領主編 24話
「サトル殿、突然すまないな…」
ジロスキエント・ミトスツリーの長であり、サリーの父であるサリヴォルがエルフを数名引き連れてやってきた。中には見覚えのある懐かしい人もいる。…たしか、名前はチャーオスだったかな。初めてサリーの故郷にやってきたとき、道案内をしてくれた人だ。
「ほんとだヨ!オヤジはいっつも空気読まないんだかラ!」
サリーがプンプンして親に突っかかるが、君がそれを言うかと喉まで来た。俺は気にせずサリヴォルたちを家のリビングに案内する。
「とんでもないです。…簡単な食事を用意しましたのでどうぞ。お口に合えば良いのですが」
皆が座って落ち着いた頃を見計らい、ありあわせの食材を使って肉と野菜料理を振る舞う。ハイエルフである彼らの口に合うかは分からないが…サリーが何でも食べるから、多分何でも食べるんじゃないかと思っている。…多分。ちなみに味付けはサリーの好みに合わせている
「有り難く頂こう…む、うまいな」
サリヴォルは表情を変えないが、問題なさそうである。
「良かったです」
食事を楽しみながらサリヴォルと雑談をしていると
「オヤジ!サトルに何か用があったんじゃないノ!」
本題を促す前に、サリーがしびれを切らす。何故かお父様にキツめな当たりの彼女である。照れ隠しか何なのか。サリヴォルはため息をひとつ。そして、率先して話を進めた
「ふぅ…全く我が娘ながら、せっかちな子だ。少しくらい、サトル殿と世間話をさせてほしいものだが……本題であったな。この度領主となられた我らが友…サトル殿へのご挨拶も兼ね、何か力になれればと考えて開拓の手伝いに来たのだ」
…魔力に優れたエルフが開拓のメンバーに加わってくれる。それを聞いた俺は、内心小躍りしたくなるほど嬉しい申し出だった。しかし、何故?
「俺としては嬉しいお話ですが…よろしいのですか?」
「なに、深い意味は無いぞ。エルフの民でも外の世界を見てみたいという者は一定数いるのだ。我が娘もしかり、今日連れてきた者もそうだ。最も…我が娘は私の許可なく森から飛び出していったがな…?」
サリヴォルがギロリとサリーを睨みつけると、サリーは舌を出して俺の後ろに隠れた。
サリヴォルは口癖にも近いため息をついて、話を続ける
「しかし、私から見れば、この若者たちはまだ世の中のことを何も知らない子供も同然だ。森の外の理も厳しさも分かっていないだろう。だが、だからと言って無理な抑圧をし続けると、必ずどこかでフラストレーションが溜まってしまうものだ」
…なるほど、それで俺の出番というわけか。
「外の世界に出すなら、せめて信用のおける人の場所で…ということですか」
サリヴォルは頷いた
…エルフ、特に狭間の者であるハーフエルフは、その能力の高さや見目麗しい姿から差別や非人道的な扱いを特に受けやすい種族だ。サリヴォルの心配も最もなことだろう。それだけ俺のことを信用してくれている…と捉えると、悪い気はしない
「我らは今まで、人と友好関係をこれほど深く結んだことがない。サトル殿であれば、安心して若者たちを任せられる。彼らはただの居候にはならないと保証しよう。我らエルフが作る魔道具は、そこらの魔道具よりも高品質で価値ある品だと自負している…」
「嬉しい申し出ですね。こちらに一切デメリットが無いように感じますが」
「なに、大物になる人物へ恩を売っておくのも大切だろう?それは、後々我らが繁栄するために必要なことだと判断した」
サリヴォルはウィンクしてシールドウェスト産ワインを飲み干す
…やはりエルフの民をまとめるだけあって、将来を見据えている
「そういうお考えでしたか。それでは謹んで身元をお引き受け致します。ただし、サリヴォルさんも、たまには顔を出して下さいね?サリーさんも喜ぶと思います」
サリーを見ると、口を尖らせてそっぽを向いている。ただ、この場からは離れない。…お父様に素直じゃないんだから……
サリヴォルはそんな娘の様子にショックを受けつつ、頷いた
「…サトル殿がそこまで言うのであれば、仕方がない」
…こっちはこっちで娘に素直じゃないな!?
お話がまとまったところで、サリヴォルは滞在希望のエルフたちを紹介してくれた
「チャーオス、来なさい」
サリヴォルは後ろに控えていたエルフの一人を呼び出す
「は、はい!」
「面識があると思うが、チャーオスだ。彼女は母が店を持っている。生産はできないが会計が得意だ」
「サ、サトルさん……お久しぶりです。その、よろしくお願いしましゅ!」
チャーオスは若干噛みつつ頭を下げた。恥ずかしかったのか、頭をあげない
…噛んだところをツッコミたくなったが触れない優しさもあるだろうと思い、そのまま返答をする
「チャーオスさん、久しぶりだね。また、よろしく頼むよ」
「うむ…次は、ヘルゲだ。彼はエルフの中でも特に若い。まだ50年ほどしか生きていないが、幼い頃から父の鍛冶仕事を手伝ってきた。腕前だけは一級品で、エルフの武器や防具を作れる」
ヘルゲと呼ばれたエルフの男は、ポケットに手を入れながら口には葉っぱを噛んでエルフらしくないというか…行儀が悪い。金の短髪を乱すように頭をかき、眠そうな表情で挨拶をかます
「あー…ヘルゲっす。よろしくっすサトルセンパイ。森の田舎臭さに耐えきれなかったンで、ほんとリスペクトすワ」
…なんだろう。なんだろう……まぁいいや
「あ、あぁ。鍛冶の腕…期待しているよ」
サリーはヘルゲの態度が気に入らないようで
「オヤジ!もっとマシなやつ連れてきてヨ!よりによってあのヘルゲなんテ!サトル困ってるじゃン!」
「ヘルゲの鍛冶の腕前は一流だ。お前は黙っていなさい」
「そっすヨ、サリエル姉御。鍛冶まじパネェから気をつけロ」
サリーは父とヘルゲに威嚇する
「むうううゥ~!」
いつものごとく、親子でじゃれ合いを始めてしまいそうになったので、俺が強制的に話題転換させる
「あー…サリヴォルさん。最後の方をご紹介いただいても?」
サリーと睨みあいをするサリヴォルは、ハッとして咳払いをひとつ
「あ、あぁ…すまない。ゴホン……最後の子の名はリバーという。リバー、これからお世話になるサトル殿にご挨拶なさい」
リバーと呼ばれた娘は申し訳無さそうに前に出てボソボソと挨拶する。ヘルゲと同じく金髪だが、目が隠れてしまうほど前髪が長いので目元はよくわからない。黒っぽいローブをつけていてリバーとは対照的に内向的な感じがする
「リ、リバーです…。スミマセン」
「…」
…えっそれだけかーい
会話が続かないため、サリヴォルがフォローを入れた
「彼女は魔道具作成に関しては高い適正を持つが、この通り…あまり他者と干渉しようとしない。だが、外の世界には興味を持っているようでな」
…なるほど
「魔道具についてはサリーさんも扱えるので、良い刺激になると思います。リバーさん、よろしくね」
リバーはコクっと頷いた
これでエルフ組は全員だな……




