番外編 イミスの努力
頑張って短くしましたがそれでも長いです
昨日、サトル君が王さまから男爵っていう偉い地位をもらって、ウチは嬉しい気持ちで胸がいっぱいになった。でも、同時に少しずつ 少しずつ、彼が遠くに…ウチが近づけないくらい遠くに行っちゃう気がして、不安になった
相棒のスカーレットが、ウチを庇って死んじゃった日から、仲間はずっとウチを気にかけてくれている…けど、時間は待ってくれない。悩んでいる間にもどんどん皆が次の階段を超えていく。
あれからずっとスカーレットの影を追いかけるように、試作品のゴーレムを作っては壊し、作っては壊している。ゴーレム作りってなんだか一期一会で、どんなに同じ手順で作っても毎回違う子ができる。スカーレットとの出会いも奇跡的で、あの子とまた会いたくて、何度も作っているけど、あの子とはもう会えない。
もう一度奇跡がおきたとしても、あの子であってあの子ではない。新しい子に、過去の子を重ねるのはとても残酷なことだから。
このままじゃダメだって分かっている。ウチはサトル君の隣を歩いていたい
そのためにも、心も体も強くあらねばって、最近は前を向けるようになった。それから毎日、緻密な魔力コントロールとゴーレム製作のトレーニングを始めたの
今日はサトル君は領土のことで色々考えたいからって、ウチらに休暇をくれた。一緒にいたかったけど、サトル君は考え事をするときと、仲間と一緒に過ごす時間は分けたいんだって…ウチにはよく分からない考え方だけど、そういうなら仕方ないよね……
そういうとき、何時もはサリーちゃんと買い物するけど、今日はとても遊ぶ気分になれないなぁ。もっと強くなりたい…守られる側じゃなくて、守れる人になりたい。だから今日もトレーニングでもしようかな
そんな気持ちで王都をフラフラと歩き回る
何時もは飛びつくような奇抜なアクセサリーや服に興味が惹かれることもなく、王都の商店街にたどり着いた。
今日もここでゴーレム作りの素材を買って、宿に戻って何時も通りにトレーニング‥そう思っていた
店を渡り歩きひやかしていると、王都の冒険者グループの噂話が耳に入った
「なぁ、聞いたか?王都のダンジョン、見たことがないゴーレムが宝箱を守っているらしいぜ」
「王都のダンジョンでは新しい魔物はよく出るだろう。ただでさえ何が出るか分からないっておふれが出ているくらいなんだからよお」
「そうなんだが…なんでも、そのゴーレム…魔物のくせにヒューマンの言葉で話すらしいぜ。しかも人の形をしていて武器まで使うとか」
「なんだそれ!?本当にゴーレムか?ゴーレムったらただ言うことをこなすだけのデク人形だろうが」
「だからこそ、特別な魔物だって噂が回ってきたんだって!Cランクのパーティーが討伐を試みたけど、返り討ちにあって教会送りにされたらしい……」
「それは……オークにすら苦戦する俺たちには縁がない話だな…」
「まぁ、そうなんだが…宝箱の中身…気になるんだよな~」
うだつの上がらない冒険者の他愛もないダンジョンの話…だけど、今のウチには到底聞き逃すことができない情報があった
咄嗟に話をしていた冒険者の男に掴みかかってしまう
「ねえ!ちょっと!今の話、本当!?ゴーレム!何階層なの!?」
「うっわわ!?なんだ!?姉ちゃん、興味があるのか?」
そこで、ウチが今他人の胸ぐらを掴んでいるほど興奮しているのに気がついた
「あっ…ごめんなさい。でも、聞かせてほしいの!何階層なの?本当にゴーレムだったの?」
首元を掴んでいた手を離して頭を下げる
「い、いや…構わないけどよ……5階層だが…。嬢ちゃん、悪いことは言わねえ、あの魔物は俺たち冒険者でも――」
「ありがと!じゃあね!」
「お、おい!嬢ちゃん!」
ウチは居ても立っても居られなかった。冒険者の男が何か言っていたけど、聞いている時間も惜しい
ウチはすぐにそのゴーレムの存在を確かめたかった。なんでも良い、強くなれるためのヒントが欲しい。そのためにも、喋るゴーレムに会ってみたい
その衝動だけで最低限の装備を整えて、ダンジョンの入り口まで急いだ
装備はスカーレットがいないから、汎用ゴーレムのガントレット(武器)と防具型ゴーレム…どれも装備して使用するタイプ。少し不安だけど、ウチのワガママに皆の時間を奪うわけにもいかない。ここは一人で挑むわ
「よし…いくわよ。大丈夫、ウチならできる。おばあちゃん、スカーレット、どうか見守っていて」
ダンジョンの入り口に並ぶ。入場料を払って名前を書いて滞在時間を記入する。スタンダードな運営方式ね
「次の冒険者~」
ウチの番だ。名前を書き込む
「あの~失礼ですけど~お一人様ですか~」
受付嬢がウチに怪しい目を向けている。ただこんなのは慣れっこよ
ウチはAランクライセンスを出した
「冒険者Aランク、イミスよ」
「…」
受付嬢はそれを受け取って、黙って返してくる
「実力は認めますが~王都のダンジョンは、ルールとして~、二人からの入場のみ許可しています~過去に~高ランク冒険者が一人で麻痺の罠にかかって~そのままゴブリンに殴られ続けて~死亡した事故がありまして~~」
「な!?…ウチは今すぐ入りたいの!お願い!実力はこの通りよ。融通聞かせてほしいの」
「無理ですう~ルールですので~捜索隊も忙しいのです~りすくなんとかです~」
もう!こんなことで強くなれるためのヒントを逃したくないのに!
