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29話


紹介された宿屋で宿泊後、朝一番で新たな仕事を斡旋してくれるまでは良かったのだが、まさかこんなにも早い時間からだとは思わなかった。朝日すらまだ見えず薄暗い…そして大通りは当然人通りが少ない。こんな朝早くからギルドに呼び寄せて、一体何をするのだろうか?


「昨日は(お食事を)お楽しみでしたね?…朝早くから呼び寄せてしまってすみません」


「いえいえ、また美味しい料理をいただくために、しっかりと働きます…ハハハ」


ランスフィッシュは高級魚らしく、食べ過ぎのせいもあるが、昨日の分で金貨三枚も飛んでしまった。こんな生活が十日続いただけで破産しそうだ。なんと罪深い魚なんだろうか。美味しさだけではなく値段まで一級品だったとは。


「こほん…今日サトル様のパーティーに行っていただきたいのは、漁獲のお手伝いです。ターゲットは当然、ランスフィッシュです!丁度今が書き入れ時で、漁獲量も最も多い時期なのですが、人手が足りておらず…冒険者の皆様にお願いしているのですよ。任務完了後に特別なランスフィッシュ料理も振る舞う予定で~す!」


「やります」「…やる」「やっちゃオォ~!」


先程の低テンションが嘘の様に魚三銃士は目つきをキリっとさせて即答した。今回は歩合制になるそうだが依頼金額は全く気にならない…そう、あの味が今日も食べられると思うと誰だって張り切るだろう。騎士の誓いとは何よりも優先されるのだ!


 俺たちは簡単な説明を聞いて、依頼者の元へ向かった。町中を歩いていると、こんな早朝でも漁師と冒険者が打ち合わせをしたり、それぞれの小舟で忙しなく出港前の準備を行っている姿が目に入る。俺たちもその一組という訳だ。この時期は本当に忙しいらしく、冒険者が漁師の手伝いや護衛をすることが多いらしい。


暫く静かな海際の住宅街を歩いていると目的地が見えてきた。


「さて、ここが依頼者の家だね」


海にほど近い木造住宅。一階は小舟や用具を入れるための空間になっている。住居は二階にあるようで、端の階段から上がってノックした。


「おはようございま~す!ギルドから来ました~」


するとすぐにドアは開かれて元気そうなハゲのおっさんが顔を出した。


「おう!手伝いか!?よろしく頼む」


おっさんは自身の頭を二回叩いて扉を閉じた。と思ったらまたすぐに扉を開き、網やら釣具やらを俺たちに手渡してきた。これで釣るということかね?忙しないおっさんである。…しかし、何故自分の頭を叩いたんだ。しかも二回も…突っ込み所しかないぞ。


「すぐに出港するぞ!ついてこい」


 出会い頭の謎すぎる動きで驚いたが、もっと驚いたのはおっさんの見た目である。首から上は普通のヒューマンだが、首から下が青の鱗で覆われており鋭い爪にヒレ。足はガッシリしていて尻尾も逞しく強そうだ。恐らくヒューマンとリザードマンのハーフだろう。こういった亜人種もゲーム上のTRPG上にはよく存在しているが、このケースは非常にレアだ。好奇心が抑えきれず、目的を忘れてルールブックを開き、リザードマンについて確認する。


「すごい、リザードマンのハーフかな…?」


 ハーフのリザードマンという項目は無かったので、かなりレアな種族だろう。リザードマンは爬虫類の人形生物で、強靭な肉体と全身を覆う頑丈な鱗を持つのが最大の特徴だ。体全体の色は個体差が激しく、色や模様に法則性はない。主に沼や水気の多いジャングルなどの湿地を住処としている場合が多く、短い間であれば、水の中でも自在に泳げる水陸両用な存在だ。集落を作り、独自の文化と階級制度で社会を構築していて、文化レベルも知能もヒューマンと大差ないほどに高い。しかし、決まり事や文化を尊重しすぎる傾向があって、閉鎖的な空気感からか他種族と交易や交流をすることは少ないようだ。 冒険者でも屈強な戦士はリザードマンの割合が多い。各村でも一際強い者を村から旅立たせて、富を集落まで持ち帰らせるのが一般的な風習として存在する。実際、冒険者として成功した戦士はリザードマンが多いらしい。言葉は流暢な者もいればカタコトな者もいて個体差が激しい。意外と手先が器用なのか、彼らが作るアクセサリーや木製のお守りは非常に精巧に出来ており、独自の魔力が宿っている場合が多く高値で取引されるそうだ。


…ということはこのおっさんも強いのだろうか…?でも護衛を頼むくらいだから、そうでもないのか?家の下にある幾つもの船は手作り感があり、もしこれを作ったのだとしたら相当手先が器用なのが伺える。水も泳げるなら漁師は天職だろう。


「サトル…いつまで本読んでるの? サリーはもう下に行っちゃったよ」


カルミアが呆れ顔で、俺の釣り竿を持ったまま眼の前に立っていた。わざわざ待ってくれてるのが可愛い。口に出しては言わないけれど…。


「あ!ごめんごめん…つい。今すぐ向かうよ!」


俺は釣り竿をカルミアから回収して漁の準備に取り掛かった。階段から降りると、サリーはおっさんの周りをくるくる回っていて体を調べており、さながら空港の検問のようだ。


「サリーさ~ん、あまり迷惑をかけちゃダメだよ~」


「おォ!なんというコトでしょウ!ハーフリザードマン…初めて見ましタ。そして凄まじい筋肉でス」


「ガッハハ!ワシを見た者はみ~んな驚くぞおお!」


おっさんも悪い気はしないようで、放って置くことにした。相変わらずのマイペースサリーである。さぁて出発だ!俺たちは気分を良くしたおっさんと共に船を出して出港した。


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