27話
「ようこそ!こちらはランスフィッシャーの冒険者ギルド『海竜のアギト亭』です」
元気よく挨拶してくれた受付さんは、やっぱり獣人のお姉さんだった。しかも顔も声も見分けがつかないほど同じなのである。唯一の違いは、こちらのお姉さんは髪の色が青いことくらい。
「あの、シールドウェストにいた受付のお姉さんですよね?」
「え?…あぁ!あれは私の姉です。私達姉妹は姿がそっくりなのでよく間違われるのですが、別人ですよ?」
よく見たら違いが…ダメだ、髪の色以外全く同じに見える…。姉妹揃ってスタイルバツグンである。っは!そんなことより賊の引き渡しと護衛クエストの完了を報告しなければ。
「それは失礼しました。ここには護衛任務の達成と賊の引き渡しに来たんです」
俺たちは道中の襲撃とドーツクの護衛達成を報告した。賊の被害については、最近無視できないレベルまで拡大していたため、かなり喜ばれた。あの賊共は奴隷として買い取ってくれる。そして賊の頭については賞金首がついてたので報酬も期待出来るかもしれないな。
「報告内容については承知いたしました。ギルド内での精査等があるので、ひとまず本日は護衛達成の報酬のみお渡し致します。しばらくお待ち下さい…それにしても、初回任務で賞金首まで倒してくるなんて、サトル様たちのパーティーはお強いのですね!」
受付のお姉さんは久々の朗報だと言うことでかなりご機嫌だ。ここ最近は、ギルドでの任務の成功率も芳しくない結果ばかりだったという。
「いやぁ、仲間たちが強いんですよ!ドーツクさんも自衛できるほどの実力者です」
「う~む…サトルくんがそう言うのであれば、そういうことにしておこう…」
ドーツクは空気を呼んで黙っててくれた。知れば知るほど印象の変わる男だ。最初はただの護衛対象としか見てなかったが、次会うことがあれば食事にでも誘ってみようかな?と思えるほどには好印象だ。
手続きが終わるまでギルドのエントランスホールで待たせてもらうことにした。ギルドの内装はシールドウェストと作りが似ているものの、竜の首はぶら下がっていないし、ガヤガヤした雰囲気ではない。どちらかと言えば海辺にある小綺麗なレストランといった装い。そしてギルド内にはやはり至る所にランスフィッシュの置物や、青を基調としたインテリアグッズが配置されている。町によって特色が違うのだろうな。
備え付けのソファーに座るとドーツクが口を開く。
「サトルくん。今回の護衛では本当にお世話になった。これで大金が僕にも、そして君にも舞い込むことになるだろう。僕はこの金を元手に魔獣に関する商売ができないか、この町で模索するつもりだ。君は蛮族王の討伐メンバーに指名されているのだろう?お互いに頑張ろうじゃないか。うん!」
「えぇ、とても危険な旅になると思いますが、カルミアさんもサリーさんも強い方なので安心です」
「ドーツク…また会いましょう」
「あなたの根性、嫌いじゃないですヨ!」
俺とカルミア、サリーの順番で握手を交わしてドーツクは去っていった。彼はきっとこの先も、ヒポグリフたちと困難を切り抜けていくことだろう。彼の背中をギルドの入り口まで見送り一息つく。
「ふう~…これで最初のクエストは達成だなぁ~」
「サトル…あの時、本の力を使ったのよね?」
「たしかにィ!いきなりヒポグリフちゃんたちが強くなったから、サトルのあの魔法だと思ったんだヨ!」
二人は既に俺からの特別なクラスチェンジの恩恵を強く受けているから、やっぱりバレてしまったようだ。
「あぁ、その通りだよ。ただし、今までとは違った。具体的に言うと、二人のようにふたつのクラスの良い所を取ったクラスに出来なかったんだ。だから、ドーツクさんは…魔獣を扱う力を得る引き換えに、商売の才能を失ってしまったんだ」
少し落ち込んでしまう。助けるためとはいえ、ままならない話だ。ドーツクは気にしていないようだったが、苦労をかけてしまうことは間違いないだろう。俺たちで、出来る時にサポートすることも視野に入れた方がいいのかな。考えがまとまらず項垂れるとカルミアが手を握ってくれる。
「サトルは出来ることを全力でやった。そんな顔をしないで…」
カルミアの手は訓練のせいか皮膚がかたくゴツゴツしていた。これほどの手になるには、どれくらい剣を振ってきたんだろうか。
「そうだヨ!アタシだって助けてもらったこと感謝しているよォ!」
サリーはいつもニコニコ元気に笑ってくれている。命の取り合いをしたのは、俺ではなくサリーたちだ。そんな時でも笑っていられる強さは本物だよな。
「二人とも、ありがとう。そうだな…」
強くなればドーツクをサポートできる手段も増えていく可能性があるし、俺たちは蛮族王討伐のためにいち早く力をつけなくてはならない。二人共こんな状況でも励ましてくれているんだから、気持ちを切り替えて頑張ろう。
「よし、二人のおかげで元気がでたぞお!」
その言葉を聞いて二人は微笑んでくれた。天使かな?
その後しばらく三人で雑談していると受付のお姉さんが俺たちを呼び出す。
「サトル様、お待たせしました。カウンターへどうぞ!」