領主編 30話
武器の開発は順調そうなので、次は店の下見に行くことにした。
商店街予定地の中でも一番目立つ入り口に3軒の派手な店が鎮座している。それぞれ赤、青、黄色を基調としたブランドカラーをイメージした作りになっており、店の看板には俺が徹夜して考えたエンブレムを模したマークがあしらってある。
ちなみに色毎にマークは異なっていて、赤は力強い炎のマーク、青はクールで流線的な刃のマーク、黄色は少し異色感を出したかったので、歯車のマークにしてみた。これはガルダインから剣を配った客層のイメージを事前聴取し、その客層をかなり意識したものにしているのだ。色とマークを別々にすることで、同じ傘下の店にはもう見えない。はたから見れば別々の商業ギルドが、我先にと開拓地へ武具屋を出店し、隣人同士で客を取り合ってしのぎを削っている構図に見えなくもない。
「う~む。これは…想像以上に素晴らしい店だな」
店は店内と外、それぞれに武具を出品できるスペースが確保されており、道行く人の目を引くことができるだろう。店の横には空き地があり、簡単な試し斬りができるコーナーも用意済みだ。まだ店の中身は何も無いが、概ねイメージ通りの完成度におもわず唸る。
「…お気に召していただけましたかな」
ドワーフ組の一人が、資材片手にニコニコ顔。丁度ここを通る用でもあったのだろうか、声の節々にどこか我が子を自慢するような誇らしげさが感じられる。
「これはすごいです。ほぼ完成したとみてよいでしょう…あとは店員さんと、それぞれの店専属の鍛冶担当者を募って、お客様第一号にちょっと一芝居うってもらうだけです」
ドワーフは待ってましたと言いたげに、その話題にシフトする
「あぁ、サトル殿…そのお話ですが。もう候補は決まっているのでしょうか」
「ん…?いえ、まだ何も決めていませんが…どうしました?」
ドワーフの顔はきらめく
「それは良かった!…あ、いえ。ゴホン……実は、我らドワーフ組の中から、今の建設作業に加えて鍛冶担当をしたいと希望が上がっています。…私もその一人でしてその…」
嬉しい申し出だが、ドワーフ組には既に働きすぎなほどお願い事をしている。これ以上負担をかけさせるわけには…まぁ、でも理由を聞いてみるか
「大丈夫なのですか…?その、お忙しくは無いのでしょうか」
心配そうな表情からある程度察したのか、ドワーフは笑う
「いえいえ!お気になさらず!むしろ、やらせていただきたいのです。我らドワーフは武器や防具を打っている間が、いわば趣味の時間であり、生きている実感であり、充実感を感じるときなのです。苦労して完成した武器を眺める、やがて誰かの手にとって喜んでもらえる。これ以上のことがありますでしょうか。家作りも楽しいものですが、やはり息抜きは必要。誰も決まっていないのであれば、是非当番制にでもして、店の鍛冶担当を任せてもらいたいのです!!」
力強い声には何の裏も無さそうに感じる。ドワーフって本当に鍛冶が好きなんだな。いや、生きがいというべきか。
「そういうことなら、お願いしようかな……でも、無理は禁物ですからね?」
「有難き幸せ!!では、私はこれにて…一刻も早く仲間に知らせてまいります」
それだけ言い残してドワーフは資材を持ったままスキップしながら去っていった。
…棚からぼた餅、いや棚からドワーフか。直近の問題点であった店の鍛冶担当は、ドワーフたちの趣味の場として使ってもらえることになった。これでガルダインを3軒はしご運営させるという超絶ブラックな未来から解放できる。
ドワーフは生産的技能はずば抜けて高い。だが嘘や腹芸、人当たりが良い種族とは言えない。鍛冶担当と接客担当で分けた方が良いだろう。
…店の接客は武器の扱いにも長けている女性の冒険者にでも声をかけてみようかな。まだ少ないとはいえ、ちらほらと冒険者たちが開拓地に集まっている。未知の探索に加えて店のやりくりは大変かもしれないが、俺基準ではあるが福利を完璧にしてみれば、副業に来てくれる人がいるかもしれない。さすがにサリーが生み出すゴブリンをメイン接客担当はダメだろうし
俺はさっそく、木板に募集要項を書いて店の前に置いた
えーっと…女性冒険者限定で、仕事内容は武具の販売と売上の管理だな。接客担当は日当金貨1枚。プラス、接客から武器防具を売り上げた場合、武具の10%を給料へ追加。武具は単価がとても高いから、売れるほどモチベーションになるはずだ。年3回のボーナスと有給休暇と冒険中に怪我をした場合の給料保証もつけておこう。食事は1日1食無料で提供。アシスタントにゴブリンを二匹つけるから残業はナシだ。
…うーん、ちょっとやりすぎ?いや、でもこんなもんで良いだろう。このプロジェクトに妥協は要らない。一番前で戦う店員さんこそ一番労ってあげるべきなんだ
「これでよし…っと。じゃ後は応募を待つとしようかな」
余談ではあるが…後日、この木板求人を見た冒険者同士で、仕事を奪い合う仁義なき戦いが行われたことをサトルは知る由もない
最後まで生き残った3名の猛者が後日、サトルの面談を経て採用となった