領主編 15話
イミスは自身の力を確かめるように、拳をぎゅっと握る
「これが…ウチの新しい力……!」
「うん…無事にクラスアップ成功だ。おめでとう、イミスさん」
その言葉を聞いて居ても立っても居られなくなったのか、涙ぐみつつも勢いよく抱きついてくる
…今日は何かと抱きつかれる日なのかもしれない
「サトル君…ありがとう!……ウチ、今から試したいことがいっぱいできた!」
というのも束の間、彼女はすぐに離れて風のような勢いで言葉を残し、自身の部屋に戻っていく
…うんうん、この調子だと完全に何時ものゴーレム好きな女の子に戻ったな。結構なことである
そしてサリーだが……
「…zzz」
やっぱり寝ていた。…一度驚いて起きただろうに。とんでもないほどの睡眠への執着である
足元に転がっているポーチ付きのハンドサイズの錬金器具を持ちつつ、サリーを彼女の部屋まで抱えて持っていく。もうひとつ、謎のゴブリン像が転がっているが……これはあとでゴミ出ししておこう。多分ガラクタか何かだろう
ゴブリン像の目が怪しく光った気がした。…気のせいだよね?
・・・
夜が明けて、陽光が窓から差し込み始めた頃だった。庭から爆発にも近い音が響き渡り、素敵な目覚まし代わりを果たしてくれた
…一体何の音だろう?
急いで窓に向かい、庭の様子を確認するとイミスが武器の実験をしているようだった
彼女は俺の視線を感じ取ったのか、舌を出して謝罪している様子を見せる
…そんなオチャメアピールをしてもダメだぞ!
家から出て庭に出てみると、さっそくゴーレムを作っていたようで部品が散乱していた。不要になったであろう部品は犬のクリュが興味津々に噛みついたり転がしたりしていた。何時もは部屋でゴーレムの試作品を作っているようなので、考えついたものを作っていくうちに、部屋の中に部品が収まりきらなくなったのかもな。この調子じゃ眠ってないだろう
「ちょっと頑張りすぎじゃないかい?」
イミスを頭をかいて照れ笑いする
「えへへ…いつの間にか朝になっちゃってた」
ゴーレムを作り始めると寝ることもご飯を食べることも忘れちゃうイミスちゃん
そんな子が作り出した最新作の爆発式目覚まし時計を探していると、地面一部が焼け焦げている箇所を発見。
ゴーレムとは言ってもまだ腕だけの未完成品。手首には回転式のパーツがつけられていて、そこから何かが射出されるような形状をしている。人形を想定しているのか、マネキンに括り付けるように設置されていた。肝心のマネキンは爆風か何かでほとんど焦げてしまっていたが
「これは…?」
「あぁ、この子?なかなかじゃじゃ馬でねー!」
イミスがポンとゴーレムの腕を叩くと小型の剣が射出された。剣は弦の切れたような勢いで飛び出し、遠方の木に着弾すると、木ごと爆散した。…なるほど、これが犯人で間違いないようだ
「恐ろしい武器を作ったね…」
「アハハ!サトル君、違うよ。これはただの武器なんかじゃない。今から創り上げるゴーレムちゃんの腕!…パーツの一部なの。まだ腕しかないけど、新しい子が誕生したらサトル君に一番に紹介するね!……ウチが前で戦って、この子が後ろを守る。合体の他にも、そんな戦術があれば良いなって♪」
イミスはご機嫌な様子で、またカチャカチャとゴーレム作りを始めた
今までの彼女の戦法は、ゴーレムであるスカーレットと合体し、その防御力を高めるスタイルで戦っていた。パワーアップはできるが、必然的にゴーレム側の負荷が強くかかるのが課題だった。結果的にはスカーレットを失うことにも繋がった。これからは彼女がゴーレムを守り、連携し、戦うスタイルを構築する…ということか。今回のクラスアップで、ゴーレムを一戦力として分離させる手法が取れる。…さっそく自身の能力をフルに活用しているなあ。
…これ以上、邪魔しちゃ悪いな
俺は爆発四散したコゲコゲ部品をクリュから取り上げつつ纏めてゴミ捨て場に向かう
…ん?
ゴミ捨て場では、パジャマ姿のサリーが必死な形相で何かを漁っていた
…また彼女は朝から何しているんだ…?
俺が部品をゴミ捨て場に置くと、こちらに気がついたようで、急接近したのち、俺の肩をつかんで激しく揺らす
「サ、サトル!ゴブリン!アタシの、ゴブリン!おきもノ!ドコ!?」
揺らされ続け、頭がぐわんぐわんして気分が悪い
「あぁあぁ…うっぷ。あれなら、ゴミかと思ってそこに」
「ゴミじゃなイ!サトルのバカ![グレーター・リエゾン・シェイプシフト]!」
サリーは俺をポイっとその辺に追いやると、変性魔術で自身の腕を竜化させ、ゴミ捨て場のゴミたちを凄まじい力で散らし、お目当てのゴミ…じゃなかった。ゴブリンの像を探し出した。
…なるほど、彼女もクラスアップできているようだ。しかもなんの説明もなく上手く使いこなしている。彼女は専ら天才肌というやつなのか。努力肌のイミスとはやはり対照的だ。魔法も強力で、とても興味深い。こんな形でも新魔法を把握できて良かった。使用用途はとんでもなく、恐ろしくしょうもない使い方だが
「ん~!やっぱり夢じゃなかったのネ!おかえリ!ゴブ像!」
サリーは生臭い臭いがするゴブ像を家宝のように抱えて部屋に帰っていった
…変な子だ