領主編 38話
個性が光る3店舗の武具屋が順調に稼働開始。客数も増えてきている。ひとまずはドワーフ組と店員さんに任せても大丈夫そうだ。
もう一つの名物予定である『四肢欠損を回復するポーション』…これについては開拓地に錬金術店を開き、サリーに担当してもらっているが、今のところ、例のポーションを求めるお客さんはゼロだそうだ。…シールドウェストに治験の依頼を貼ってあるはずだが……やっぱり、一般的には普及されないシロモノだけに眉唾物だと思われているのか
状況の確認もかねて、武具屋からほど近くにある錬金術店にやってきた。
「サリーさーん…っう」
錬金術店の扉を開くと、鼻いっぱいに薬草のツーンとした香りが襲ってくる。薬効がある品をたくさん格納しているから仕方がないが、慣れていないと頭がクラっとしてしまうかも。実験を続けているためか、辺りはポーションだらけで散らかっている
「あ!サトルー!」
サリーは両手に持っていたポーションを投げ捨てて、俺に抱きついてきた。ポーションは地面に触れた瞬間に派手に割れると。ジュウ…と音を立てて石畳を溶かした。…サリーさんや、一体何を作っていたのか。怖すぎる
最近は、あまりコミュニケーションをとっていなかったせいもあってか、会う度にスキンシップが激しくなっている気がする
「さ、サリーさん…何作ってたの?」
「…?普通の回復ポーションだヨ?」
「そ、そう…」
…普通の回復ポーションは地面を溶かさないんだよなぁ……
「ところで、例のポーションだけど…首尾はどう?」
四肢欠損を回復するポーション…サリーが完成させた伝説級の品である。噂を聞けば一人くらいは訪れてくれると思っていたが
「ン~…それ目的では、まだ誰も来てなイ。低級回復ポーションとか、解毒用のポーションなら毎日売れているけド」
店の外観は分かりやすかったし、立地も問題はない。サリーはちょっと変わってるけど、接客自体は問題ないはずだ。実際にシールドウェストでは、俺と出会うまでは錬金術店をやっていたくらいだしな。
…もう一度シールドウェストに噂でも撒いてみるか?他の作戦を考え始めたときだった
「失礼する……む」
執事服の老紳士が店に入ってきた。俺にくっついたままのサリーを剥がし、急いで客前に立たせる
スキンシップを邪魔されたと感じたのか、サリーは不満そうな顔のままだ
「…いらっしゃイマセー」
…やる気出そうよ!?
「お取り込み中…でしたかな?」
老紳士は入り口のドアに手をかけたまま苦笑い。そのまま帰ってしまいそうだったので、俺が適当な嘘で引き止める
「これは失礼しました。店主の彼女へ、俺の腹の調子を診てもらっていたのです。もう診察は終わったので、お話があればどうぞ」
…サリーが腰回りにくっついているのを咄嗟に言い訳するため、俺の腹の調子が悪いことにした。
しかし、サリーは更に不満そうな顔を作る
「作用でございますか…で、では」
老紳士は周りを見回すと、仕切り直し要件を伝える
「…こちらに、四肢の欠損すら回復させるポーションがあると、シールドウェストの依頼を拝見しお尋ねしました。正直、半信半疑なのですが……藁にもすがる思いです」
見る限りだと老紳士は五体満足であり、健康体。体調が悪いようにも見えないが…。サリーも同じことを考えていたようだ
「ム~…おじいさん、健康みたいだけド」
「ほっほっほ…万一にそのような薬があったとしても、わたくしが使用するわけではございません」
老紳士は咳払いをして
「コホン…。実は、四肢欠損の治療は我が主の望みなのです……我が主は、とある戦で陣頭指揮を取りました。しかしながら、激しい戦いの中で片足を失ってしまったのです。それ以降、我が主は戦に対する気力をすっかりと無くしてしまいました」
老紳士の表情は悲しそうだ。主思いの執事なのかもしれない
「治療のために最初に頼ったのはエルフ達でした。彼らはポーション製造において、優れた才能を持ちます。しかし…どの部族も我々に関心を持ちませんでした。人間はエルフをさらうものばかりですから、結果は想像できましたが……。彼らに食い下がったところで…よくて矢の雨、といったところでしょうか。万一にエルフと交易ができたとしても、四肢欠損を回復できるほどの、貴重なポーションを分けてくれるはずもなく、途方に暮れていたのです……そんなときに、この依頼を見つけました」
老紳士はサリーに、シールドウェストで張った依頼書を見せる
「ここには、実験として四肢欠損の回復を試みてくれると書かれています。我が主にはリスクが高い内容かとも考えましたが、他に頼れる宛がないのです。薬を…譲ってはいただけないでしょうか」
このタイミングで、依頼書にかかった人物だが…俺が思った以上に大物が相手かもしれない