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26話


日が真上から少し傾いた頃、俺たちは腹ごしらえも終わり、ドーツクさんとお喋りを楽しみながら町へと向かっていた。荷車を牽引するのは立派になったヒポグリフたち。かろうじて生き残った盗賊共は数珠つなぎにして歩かせている。このまま町まで引っ張っていくつもりだ。


「サトルくん。君の魔法には本当に驚いたな。僕のヒポグリフたちを進化させるなんて…ただの魔法とは考えられない。一体どんな仕組みなんだい?それに、あれから僕とこの子たちとで心を通わすことが出来ている気がするんだ」


「あはは…大した魔法じゃないですよ。ただ、ドーツクさんには話しておく必要がありますね」


俺は、クラスチェンジの魔法という前提で簡単な説明を行い、ドーツクが今まで修行して得たマーチャントの見習いクラスを失ってしまったこと。そして新しいクラスである【魔獣使い】にチェンジしたことを説明した。残念そうにするだろうと覚悟して伝えた内容だったが、反応は意外なものだった。


「…なるほどね。確かに少し残念な気持ちはあるが、あのままクラスチェンジとやらが出来なければ僕の命もヒポグリフの命も無かっただろう。仕方がないことさ。…それに」


「それに…?」


「魔獣を使った商売だってできるはずさ。運送兼冒険者だって選択肢もある。商売の適正は無くなったかもしれないが、経験までなくなる訳ではないだろう。今まで頑張ってきた全てがなかったことになるなんて無いさ。 …僕はね、嬉しいんだ。こうやってヒポグリフたちと新しいことに挑戦することが。サトルくんには本当に感謝しているよ」


ドーツクは遠くを見て優しく微笑んだ。


確かにこの世界は俺が知っている世界によく似ている。だが違うことだって山ほどある。こと「可能性」というものにおいては、俺の予想を超えていくはずだ。限りないクラス、様々な種族、そして経験を通して、全く未知のクラスチェンジが発生するかもしれない。ドーツクはマーチャントの経験があるから、魔獣使いとマーチャントを融合させたようなクラスを自ら体得する可能性だってあるはずだ。今は、そう信じたい。


「今のドーツクさんとヒポグリフたちなら、何でも出来る気がします」


「…ありがとう」


 それから数日。道中は平和そのものだった。予定より遅れは発生したが、概ね誤差の範囲で目的地が見えてくる。磯の香りと共に、勾配から徐々に町の景色が広がると感動も同時に押し寄せる。シールドウェストは物々しくザ・ファンタジックな景色が凄かったが、ランスフィッシャーの町は高い建物が少なく、海に面していて雰囲気が開放的だ。遠巻きに見る限りでは、白い帆を張った船を浮かべて青い海へと旅立つ光景や、大きな市場で人が集まって何かしているのが分かる。賑やかそうな港町だ。


「サトルくん…ここが商売と自由の町、ランスフィッシャーだ!」


「こんな遠くからでも賑わいが伝わってきて、今から町を見て回るのが楽しみです」


「…サトル、私は魚が食べたい」


「アタシは魔道具店に寄りたいかもォ~!」


各々が胸いっぱいに町への期待を膨らませて門の前までやってくる。門もオシャレ!口が尖っていて細長い魚の置物が飾られている。しかも金色である。俺が物珍しそうにその置物を見ているとドーツクが説明してくれた。


「それはランスフィッシュ。この町の財を支えてくれている魚さ!美味だぞ」


よし、絶対に食べよう。最初に食べよう!


やたら魚の干し物を食べるかと勧めてくる門番からの手続きが終わり、町に入る。丁度町から鐘の音が何回か鳴った。恐らくお昼過ぎだろうか?まずは腹ごしらえだよなぁ!?


「よぉし!サリーさん!町中の魚を食い尽くそうぜぇ!」「はいナ~!」


「…サトル、サリー?まずは賊の引き渡しからでしょ?」


「…はい」「うぇエ…」


 町での食事は一旦お預けにして町の大通りへと向かう。大通りでは口が尖った魚、ランスフィッシュをモチーフにした置物や土産品、着ぐるみまでつけた商人が客寄せを行っていた。他にも海で採れた貝や何かの骨なんかも売ってある。


「ここでは青色がとても人気でね。もはや文化と言っても良いだろう。見てご覧?どの家、どの人も青色の何かを身に着けているんだよ。これはこの町を治める領主が、ランスフィッシュを中心として町おこしをしたとき、衛兵に青色のスカーフを身に着けさせたことが始まりとされているんだ。それから町は大きく育ち、青色は幸運を呼び込む色として定着したんだろうね」


ドーツクはシールドウェストとこの町を拠点にしているのか、自慢気に語ってくれた。確かにどの家も青色をどこかに取り入れている。屋根やストライプ模様、玄関ドアが青というパターンもあるな。女性はアクセサリーや靴が青く、男性は腰巻きや刺繍、鞄や帽子が青い。町ひとつで文化がカラッと変わるので、とても面白い。景色を楽しんでいると冒険者ギルドまで到着した。スイングドアは変わらないのか。


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