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領主編 17話


 シールドウェスト南西


 雪が止み始めたとは言え、まだまだ寒い日。沼地を超えて蛮族王が占拠していた砦まで到着した。砦はアイリスの館に負けず劣らずな大きさだった。綺麗に成形された岩で作られているようだ。…一体誰がなんの目的で作ったのか?占拠前から存在するのは明らかで、岩の隙間から緑が寒さにも負けず苔むしている。どちらかと言えば立派な遺跡と言った方が言い得ていると思う。所々は倒壊していて、住居として使うには大幅な改修工事が必要になりそうだ。


 運河として使えそうな川と、疎らに自生している枯れ気味な大木。蛮族王は開拓するつもりがなかったのか、切り倒した形跡は無い。探索してみないと何とも言えないが、ダンジョンや目ぼしい物はこの土地には無かった。村として開拓するには十分な場所だが、それ以上大きくするのであれば、自ら魅力ある仕組みを作る他無いだろう。


 「良さそうな土地ですね、サトルさん。私も全力で協力させていただきますよ」


 ドーツクが魔物馬車から降りて、オウルベアをなでまわしながら周囲を確認している


 「ありがとうございます。ドーツクさんが手を貸してくれるのなら、荷運びや行商人の管理はお任せできそうですね」


 ドーツクは恭しく礼をする


 「お任せされました。ここに店を構えたいと言う商売人は山ほどおりますので、私で管理させていただきますよ」


 …出会った頃と態度が違いすぎてむず痒い。だが本当に慕ってくれているようなので何とも言えない。まぁ、好きにさせてみせよう。商売人のノウハウなんて知らないしな。


 この日はフォノスたちが周辺の探索、カルミアには荷解きと建材運びをお願いした。サリーは水質調査と魔道具の設置だ。イミスには大きなお仕事を任せてある


 ・・・


 翌朝、寒さとむさ苦しい笑い声で意識を覚醒させられる


 火の魔道具を備えた簡易テントから幕を上げると、なんとブルーノーたちのパーティーと、ブローンアンヴィル(ドワーフの採掘町)の幾人かがドーツクやサリーたちと談笑しているではないか。


 眠い目を擦りながらも彼らの輪に加わる


 「ブルーノーさん!?…どうしてこちらへ?」


 ブルーノーは俺を確認するや否や、無遠慮なハグを繰り出し、続けざまに俺の背中をドラムか何かと勘違いしていると思える強さでビシバシ叩き、豪快に笑う


 「サトル殿!領主になられたと聞きましたぞ!シールドウェストに帰還された次の日には発たれたと聞いて、慌てて追いかけた次第。サトル殿はせっかちだ!友への挨拶も無しに出発とは。いや…サトル様とお呼びした方が良いかな?ワハハ!!」


 ブルーノーは片手でひげを撫でながらも、俺の背中をビシバシする


 「ブルーノーさん…普通に今まで通りで良いですって……俺たちの仲でしょう。それと、シールドウェストではお祭り騒ぎで、長居できる状況じゃなかったんです。心配をおかけしました」


 …ブルーノー自体が、領主と接する対応じゃないからな。俺も冒険者感覚で絡ませてもらおう。気楽な仲だし。公の場でなければ何でもOKだ


 「さすがサトル殿!話が分かる。ワハハハハ!我が友だ!!」


 ブルーノーは俺の背中ドラムを更に激しくした。…このままビシバシ叩かれた続けたら…俺は…デスメタルバンドのドラムが行き着く先のような姿になってしまうのではないだろうか。ドワーフは力が強い。悪気がないのは分かるがね


 「そ、それで…今日はどうしたのです。こんな何もない俺の土地に来てくれたのは、ただの散歩と言うわけでも無いのでしょう」


 その問いかけで、ようやっとブルーノーの背中ドラムが止む。


 「そうだったな。サトル殿、突然で申し訳ないが…我々ドワーフを、ここに迎え入れてほしいのだ」


 ん…?


 「え…?今何と?」


 「ここに迎え入れてほしいのだ。我々ドワーフをな」


 ブルーノーが言ったことは聞き間違いじゃなさそうだ。


 「住民として欲しいと…?こんな何もない土地に……?」


 ブルーノーはフフンと笑ってみせる


 「サトル殿、何もないと言うがな。そんなことは無いぞ。我々ドワーフは代々、あらゆる資源と可能性見極める能力に優れる。この土地は素晴らしい町になる。それは間違いない…。最初に乗っかったもん勝ちという奴だな」


 …ブルーノーはそう言うが、ダンジョンが見つかったわけでも、鉱山資源があるわけでもない。何を言っているんだこのドワーフさんは


 「…資源、ですか?寒さで枯れそうな大木と、美味しい水の川、古めかしい遺跡くらいですが」


 真顔で返すと、ブルーノーは堪えきれずまた大笑いする


 「ワハハハ!いや、済まない。ま、他の誰もが気が付かないからこそ『才能』を語れるというものだ。今は我々を信じてほしい。我々は建築や武器、道具作り…町を発展させるうえで役に立つぞ」


 …ブルーノーが言うことはよくわからないが、ドワーフが力を貸してくれるならそれに越したことは無い


 「分かりました。こちらからお願いしたい提案です。ブルーノーさんたちの力を貸してください」


 その返事を聞くと、ブルーノーたちドワーフは、顔を見合わせた後に飛び跳ねて喜ぶ


 「さっすが我々の友だ!ガハハハハ!」「サトル殿の町を作るぞ!」「おうさー!」


 そしてブルーノーはまた俺の背中をビシバシとデスメタルする


 「ぐぇ…ぐほ…ぐはあ!嬉しいのは分かった!背中叩くの…それはやめて!」


 激しいスキンシップから逃げ去る俺を目で追うブルーノーは、誰にも聞こえないほどの小さな声で、ボソっと呟いた


 「我々の希望の輝く原石…それは、サトル殿。貴方自身なのだ」



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