どうしようもないの…?
そんなとき、名簿にスラスラと名前を追加する子が現れた…名前は…サリー!?
「それなラ、これで文句ないよネ!」
「サリーちゃん…!?」
「ウフフ、友達のぴんちに華麗にケンザン、同じくAランク冒険者のサリーちゃんだヨ!」
「どうしてここに…?」
「ここのダンジョンで、このスバラシイ置物が発掘されたって商店街できいテ、今日はダンジョンアタックする予定だったノ!そしたらイミスちゃンが見えたかラ♪アタシ一人でも挑戦できなかったから、これでウィンウィンだネ!あっちなみにこれは金貨100枚したんダ~」
サリーは両手に抱えた土器を、赤子を扱うような優しさで差し出した。それは絶望したゴブリンをコミカルに表現した土偶だった。出来が悪く、所々欠落しているうえ両手を頬に目をひん剥いたその姿は見ているだけで不快指数がマックスになる置物だ。有体に言って誰も欲しがる人はいなさそうなシロモノであり、金貨100枚の価値もないし、どう考えても命をかけるに値しない置物だが、彼女としてはコレが価値ある宝物らしい。
「そ…そう」
彼女とは友達だが、彼女の感性については永遠に理解できないかもしれない
「それじゃ、いコ!」
「う…うん……」
受付嬢は承認と記述して頭を下げる
「いってらっしゃ~いませ~」
・・・
ダンジョン5階層
サリーちゃんのおかげで王都のダンジョンも苦なく進めることができた。
道中の敵を全て蹴散らし、噂の出どころである5階層まで到達。ウツセミのダンジョンとは違って、スタンダードな迷宮式のダンジョンね
先頭を進んでいると前方の部屋から強敵の気配が漂ってきた
「サリーちゃん…」
「うン…」
お互いに目配せしつつ部屋に入ると、退路が閉じる。…罠の一種ね
大きな部屋の奥には宝物を守るように、二足歩行の人形が仁王立ちしていた
全体は硬質な素材で作られている。腹には大きな魔石がむき出しで入っており、そのエネルギーを受け取るように魔力が体中に循環しているのがわかる。間違いなくゴーレムの類。この子はウチの知らない手法で生まれている
何故そうしたのかは分からない、でもウチは…そのゴーレムに話しかけていた
「ウチはイミス、とある村で代々、ゴーレムと共に生きる手段を受け継いできた者よ」
「…」
「アナタは誰に創られたの?なぜここで宝を守っているの?」
「ワカラヌ…ワカラヌガ…ココニハイッタモノハ、スベテ、オイダセと命ヲウケテイル。オマエニハ、ホンキデアイテヲスル」
ゴーレムの手元がガチャガチャとクロスボウ型に形態変化し、次々と大剣を射出して攻撃
一発一発の威力が凄まじい。大剣を避けても着弾位置の地面が抉れて岩が飛来するほどだ
「[メイジ・アーマー]![イリュージョン・ストライク]!」
サリーの防御魔法と攻撃魔法が同時展開、ゴブリンの置物を抱えながら器用に戦っている。なぜ置いてこなかったのかとか余計なことは考えないようにする
強大な火炎球はゴーレムに迫る。ゴーレムはもう片手を展開すると腕は傘のように広がり、火炎の魔力を吸収してしまう
「オォ!?ソンナー!?」
予想外な対策にサリーは大陸語が怪しくなるほど驚いた
でも、これにはウチも驚いたわ
こんな武器は見たことがない、仕組みも分からないけど、戦っていく最中にもウチが出会いたい子がインスパイアされていく
それならこれはどう!
