領主編 10話
王は何と言った?領土…?領主…?いやいやいや、そんなのアリ?
俺の気持ちを代弁してくれるように、アル宰相は王へ進言する
「陛下、彼らは何の正統性も無ければ血筋も関係がない、正真正銘の一般人です」
「ウム…そうだな?しかし、一般人には竜など屠ることはできぬ」
「…今までスターリム国は、ほぼ例外なく貴族が統治してきました。新たな土地をAランクとは言え、冒険者に与えるなど他の派閥は支持しないでしょう」
そうだぞ!アル、もっと言え!
「その派閥のどれもが、征伐を成せないままであった。問題を消し去った功労者を差し置いて、綺麗になった土地を治めるリーダーに、一体何人の人間が付き従うのだ?土地とは人あってのもの。それに、例外はアイリス嬢ちゃんがおる。あの子も腕っぷしでのし上がった者であろう」
「しかし…」
食い下がるアル
優しそうな顔の王が一変、ギロリと目を鋭くしてアルを睨む
「……失礼しました」
王は優しそうな顔に戻った。…王怖いよ
アルは引き下がって黙り込んでしまった。密かにアルを応援していた俺の希望もなくなった……アル~!
「サトルよ、宰相が失礼した。先代から継いだばかりでな…まだ弁えるべき道理の整理がついていないことが多いのだ。許してやってほしい」
「いえ…とんでもないです」
宰相の言っている内容も事実だしな
「して…土地だが……先にも少し触れた通り、蛮族王が不当に占拠していた拠点を作り変えると良い。その近郊を含め、正式に土地として与えよう」
…となると、シールドウェストの南西辺り…アイリスの領土とは隣同士だな。強い魔物が多く、開拓には時間を要するだろう。少なくとも現状、まともに交易したり旅人を受け入れたりできる状況ではない土地だ。蛮族王は先天的に魔物の扱いに長けていたから、魔物の問題は気にならなかったのだ
「強力な魔物が多いと聞く土地だ…一筋縄ではいかぬが時間をかけて――」
王が話していると、謁見の門前が騒がしくなった。門を開けてくれた男性メイドと誰かが言い合っているようだ。
―王子、今は謁見中です! ―うるさい!お前如き僕に意見するな!
その様子を確認できた王は深い溜息をつく
やがて一人の男が静止をふりきって、ズカズカと大股でこちらまで歩いてきた
男だが金髪で髪が腰下まで伸びていて、青い正装とは対称的に真っ赤なマントを身に着けている。年は俺と同じ程だろう。派手な格好だが、それに見合った顔立ちの良さがあった。目尻の面影が少し王に似ている
「父上!これはどういうことですか!」
父…ということは、王子だな……何番目かは知らないが
「これは…とは?」
王子は俺たちを見向きもせず指差し、王に噛みついていく
「これです!一般人とは言え功労者…まだ謁見は許されましょう。百歩譲って土地も褒美として与えることも良いでしょう。ですが、その規模と場所が問題です!そこは以前から僕が直々に統治すると約束していた土地であったはず!蛮族王を討伐できれば与えようと!僕を差し置いてこんな話を進めるなど、到底納得できません!もしやと思い話を途中から聞かせてもらっていましたが、これはどういうことなのですか!」
…この王子は蛮族王が占拠していた土地を治める予定だったようだ。話からして次期国王という感じでは無いだろう
「ウム…その通りだ。蛮族王を討伐できれば土地を与える。故に討伐を果たしたサトルに与える」
王子は歯ぎしりして何度も地団駄を踏む
「違う!約束が違います!僕との約束はどうなるのです!こんなのに…こんなのに僕の土地を…」
俺、なんか面倒くさいことに巻き込まれてないでしょうか……
「こんなの‥というがな…?お前は、サトルたちが成してきたことを一つでも体現できるのか?全く、それにこれは王である儂の命令なのだ。お前が口を出して良い理由は無い。約束というのもお前が勘違いをしていただけだ。大きな約束は、どのような間柄であっても書面で通せと何度も伝えている。そうでなくても、人を物呼ばわりするような愚者に、領土を持って人の上に立つ資格など無い!」
王の喝で若干たじろぐ王子だが、涙ぐみつつも俺に初めて目を向けて
「く……サトルとか言ったな!冒険者風情が……覚えていろ!」
来た時と同じように、大股で歩き踵を返して行った
「サトルよ…宰相に続き、愚息が大変な失礼を働いた。申し訳ない」
王の顔は疲弊している。…朝から働き詰めであろうに、こんなに気を回してくれるなんて、俺の方が申し訳なくなってくる
「いえ…陛下のお心遣いに感謝致します」
「ウム…領土を与えるにあたり、サトルには名乗る上での家系名が必要になる」
…そうか、俺は貴族になるから家系名が必要なんだ