領主編 42話
冒険者ギルド…それは冒険者達が集う夢の入り口
人里荒らす大型の魔物を討伐…人さらいの山賊を引っ捕らえる…はたまた近所の猫探しに至るまで、様々な仕事が日夜問わず舞い込んでくる
冒険者ギルドのスターフィールド中の立ち位置においては、国に依存しない独立した存在である。これは冒険者の本質を守るためであり、膨大な武力を抱えるが故の措置でもある。性質上、組織として統制されているが、基本は自由&自己責任なもので、その気風からか冒険者もそういった類の者ばかり集まる。
冒険者ギルドがその町に存在するかどうかで、町の発展度…ひいては今後が左右されるといっても過言ではない。優秀な冒険者を抱え込むことができれば、魔物による被害を抑えられる。何よりも、多方面からの侵略に対する大きな抑止力となるからだ。
…俺が進めている開拓地においても、冒険者ギルドの誘致は無視できない要素であり、数々の施策は誘致に貢献するための努力だったりもする。数ある店の中でも武具店に特化したのも、理由のひとつではある。
「とうとう来たか!」
俺の執務室…(実質は部屋として使っている)に一通の手紙が届いた。持ってきてくれたのは冒険者ギルドがよく使う鳥で、書状の印も冒険者ギルドのものだった。
ポーション強盗を撃退してから暫く経って、開拓地も村の規模を超え始めた。そろそろ冒険者ギルド側からアクションがある頃合いだと思っていた。アイリスのデオスフィア解析もそろそろ切り上げているタイミングだろう。戴冠式までには冒険者ギルドの誘致をしておきたかったから、これは嬉しい知らせだ!
…書状を丁寧に開封して読み上げる
「え~っと…どれどれ?……ふんふん」
内容は、冒険者ギルドとしては、昨今の魔物討伐の需要に鑑みて開拓地に拠点を置いても良いと判断する…という内容が丁寧に記載されている。
「よし!誘致成功だ…ん?まだ続きがあるな」
書き足されたように『しかしながら、領主や現場で働く冒険者たちの資質をまだ確認できていない。近く、監査官を派遣する。試験に合格できれば冒険者ギルドを置いてやろう。合格できなければ、この話は無しだ!』と、明らかに文面が異なる文言が付け加えられていた。
「資質…?監査官…?どういうことだ?」
冒険者は気風から一定の場所に留まる者が少ない。そんな冒険者の資質を正確に推し量るなどできるはずがない。それに、誘致に際して領主の資質まで問われるなど聞いたことがないぞ。少なくともアイリスからアドバイスを貰ったときはそんなこと知らされていなかった。…こんなデタラメってあるのか
「武具店が成功して、開拓地の知名度が上がってからか。最近は一筋縄ではいかない事が多いな。一体どういうことだ…?」
* * *
スターリム王都
薄暗い貧困街の誰も使っていないボロ屋。場違いとも思える清潔な衣服を着用した老齢が、キョロキョロと辺りを見回して部屋に入る。
「主様……開拓地から、例のポーションを奪ってきました。証拠は残らないように、店は燃やしました」
「よくやった。モーガン。ポーションは何処だ」
モーガンは一礼して、恭しくポーションとレシピを差し出す
主様と呼ばれた男はローブを着用しているものの、ポーションを受け取るために手を伸ばしたその隙間からはボロ屋の主とは思えぬほど上等の服が見え隠れしている。
「奴ら、今頃は必死に店の復旧を進めているはずです。それに、効果が本物であれば例のポーションも量産できるものでもない。これで開拓地の店はホラ吹きの巣窟として名を馳せるでしょうな」
「そして、私はこれを基に、四肢欠損を回復できるほどのポーションを作り上げる…まぁまぁな成果だ。有力者に恩を売れば、父上も僕の実力を認めざるをえない…あの野良犬に領土を渡したことを、関わった者全てに後悔させてやる……」
深く被ったローブの頭巾から怒りを顕にする
「主様の御心に…」
「……お前は他に使える奴を集めて雇え。これからはあの野良犬が父上から奪った開拓地へ『具体的な妨害』も検討しなくてはな」
「…っは!奴を恨む、使い勝手の良い日陰者を探して参ります」
モーガンを見送った主は、ボロ屋で独り呟く
「このウィリアム・インペリアス・スターリム王子の名にかけて……必ずや奪い取ってみせるぞ。野良犬!」




