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領主編 44話


 サリーの錬金術店が復帰してから一週間が経過した。店の売上は騒動前よりも順調に推移している。今日は四肢欠損の回復ポーションをお求めのお客さんが来てくれているらしく、その対応でかかりきりになるようだった。錬金術店で売れるものは低級ポーションばかりだったので、今回が被験者第一号だったりする。このお客さんが、開拓地にとって良い噂を撒いてくれることを祈ろう。


 俺はというと、開拓地を運営するにあたっての決定事項が書き記された書類が積み上がっており、これの処理に追われている。…いつだったか、シールドウェストのギルドマスターが書類仕事から逃げ回っていたことを思い出した。今ならその気持ちが少し分かるかも…


 顔を上げて首を回す。視界一面を埋め尽くす資料が目に映るたびに嫌気が…


 そう、逃げちゃってもいいさと俺の中の何かが呟く


 くくく…俺も、ギルドマスターの背中を追うことになるとはな!


 「ふぅ~。さて、ちょっと逃げてみるか…!」


 少し散歩をするだけだ。息抜きは大切だと偉人も言ってる。決して口から出た言葉が本音というわけではないぞ。


 俺は自分の部屋から脱出するため扉に手をかける


 しかし、見計らったように扉が勝手に空いて、俺の逃げ道を通せんぼするラスボスとエンカウントしてしまった!


 「…サトル、どこいくの?」


 「むむ!かか、カルミアさんではありませんか。きょ…今日は良い天気ですなぁ!?」


 カルミアは差し入れを持ってきてくれていたようで、ティーポットと干し肉の軽食を載せたトレイを片手にのせている


 彼女は俺の言われるまま、窓に目を向け、すぐに俺に向き直して首をかしげる


 「外、曇っているよ…?」


 しまった…。ついお決まりのセリフで動揺していることを悟られてしまったかもしれない。


 カルミアの目つきが、優しいものから徐々に疑いのジト目に変わる


 「お…おおお~!さすがカルミアさんだ。丁度お腹がすいていたんだよね。うん!これは美味しいゴブリンの干し肉だ!カルミアさんが狩猟してきたのかい?」


 俺はカルミアが持ってきてくれた干し肉を受け取り、元気よくかぶりつく


 「それ…オークの肉だけど」


 「…モゴ」


 俺は動揺のあまり干し肉を全て口の中に頬張る。いや、まだ大丈夫だ。まだ動揺していることはバレていないはず。あまりの美味しさに一度に頬張ってしまうオチャメな男に見えるはずだ。


 俺の中で美味しさと恐怖が入り交じるなか、震える足に鞭打つように部屋から脱出を強行しようと試みる。


 「サトル、逃げるの…?」


 しかし、背後から放たれるカルミアの笑顔という名の殺意によって見事阻止された


 「モゴ…逃げまふぇん」


 ・・・


 カルミアが俺の仕事を監視するため、今日はずっと横にいると言って聞かなくなった


 いや待てよ…。考え方によっては美女がずっとそばにいてくれているわけだ。悪くないぞ!


 「サトル?」


 「は、はい!」


 「開拓地に、誰か新しい人が来ているみたい。多分、門番と言い合っている。住人じゃないと思う」


 …このタイミングだと、冒険者ギルドの監査官とやらかもな


 「……カルミアさん、例の監査官かも。一緒に来てほしい」


 「分かったわ」


 カルミアと一緒に開拓地の入り口まで来た


 「何があったんだ?」


 門番の一人は俺の顔を見ると頭を下げ


 「サトル様…いや、この者たちが開拓地に冒険者ギルドを誘致させるから、ここを通せと。通行税をお支払いいただけないのです」


 なるほどね……なかなか厄介そうな客だ


 「我々は、かの冒険者ギルドの監査官!このみすぼらしい土地が栄えるかどうか?わたくしたちの采配にかかっているのです!ほら、分かったならとっとと接待をしなさいな!特に今はお腹がすきましたぞ!ウヒョ」


 …コクコク


 監査官を名乗るニ名は…ドコか見覚えがある、気がする。


 一人はノームだろうか。小さい体にインテリっぽさのあるモノクルが特徴的で、見事にマッチした執事服を身に着けている。何故か目元から下は布で顔を隠しているので顔全体はよく分からない


 もう一人はノームの発言にコクコクと頷くだけの用心棒っぽいヒューマンの女性だ。同じく目元から下は布を巻いていて、お腹をさするジェスチャーで空腹を訴えている


 「お腹がすいているのですね。ではまずは食事にしましょう。門番さん、お仕事お疲れ様です。ここからは俺が引き取りますね」


 門番は恐縮するようにお辞儀し


 「っは!…ですが、よろしいので?」


 本来であれば、誰であろうと通行料は必要だ。だが、ここで意固地になって悶着しても解決には向かわないだろう


 「大丈夫です。今回のニ名の分は俺が出します」


 監査官は多少機嫌をなおしてくれたようで、ふんぞり返りながら門を通る


 「フン!領主が話のわかるやつでよかったよかった!では、接待せよ!」


 …コクコク


 用心棒はお腹すいたのジェスチャーを早めて、食事を催促している


 「はい、銀貨です」


 俺は門番に銀貨を手渡すが、門番は首と手をふって拒否する


 「そんな、受け取れません!第一、領主様が管理するお金を領主様がお支払いしても、何の意味もありません!」


 …そりゃそうか。


 「なら、この銀貨は、迷惑かけちゃった分だと思って、門番さんの二人に受け取っていただきたい。チップにしては、ちょっと少ないかもしれませんが」


 「サトル様…」


 門番が涙目だ。やっぱり金額が少なかったのかも。すまない門番


 カルミアは監査官と門番と俺を交互に見てため息をついた


 「サトルって色々鈍感ね……」


 何故か突然、カルミアが悪態をついてきた。ホワィ…なぜぇ

 


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