表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
267/478

領主編 26話


 皆がミニチュアに注目する。出来が良いとは言えない家型の赤、青、黄色の色が塗られたミニチュアだ


 サリヴォルが唸り、ミニチュアを手にとって調べる


 「うーむ…これを売るのか?……欲しいとは思えんが」


 エルフのリバーが少し欲しそうな目で見ている


 「私は、ちょっと欲しいって思っちゃったかモ。スミマセン」


 …サリーと言い、エルフの女の子は変な物を集める癖でもあるのだろうか。気を取り直し……


 「コホン…これは売り物ではありません。店の模型です。これを使って説明します」


 余談だがTRPGやボードゲームではフィギュアを使うタイプが存在する。ルールや作戦を説明するときはこのような小道具を使うと、説明している方も聞いている方も楽しく学べるし遊べるだろうというゲーム脳的発想だ。その方が説明が簡単というか俺が慣れているだけなのだが…今回は皆の興味を引くことには成功した


 俺は簡単に町の見取り図を書いた大きな木の板を机に置いた。板の商店街予定地と書かれた場所に、3つの店のミニチュアを横並びに配置『武器と防具の店』と書かれた木板をそれぞれの店の前に飾る。ガルダインは意図を汲み取ったようで、すぐに意見を言う


 「フン……3つの店を横並びに配置じゃと?しかも全てが武器と防具ときた。もしやこれがプロジェクトとでも言うのではあるまいな?」


 「そうっすヨ、サトルパイセン。同じ商品を置いている店を横並びにおいても何の意味もないッス」


 …その通りだが、これにはちょっとした狙いがあるのだ。


 「まぁまぁ…商材と店の配置には意味があります。順を追って説明しましょう。まずは魔物が強いという『悪体験』を解消するには、幾つかの仕込みが必要でした。まずは見知らぬ者がこの地へ出向く理由…とっかかりが必要です。これはサリーさんとガルダインさんに仕込みを頼んだ件に繋がります」


 俺はサリーに見立てたポーンとガルダインに見立てたポーンを木板の隅に配置する


 「サリーさんには、とあるポーションを開発してもらいました。そしてその薬の臨床試験を受けてほしいとシールドウェストやランスフィッシャーのギルドへ依頼を出しています」


 ポーションのフィギュアをサリーのポーンの横に配置した


 「そのポーションってどんな効果なんだ?」


 竜人のカプシがワクワクした様子で興味を示す


 「……眼球や耳などを含む、四肢欠損の復元です」


 この場にいる誰もが目を見開き、開いた口が塞がらないといった状況になった。カプシなんかは笑顔から真顔にスンっと変化したので特に面白い…まぁ、そうなるだろうな


 一番驚いたのは他ならない彼女の父であるサリヴォルだ。彼の動揺は一段と激しく、思わず机を叩く


 「そのようなこと…ありえぬ!いくらサトル殿であっても、冗談は大概にしていただきたい!ジロスキエントの葉でさえ、100年に一度の新芽を使って可能かどうかというほどの奇跡だ!供給可能な素材で…しかも我が娘がだと?ありえぬ!」


 場が静まり返り、サリヴォルはハっと冷静さを取り戻す


 「…す、すまない。だが、そのようなこと…」


 「これは、実際にお見せした方が良いかもしれませんね。サリーさーん!」


 「は~~ィ♪」


 サリーが見計らったように部屋に入る。続いて現れたのはゴブ像その1とその2だ。


 「ゴブ像!もうひとりのゴブ像に攻撃だ!」


 「…ゴブ」「…ゴブ」


 ゴブリンのゴブ像は、もう一匹のゴブ像の腕を鋭いナイフで斬りつけ力まかせに切り落とす


 斬った方も、斬られた方も淡々としており、表情の変化も一切ないどころか、声ひとつあげない。相変わらず命令に忠実すぎるゴブリンだ。斬られた腕からはとめどなく出血しており、手当しなければ手遅れになることは明確だ


 「サリエル!何をしているのだ!ゴブ像は大切な仲間であったのだろう!?」


 サリヴォルも少しばかりゴブ像に愛着を持っているのか、悲壮感たっぷりな声で娘を咎める


 「いいから、みてテ♪」


 サリーはいつもの調子でポーションを取り出し、欠損したゴブ像の腕にそれを1滴だけ垂らす


 雫が傷口に落ちるとまるで時を戻すかのように腕が超スピードで生え変わる


 「…ゴブ!」


 ゴブ像は斬られた腕が元通りであることをアピールするため、ちょっとだけ誇らしげに腕を掲げて自由に指を動かしてみせた


 「サリーのマジックショーでしタ~♪サトル、これでいいノ?」


 「あぁ、ありがとう。ゴブ像も痛い役割をかって出てくれて本当にありがとう」


 「借りひとつだからネ~!あっ…ちなみにこの子に痛覚は無さそうだヨ」「…ゴブ!」


 サリーとゴブ像は仲良くこの場から出ていった。心なしかゴブ像は召喚当時よりも感情が見え隠れしている気がしないでもない。食事も取らないうえ、寝ないときたから恐らくはと考えていたが、痛覚が無いことも最近発覚したんだよな。それでも危険な役割を買ってくれたゴブ像には感謝するべきだろう


 体を張ったパフォーマンスと、目の前で起きた事実に皆困惑している様子だった


 「ありえん……」


 サリヴォルは特にそうだ。…まぁ、実はこのポーション、何の変哲もないヒールポーションと製法は一切変わらない。


四肢欠損を回復するほどの効力を示したのは偏に、サリーのクラスアップによる影響だ。クラスアップしたことによって、アルケミストとしての能力も比較にならないほど超パワーアップしたという背景があるのだが……。今はまだそれをサリヴォルへ伝えるときではない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