領主編 21話
ドーツクにテイマー用の首輪を用意してもらい、3匹のゴブリンたちに装着した。彼らは試験的に建設の手伝いとしてドワーフの手足として下働きをしてもらっている。この目論見が上手く働けば、本格的にゴブリンの数を増やせないか検証段階に入る予定だ。想定外の出来事だったが、良い方向に動きそうで良かった…
凶暴な魔物のイメージが定着しているせいもあり、最初は皆から警戒されていたゴブリンたちだが、文句一つ言わず、愚直に手足を動かし汗水を垂らす姿が心を動かしたのか、馴染むまでにはそれほどの時間を必要としなかった。…ちなみにサリーは3匹をまとめてゴブ像と呼んでいる。それで良いのか
3匹の働きもあり、開拓から10日前後で既に村のような発展具合だ。主要なメンバー全員分の住居と生活に必須な魔道具の作成、分配も完了している。中には開拓の話を聞きつけて、勝手に住み着いた者もいるが、来る者拒まずの精神で迎え入れている。
ただし、住居や魔道具の建材は限りがあるので、勝手に住み着いた者への分配までは手が回っていないがこれは妥協。…何れにせよ、この調子でいけばアイリスが到着したタイミングでは、そこそこ形になった戴冠式にできそうだ。デオスフィアの解析で、こちらに出向くまでもう少しかかりそうだと手紙が届いていたからな。
バルコニーからうんうんと順調な進捗に頷いていると、哨戒と魔物狩りに出ていたカルミアが帰ってきた。見たことがない兎型魔物をいくつか抱えている。…晩飯は肉になりそうだ
カルミアが頬についた血を拭い去りつつ、淡々と告げる
「…サトル。竜人の者が沼地からこっちに向かっている。ドワーフも一人…たぶんガルダインだと思う」
…ガルダインに来てもらうのは想定通り。というより俺が呼んだ。シールドウェストでの鍛冶仕事が一段落ついたら、開拓に手を貸してほしいとお願いしてあったのだ。他のドワーフに宛がなかったからな。ついでに、彼には重要な『仕込み』を町でやってきてもらっている。この仕込みが成功するかどうかで今後の開拓が大きく変わる
「報告ありがとう。あと、狩りもお疲れ様。いつもありがとう…ガルダインは俺が呼んだけど、竜人の里の方が来るとは聞いていないな…何の用だろう」
「…竜人は生活用品、大荷物を運んでいたわ。あの巫女も一緒だったけど…どうする?」
…巫女、といえばリンドウのことだろう。俺たちが関わった里の者で間違いなさそうだ。里に何かあったのかもしれない
「すぐに出迎えの準備を進めよう。カルミアさん、申し訳ないけど追加で狩りをお願いしても良いかな?」
「…うん、構わない」
カルミアは残像だけを残し、その場から消え去る。…相変わらずの規格外だ
・・・
見覚えのある竜人たちが開拓地まで到着した。そこには…やっぱりリンドウもいる
「リンドウさん!」
リンドウは振り向くと、すぐに駆けつける
「サトル様ぁ~~!」
俺の手を掴んでブンブンする彼女は相変わらずの様子で、ひとまず安心
リンドウのクラスチェンジの影響で、彼女に付き従うこととなった炎の精霊のフォティアもリンドウの中から突如として出現、元気な様子を見せてくれる
「おぉ、サトルか!…ということは、ここがリンドウが話しておったお主の土地か。まだ発展途上のようじゃが……」
「フォティアさんもお久しぶりです。元気そうで安心しました」
フォティアは偉そうにふんぞり返るが、見た目が少女なので可愛らしいとしか感想が出てこない。しかし…彼女が出てくるだけで周辺の温度が一気に上昇する気がする。さすが炎の精霊だ
「ふん!当然じゃ!我を誰だと思っておるんじゃ!」
「こら!サトル様にそんな態度を取らないで下さいまし!」
すぐにリンドウが反応するが
「おぉ~そんな生意気を言っても良いのかのぉ。お主がサトルに会いたい会いたいと言い続けていたことを言いふらすぞぇ~!」
「な…!そのようなことありませんの…!…それに、言いふらすも何も今仰いましたよね!?」
「はて…?其れは我の言う内容を認めるということじゃな!?」
「…今日という今日は許しませんの!」
リンドウとフォティアは相変わらずの仲で、会話を中断して二人でじゃれ合い始めてしまった。
…元気そうで安心したが、彼女らがここへ来た理由を聞きそびれてしまったな。
そこへ、竜人の里長がやってくる
「サトル様…我らが竜の祖。突然の押しかけをお許し下さい」
「里長さん、お久しぶりです。お体元気そうで何よりでした。…それよりも何かあったのですか?」
里長は気まずそうに言い淀むが、意を決したように話してくれる
「実は…里に住めなくなってしまったのじゃ」