光った。それが収まると、監査官は手慣れた動作でスクロールを丸めて紐で縛る


 「はい、これにて契約は完了しました。後日、ギルドから建設のための作業員と職員を送りましょう。何か聞きたいことはありますか?」


 …そういえば、ギルドマスターって誰が務めるのかな


 「建設は、うちのドワーフたちがやってくれるので大丈夫ですよ。それよりも…ギルドマスターは、どなたかが派遣されるのでしょうか?」


 「それが…本来であれば冒険者Aランクであるサトル様にマスターを務めていただくのが、ギルド本部としての見解なのですが、サトル様は既に領主でもあります。そのため…サトル様の代理が見つかるまではギルド本部から、Bランク冒険者の中から仮として斡旋させていただきます。ご容赦くださいね」


 そうか…冒険者ギルドは国に対しては中立でなければならない。俺はスターリムに貴族として所属しているから、ギルドマスターは兼務できないのか


 「分かりました。細かい点は後々確認しましょう。もう一つ…好奇心なのですが……この契約、約束を違えたらどうなるのですか?」


 …一種の呪いってことは、何か怖いことが起こるのかもしれない


 監査官は、俺の表情から不安を悟ると少し怪しい笑みを浮かべた


 「知りたいですか……?」


 「やっぱり遠慮します」



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