領主編 13話
王都でのメインイベントも済ませた俺たちは、そそくさとシールドウェストへ帰還した
もう少しゆっくりしたかった気持ちもあったが、王子の絡み懸念や宿での対応からも開放されたい気持ちの方が強かったのだ。
俺はそのままアイリスと面会で、王都での出来事を簡単に話す
「――ということで、アイリス様の顔繋ぎもあって無事男爵となりました」
アイリスは腹を抱えて笑っていた
「クハハハハハ!…お前って奴は、何時も楽しい話題を持ち帰る男だ!」
…俺がピエロみたいな言い方はやめていただきたい。種を撒いたのはアナタなんですよ!
「はぁ…そうですか」
「ククク…まぁ、そんな顔をするな。私からも良い連絡がある。お前を見出した才と此度の戦の戦果から、私は男爵から子爵となる。これは当面、お前の領地へのアドバイス…つまり相談役を兼ねてのことだそうだ」
アイリスは今まで男爵としてシールドウェストを統治していた。アイリスが子爵となる以上、シールドウェストを含めて複数の領土を受け持つこととなるはずだが…
今回、スターリムは領土を南西へと広げ、その開拓と統治については男爵である俺が務めることになる。アイリスの言葉から察するに、子爵として本格的に動く前に、練習がてら後輩である俺への育成を言い渡されたのだろう。あの王がやりそうな手だ
「それはそれは…おめでとうございます」
「おいおい、サトルくん?それだけかい?そんな冷たい態度を取るもんじゃない。私は先輩なんだぞ~?これからも…いや、これからは、同じ領主としてお近づきになろうじゃないかぁ。もっと先輩を頼って良いんだぞ…?」
アイリスは酒をあおり、顔を赤くして抱きしめてくる
アイリスが俺にとってくるコミュニケーションは何時も過激だ。逃さないように後ろから締め上げる形で抱きしめるのがお気に入りらしい。これは機嫌が良いときにしてくる癖のようなものだと最近は割り切っている。
アイリスはスタイルバツグンだし美人なお姉さんなのでドキドキするが、これは狼に追い詰められて喰われそうになった羊の気分の様といった方のドキドキに違いない。しかしアイリスよ、この状況を見られでもしてみろ。カルミアがいたら目も当てられない悲惨なことになるぞ。
「ぐぐ…ぐるじい……で、では。戴冠式には先輩として後輩の門出を祝ってくれますか」
「あぁ、良いとも。今うちに滞在している連中にも話を回しておこうじゃないか。このスキンシップが終わり次第な…?」
頭をなで回される。…ダメだ、この領主は今俺を離すつもりがないらしい
嵐が過ぎ去るのを待っていると、執務室が開かれた
「領主様!デオスフィアの解析についてご報告が…!」
アイリスの私兵だ。助かった…私兵に助けを訴える目線を送る。しかし目線を逸らされた!
不機嫌な表情になったアイリスは、構わず俺を拘束している
「なんだ…?今忙しいのだ。手が離せないのが見えないのか」
…絶対忙しくないだろう。それと手が離せないのではなく、手を離さないの間違いだ。ほら、私兵君も反応に困っているじゃないか!俺を開放すれば良いだけの話だろうに
「し、失礼しました。では後ほど…?」
「いや、このまま聞こう」
このまま聞くのかよ!?
「は!承知しました!」
私兵君も承知しちゃったよ!?
「やはり捕虜は純粋なヒューマンではなく、全員、何らかの種族との混血であることが分かりました。検証の結果、このアクセサリーは混血であることが最低条件かと思われます。その者であればデオスフィアを着用し、力が増幅しました。しかし、シールドウェストの住民から混血の者に協力いただきましたが…大きな力の増幅は認められませんでした」
「多少であれば力は増幅するのか?」
「はい、ですが戦闘に利用できるほど明確なものではありません」
「…結構だ。引き続き頼む」
「は!失礼いたします!」
アイリスは名残惜しそうに俺を開放する
「サトル、済まないが私はこれから検証の立会に入る。まだまだ話がしたかったのだが…仕方が無い。戴冠式の話は滞在している連中に通しておくから、お前も準備を進めておいてくれ」
助かった……私兵君、良い仕事をしたぞ
「分かりました。では、失礼します」
今日はやることが山積みだ。戴冠式の準備もそうだが、サリーとイミスのクラスアップが先だな