表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
260/478

領主編 19話


 「サリーさん!大丈夫!?」


 1階の丁度出入り口付近にサリーがいた。細かな荷物が地面にバラけているところから察するに、荷物を家の中に運び出すところだったのだろう。片足と両手を上げて、仰天している姿勢のまま首だけを俺のほうに向ける


 「ゴブ…ッゴブゴブゴブ……!」


 サリーはゴブゴブ言って要領を得ない。


 …あぁ、サリーよ。とうとうゴブリン好きが高じてゴブリンの言葉しかお話できなくなってしまったのか。


 「これから先、どうやって意思疎通を図ったら良いのだろうか…」


 俺の言葉を聞いたブルーノーは、サリーに同情した目を向けた。そして痛ましい表情で、手遅れの患者を診察する医師のように首をゆっくりと横にふってため息を吐いた


 「サトル殿……」


 何があったのかは分からないが、サリーがどんな言葉を発しても、愛情をもって接していこうと心に決めていると、普通に喋りだした


 「勝手に変な子扱いしないデ!…ゴブ、ゴブリンが出たノ!アタシの像かラ!そして、家から走って逃げタ!」


 「む…」


 サリーが再起動し、言葉を発したと思えばおかしなことを言う。


 サリーの前には、レベル10に到達した際にドコからともなく付与されたアイテム。ゴブリンの像が鎮座している。俺がゴミと間違えて捨てたやつだ


 「……何も、起こらないな」


 「…なあにも起きんぞ、エルフの子」


 しばらく眺めてみたが、何も起きない


 …やはりゴブリン好きが高じてしまい、幻覚を見るようになったのかもしれない。サリーにはそこまで心労をかけていたとは露知らず…こうなる前にゴブリンのぬいぐるみでも作ってあげるべきだったのかもしれない。


 「サリーさん…なんかごめん。俺で良ければ何かできることは無いかな」


 「…むうん。エルフの子が変わった奴だと思っておったが、ここまでとはな」


 ブルーノーと俺は顔を見合わせ、サリーが色々と手遅れである共通認識を生み始めたとき、俺たちが信じない様子を見かねたサリーはゴブリン像の頭をこすりはじめた


 「おねがイ!さっきのもう一度やっテ!ゴブ像!」


 すると、どうしたことだろうか。サリーの気持ちに呼応するよに、ゴブ像が発光したではないか


 「おお…ゴブリン像が!」


 やがてその光は集束して一匹のゴブリンを形作り、出現させる


 「…ゴブ」


 何もない所からゴブリンが出た!?いや、ゴブリン像が本物のゴブリンを形成したのか?


 「ううむ。なんということだ。これはダンジョンに設置される罠…リスポーン像だ」


 ブルーノーは唸るように説明した


 「ブルーノーさん、これが何か知っているんですか?」


 「むう…そうだな。ダンジョン経験が少ないサトル殿は見たことがなかったか。これはダンジョンだけで見つかる罠の一種だ。近づく者や接触した者の魔力を吸い上げ、魔物を生み出す罠。侵入者を物量で迎え撃つ罠だ。しかし、これは取り外したり持ち帰ることは不可能なシロモノである。取り外せば自壊し魔力を失う。ダンジョンの罠や光源、未解錠の宝箱は上手く保存して持ち帰っても、ダンジョンの外に持ち出した時点で砂となって消え去ってしまうのと同じだ…全てな」


 「ふむ…なるほど」


 …脳内のアナウンスが理の外にある何かであった場合、それも可能なのかもしれない。俺の能力が間接的に関わっている以上、このアイテム自体がイレギュラーである可能性は高い


 壊すのは惜しいな…上手く扱えないだろうか


 俺たちのやり取りを聞いているのか、聞いていないのか、よくわからない表情でぼんやりするゴブリン。こうしている今でも襲ってくる様子はない


 「そやつ…危険はないのか」


 ブルーノーが警戒して構えをとると、サリーはゴブリンの前に立って両腕を広げる


 「ゴブは悪くなイ!」


 …ゴブ?名前かな。まぁ良い…気にするところはそこじゃないんだ。何故ゴブリンを生み出せる罠がここに存在できているのか。どうしてゴブリンは無抵抗なのか。謎は尽きないが、どちらにせよすぐに答えは出ないだろう。今ある事実を受けれいて、利用できるもの全てを利用するんだ


 「ブルーノーさん、問題なさそうです。ゴブリンは闇討ちするような知識を持っていないうえ、敵意があれば勝算なく襲いかかるはずですから」


 「むう…サトル殿がそう言うのであれば」


 ブルーノーは構えをといた。ゴブリンは相変わらず無関心、無表情で立っているだけだ


 「サリーさん、ゴブリンに何か命令してみてくれ」


 罠がダンジョンの物ではなく、サリーの物…ダンジョンの魔力を基盤とするのなら、サリーの魔力を使って生み出されたゴブリンだ。言う事を聞いてくれるかも


 「ゴブ像!宙返りしテ!」


 「…ゴブ」


 初っ端から無茶ぶりされたゴブリンのゴブ像は、サリーの命令に対して忠実に宙返りを実行してみせた。唯一、サリーの想定外があるとすれば、ゴブ像は宙返りできるほどの肉体的パフォーマンスに優れていなかった点になるだろう


 「ゴキャ…」


 ゴブ像はサリーの無茶ぶりに応えるべく、勢いよくジャンプするが宙返りに失敗。頭から地面に落下。そのまま光の粒になって消え去った


 「ゴブ像ォオオオ!?」


 サリーは光の粒を掴み取るように悲しむが、その手は虚空を握るばかり。ゴブ像を失った絶望に耐えきれず崩れ落ちた


 …ギャグかな?


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