領主編 12話
王都を去る前に観光がてら、考えをまとめたいと思ったので仲間には一日の休暇を伝えてある
宰相が手続きしてくれた宿が高級感ありすぎて居づらくなったので、俺は王都でも手頃な広場を探し出した。考えをまとめるには広場が一番良い…と思っていたのだが、そこにいた見知らぬガキンチョから魔物ごっこなるものを教授され、日が暮れるまでありがたいご指導を受けていた。
「じゃーなー!兄ちゃん!ゴブリンの真似は上手かったぞー!」
生意気なガキンチョは母と共に広場から去っていった
「そりゃどうも」
また無駄な時間を使ってしまった…。どうして俺は広場に行くとガキンチョに絡まれるのだろう
それが分かっていて広場に行く俺も俺だが
「ふぅ…ん?」
頭にアナウンスが響いた
*対象 サリー イミスのレベルが10に上がりました クラスアップが可能です*
おや…?どうやらサリーとイミスはレベルアップに勤しんでいたようだ。イミスは最近、ずっと落ち込み気味だったから、サリー辺りが連れ出したのかもしれない。いずれにしても良い傾向で…彼女たちも合流次第クラスアップさせようと思う
肝心の俺はレベル10になってもクラスアップすることは無かった。ただし、全てのステータスが2ずつ上がっている。これは適正クラスのメインステータスの上昇率に匹敵するから、俺としては結果に満足している。新しい能力も得たことだし、今後はこの能力もフル活用して領地開拓を進めていくことになるだろう
「領地開拓か…」
俺の仲間たちは騎士爵を叙勲されたが、俺との関わりを変えるつもりもないらしく、一緒に領地開拓を頑張ってくれるそうだ。これからは冒険者仲間ではなく、役割を分担して領地を運営していく仲間になるだろう。しかし、彼女たちだけではどうしても人手が足りない。他にも手伝ってくれる仲間が必要だ
俺の脳内に、蛮族王との戦いで力を貸してくれた仲間たちが浮かび上がる
「彼らなら…力を貸してくれるか…?」
まだ戦後処理などもあり、シールドウェストには俺との関わりがある仲間たちが滞在しているはず。彼らの力を借りることができればこれほど心強いことはない
しかし、彼らにも生活があり夢がある。それは冒険者の頂点であったり、未知の探索であったり、アーティファクトを求めてみたり、恩師への借りもあるだろう。俺の願いひとつで協力してくれるかどうかは分からないが、お願いの意思表示は無料だ。やるだけやっておこう
「まずは村…そして町への発展だ」
・・・
夜になり寒さにも耐えられなくなってきたので、逃げるように宿に戻った
宿というには若干高級感が勝ちすぎているが、入り口フロアには案内人が複数人待ち構えていた
「おかえりなさいませ、男爵様」
続けて他の者、受付をしていた冒険者までもが頭を下げた
そうか、爵位を持ったからこういうことになるんだ。
「どうぞ、お構いなく」
俺の一声でようやく皆が頭を上げてそれぞれ動き出す。これは慣れないな……
翌朝には王都を出ることを決意しつつ、部屋で眠りについた
* * *
少し遡って王城では……
「陛下…ご報告がございます」
宰相のアルは若干ばつが悪い様子で王へと進言する
「ウム…どうした?」
「下の報告から上がってきたものですが、どうやらサトルは王都への入場時、手違いで一度追い出されたようなのです。その後、一般入場口から再入場されたと。また、同時期に王都に入った子爵からも同様の言質は取れました」
「なんだと!?」
王はワインを置いていたサイドテーブルを叩き壊して、立ち上がる
「何故だ!シールドウェストからAランク冒険者の来訪は伝えているはずだろう!彼はただの冒険者じゃない!国にとって英雄にも災厄にも成りうる人物なんだぞ!!門番は誰だ!」
「はい…数年ほど勤めていた者で、部下の手違いだとの言い分です」
「部下とやらは何処だ…」
「逃げました」
「ム…?」
「新人のノームのようで、騒ぎを聞きつけるや否や、逃げたようです。また、身元を洗ったところ、シールドウェストで指名手配されていた者と一致しました」
「なんてことを……サトルには申し訳ないことをした」
「いかがいたしますか」
「判断を誤った門番は降格だ。逃げた者は王都でも指名手配しろ。サトルには向こう3年の支援に加えて謝罪として王都から資金の提供を行う。良いな?」
「かしこまりました」
…サトルの知らないところで支援が手厚くなることが確定していた