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領主編 31話


 数日が経過し、制御量を抑えたパワーアシスト汎用武器は、イミスが別途で作った生産用ゴーレムとゴブリンの頑張りによって量産体制を整えることに成功した。店には女性冒険者の店員さんと、仕事休みのご機嫌なドワーフ組が詰めていて、武具を売れる環境は既に整っている。あとは影響力のある客が来るのを待つだけだ…


 そして、今日はガルダインが仕込みをした、起爆剤であるインフルエンサーの一人がこの町にやってくるのだという。ということで、今日を店のオープン日に設定し、俺は知らぬふりをしつつ、店の様子を遠くから伺っているのだ。ちなみにこの日だけはガルダインにも店裏に詰めてもらっている


 …なんだか俺が緊張してきたな


 ソワソワと行ったり来たりの不審者行為をしていると、3軒並んだ店の前に大柄な冒険者が立ち止まる。男は赤い剣を佩いており赤い服を身に着けていた


 「ガルダインさんはここに居るだろうか」


 男は独り言を呟いて、迷いのない足取りで『赤い店』に入った


 …同じ武具店で言えば、青い店と黄色い店もあっただろうに。まるで本人の中で決められたルールやこだわりがあるように、初めて見る店でも『赤い店』を選び入ったのである


 ちなみに赤い炎のマークは、この男が身につけている剣にも掘られている


 「もし、この開拓地にガルダイン殿が居られると聞いてきた。ここは武器屋だろう?俺が使っている剣と同じマークだ」


 店員さんはとびきりの営業スマイルで、俺が事前に仕込んだ通りに動いてくれる


 「ようこそいらっしゃいました。『赤のラグナー』さん。近隣の冒険者であなたのことを知らない人はいません。では、ガルダインさんを呼んでまいりますね!」


 「あぁ、頼む」


 …彼が例の、赤のラグナーか。たしかガルダインが助けたという一人だ。彼には広告塔となってもらい、店の武具を存分に宣伝していただくという大事な大事な役割がある。店員さんは素で彼を知っていたようだが、俺は知らなかった。シールドウェストでは最近売出し中の精鋭なのかもな


 ラグナーは店員さんの眩しい笑顔とすてきなおべっかにも眉ひとつ動かすことなく、店内の武具を見て回る


 「なんと…見たことがない構造。精巧な作り…さすが、ガルダインさんだ」


 ラグナーは、壁に飾られた汎用型のゴーレムパワーアシスト両手剣を見て、何度も頷いている


 しばらくしてガルダインが店から出てくる。特に武具を作っていたわけではないが、片手にハンマー、頭には溶接用の防具をつけてもらっている。雰囲気作りは大事だからな


 「おう、いつぞやの小僧か」


 ガルダインは何倍もある体格のラグナーへ小僧呼ばわりするが、ラグナーは嬉しそうに表情を緩ませ無理やり握手する


 「ガルダインさん!…お会いしたかったのだ」


 「お、おう…」


 ガルダインは少し戸惑いながらも、それに応じる


 「ガルダインさん、聞いてくれ。俺、冒険者Cランクになったんだ。あれから全てが順調で、今までの苦労が嘘のように上手くいっている。何もかも貴方のおかげだ。俺は一人だったが、道中の魔物にも…少しだけしか手こずらなかった。今日はメンテナンスをしてもらうために来たんだが…」


 「ふん…お主にしては頑張ったじゃないか。…む?」


 ラグナーの目線は壁にかかった両手剣に向いている


 ガルダインは遠くから見ている俺へと目くばせしつつ


 「その剣が気になるか…それは、あ~…『新作』というやつじゃな。すごいぶきなんじゃ。この製法であれば、お主の武器も、もっとお主らしいピッタリなものに強化できるはずじゃ」


 やけに芝居かかった言葉だが、ラグナーは『新作』『すごいぶき』というフレーズにしか意識が向かなかったようで


 「それは本当か…!今日はメンテナンスだけにしようかと思ったが『新作』で『凄い武器』か…」


 ラグナーの中ではガルダインは絶対と言えるほどの強い信頼を置いている。自分の命をあずける武器だからこそ、その言葉の魔力には抗えなかった


 彼は財布を開いて、何度か中身を確かめたあと、真剣な眼差しで問う


 「それは…幾らであれば手にできる?」


 ガルダインは俺をチラ見する。俺は遠くからグッドサインを出して促す。これは事前に決めていた合図だ


 「…フン。条件次第ではタダでその武器を『新作』に強化してやっても良い。と言っても、前回とほぼ変わらない条件じゃがな」


 ラグナーは二つ返事で即答して、自慢の相棒となった赤い剣をテーブルに置いた


 「頼む」


 あの武器にパワーアシストを仕込んで、劇的なパワーアップを体感してもらう。そして、ラグナーの信頼をより強固なものに変えてやろう


 ガルダインは予定調和となった流れに鼻息ひとつついて、武器を預かった。店員さんに一声かけて店の奥に向かう


 「わしは武器を調整してくる。客対応は任せたぞ」


 店員さんは張り切った様子で


 「はい!ではラグナー様、完成までしばし待合室でお待ち下さい。菓子と水をご用意させていただきます」


 「あぁ、頼む」


 案内も順調そうだ。


 これでラグナーはこっち側に取り込んだも同然だ!



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