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領主編 18話


 ブルーノーたちドワーフの力を借り、廃墟同然であった遺跡が、たった数日の期間と少量の建材だけで立派な洋館へと生まれ変わった。彼らの自負は本物のようで、武器だけではなく建築にも類い稀な才能を発揮したのだ。


 「サトル殿、いかがですかな?我らドワーフの力は」


 「うん…これはすごい」


 洋館の中はまだ何もない空っぽな空間だが、人がギリギリ住めるかどうかといった遺跡と比べると天と地の差だ。屋根があり、室内は暖かい。一通り確認を終えたが、全てにおいて大満足だ。これなら今日からテント生活をオサラバして部屋割りに移れそうだ。有り難いことに、家がデカいため10人そこら泊めても、まだまだ余裕があるだろう。


 「ブルーノーさんって冒険者なのに、こんな仕事もできたんだね」


 「そりゃあ、腐ってもドワーフだからな。…おっと、過去の詮索はよしてくれよ。今は友のためにここで働きたい。それだけなんだ」


 …ブルーノーは冒険者として名を上げることを夢見ていたはずだ。彼は才気あふれる男だが冒険を繰り返していく内に、パーティー内で思う所があったのかもしれない。だが、それを聞いたりするのは野暮だろう。誰にだって言いたくないことはある


 「俺たちのために力を貸してくれる。それだけで十分ですよ」


 この家は二階からバルコニーに出られる仕組みになっているようだ。家自体が高地にあることも手伝って、そこからは近辺を一望できるようになっていた。せっかくなので、景色も楽しむ


 戦地となった草原、その前方に展開する大きな沼地はよく見える。シールドウェストはさすがに見えないか…。


 開拓地は他のドワーフたちが協力して3軒目の家を建てている所だった。これらがブルーノーやドーツクたちの家になる予定。俺の洋館の手前、ここが大通りになる予定で、大通りでは冒険者ギルドも設置する予定だ。しかし、まだ冒険者ギルドを置けるほど発展していないので、もう少し先になるだろう。


 どんどん村として出来上がる空間を観察していると、ちょっとだけワクワクする。シミュレーションゲーム好きなタイプは、このような気持ちを悠に抱くのだろうか


 そんな景色を眺めつつ、次の手の構想を描く


 …本来であれば、俺たち冒険者パーティーの裏方である、ドワーフのガルダインに協力を依頼するつもりだった。彼と、イミスが開拓のキーとなるからだ。彼女ら無しではこの発展計画は成り立たない。そもそもの発展させる素材…つまり場所の魅力がこの地には不足しているのだ。自身で『土地の価値』を作り上げる工程が必然となる


この開拓地を広げる理由は、スターリムが領土を主張する政治的事情の側面が大きい。本来であれば、開拓とは魅力ある資源を目的とする。この地は未開拓故、強い魔物が出没する程度で資源的価値は皆無。早い話が詰んでいる。王もなかなか意地悪なタチらしい。だが俺はその想定を超えてみたいのだ。


 ブルーノーたちの協力は嬉しい誤算だった。ドワーフは多ければ多いほど良い。作戦は良い意味で軌道修正が必要になった。


 俺がニヤニヤしだすとブルーノーは自身のヒゲを弄くりながら茶化してきた


 「なにやら…サトル殿は企んでおられる」


 「いえ、何も企んでなどいません。ただ貴方がたが協力して下さったので、この地がより良いものになると確信したのです。『価値』ある場所に……」


 「フム…具体的にはどうやって人の心をつかむのだ…?」


 「未開拓故に強い魔物が出るという部分だけを見れば、たしかにこの地は危険でしょう。領地として見てもマイナスポイントです。この場所に到達するまでに『安心して旅』できないという事実体験までも生み出してしまう。しかし物事は表裏一体。それは同時に2つの価値を生み出します……1つ目は、強い魔物の素材をふんだんに使えることです。幸いにも、俺たちのパーティーは実力者揃いです。魔物の討伐に苦労はしないでしょう。これを加工した武器や防具は大きな価値を生みます」


 「ほう…して、もう一つとは?わざわざ強い武器を買うためだけに、危険な思いをする人も稀だろう…本末転倒だからだ。軌道に乗せること自体が困難となるぞ。サトル殿のお考えも分かるのだが…」


 「もう一つは…『悪体験』の逆転です。『悪い体験をした』という事実そのものを成功体験の材料にしてしまう…という方策です。悪い環境が変えられないなら、それを利用すれば良い。ブルーノーさんの仰る通り、軌道に乗せるためのピースを揃える前提条件があるのですが、これが上手くいけば……」


 「む…?あくたいけんのぎゃくてん?」


 「えぇ、方法は簡単で…」


 説明を挟もうとしたタイミングでサリーの叫び声が館からこだまする


 「ヘヒァアアア~!?」


 「…」


 「な、なんじゃ…!?」


 …あぁ、どうしよう。サリーの変な声を聞いた途端、聞かなかったことにして放置したい気持ちでいっぱいになった。そういうわけにもいかないが


 俺たちは話を中断してサリーの元に急いだ


 

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