「てりゃああ!」
ウチはガントレット型のゴーレムで力を増幅させ、ゴーレムを殴りつける
…ヘコミは入るけど、それ以上のダメージはダメね…
「サリーちゃん、ごめん!ウチの火力が足りない!」
「気にしないデ!」
全ての大剣を射出したゴーレムは、更に腕を回転させ形態変化。次は砲型ね…!
ゴーレムの魔石が一層輝き砲へと魔力が集中する。魔力の質からも、サリーの魔力を吸収して変換していることがわかる。その仕組み、一挙手一投足を見逃すまいと回避反応が遅れてしまった
「イミス!……そうダ!この置物デ…!」
サリーは咄嗟にゴブリンの置物を砲へと放り投げ、射出口を塞いだ。ゴブリンの置物は無駄に硬い素材で作られていたようで、スポっとハマった砲からなかなか抜けない。ゴーレムはすぐに置物を引き抜こうとするが…
「[エンラージ・マテリアル]!」
サリーの変性魔法によって、ゴブリンの置物は一時的にサイズが増大する。こうなっては引き抜くのは不可能だ
ベキベキベキ……
ゴーレムの砲からヒビが入る。魔力が暴発しようとしているのだ
「イミス!伏せテ!」
ウチとサリーは急いで伏せた
予想外な動きに対処できなくなったゴーレムは何もできず、エネルギーの逃げ道を失った膨大な魔力はゴーレムの腕の中で大爆発した
ボオオオン!
射出の衝撃で壁に叩きつけられたゴーレムは、シューーンと終息する音と共に動かなくなった
爆発の最中…自身の体に力が湧いてくるのが分かる
サトルは『れべるあっぷ』って言ってたっけ…ゴーレムを倒したから強くなったってことかな?
いや…それよりも!
「サリーちゃん、ごめんなさい!大事な置物…」
ゴブリンの置物は跡形もなくなっている
サリーはちょっとだけ残念そうな顔だったが、気を取り直し
「ウウン!イミスが無事で良かっタ!!それニ、サトルに見つかっても『返してきなさイ!』って言われちゃうシ」
無邪気にサトルのモノマネをしてケラケラと笑っている
「それにしてモ、イミスちゃんが作ったゴーレムそっくりだったネ!」
物言わぬゴーレムを見る。ウチが作ったものよりもずっと応用力の高いゴーレムだった。魔力を吸収する仕組みも聞いたことがない。この残骸は持ち帰って、新相棒の元にしてみたい。見たことがない遠距離攻撃、防御手段…このイメージがあれば、ステキな子と出会える気がするの
「ウチが作った子よりも賢い子だった。力はスカーレットに及ばないけど、それでもたくさんのヒントを持っている子だった。サリーちゃん、本当にありがと。ウチ、またチャンスを貰っちゃった」
「よく分からないけド、役に立って良かったヨ♪それより宝箱!」
そうね…!メインイベントの宝箱よ
二人で開けると中身は……
「魔石…?を抱えた置物ね」
「わぁ!すごく大きいネ!それニ…」
おばあちゃんの形見に貰った魔石よりも魔力出力が高い、緋色の魔石。あたたかな魔石光はスカーレットを思い出させる
自然と流れる涙、魔石を抱きしめた
「今度は…この子を誰にも負けない最強の子にしてみせる…からね……」
「…」
サリーは何も言わず、ウチの背中をさすってくれた
・・
少し落ち着いて立ち上がる
魔石を抱えた置物を見る。置物は飾りだろう。ウチが欲しいのは魔石だ
ウチは置物から魔石を剥がし取って、サリーに置物を渡した
「エ!?いいノ!」
サリーはとてもうれしそうだ
「うん、とっても釣り合うか分かんないけど…」
「十分だヨ!アハー!ドラゴンの置物ダー!ヤッター!」
サリーは魔石を剥がし取られた哀れなドラゴンの置物を大事そうに抱えた
そんな姿に耐えきれず涙と笑いがこみ上げてくる
サリーも一緒にニコニコと笑ってくれた
今流れている涙が嬉しさなのか、何なのか分からない。だけど、ウチは今日
強くなるために必要な足がかりを得た気がするわ
見ていて、サトル君
……ウチ、絶対に輝くから!