25話
カルミアさんはやってくれた。賊の頭から一騎討ちを挑まれたときは心配だったけど、終わってみれば呆気ないものだった。勝負はカルミアが終始優勢…というより一瞬、相手が攻撃を行おうとした瞬間には、一太刀の元斬り伏せてしまった。しかも、しっかりと急所を外している。多少力加減を間違えてしまったのか、盗賊頭の片腕はサリーの回復薬をかけても、治療に時間がかかってしまうほど、傷と出血が多かったようだ。地味にサリーの回復薬も常識離れしている気がするが、これがこの世界のスタンダードなのか?時間があるときにでも調べる必要がありそうだ。ともかく、生き残った盗賊どもは、ヒポグリフ?が千切った手綱を再利用して縛り上げてある。町に到着次第、こいつらを衛兵に引き渡すためだ。
そういえば…ヒポグリフのような何かについて、どう進化したのか生態が知りたい。俺はすぐそばで休んでいたヒポグリフもどきにもたれ掛かりつつ、ルールブックを開いて、モンスターデータの項目が更新されていないか確認する。
「お!あったぞ。 何々…?」
黒っぽいヒポグリフ、特徴が全て一致しているので、間違いないだろう。名称は『スカイクローカーヒポグリフ』…というらしい。ヒポグリフの上位進化系だな。クローカーは外套を意味しており、空を纏うと比喩されるほど、この種は空と一体になり、恐るべき速さで狩りを行う。ヒポグリフから進化したクローカーヒポグリフは雑食性のためか、性格が他の魔獣よりも比較的温和で扱いやすく、高い隠密性と馬をも持ち上げる膂力を備えているそうだ。ただし、この種への進化例が極端に少ないためテイム出来ている者は限られると書いてある。進化条件は不明か…。丁度本を閉じた時。
*敵対勢力が無力化 戦闘終了を確認 対象 サトル、カルミア、サリーのレベルアップを確認しました*
転生以来、脳内音声で一番嬉しい瞬間だったかもしれない。俺は我慢できず独りでにニヤけてしまった。ヒポグリフもどき…もといクローカーヒポグリフくんは俺の笑顔を見るや否や逃げてしまった。
「いかんいかん…しかし!やはりRPGでかかせないのはこの瞬間だよなぁ!」
俺は超ウキウキな気分でキャラクターシートを確認した。
*カルミア*
レベル2 (上昇値)
ヒットポイント24 (+12)
筋力14 (+1)
敏捷力19 (+1)
耐久力17 (+1)
知力9
判断力10
魅力13
運動+7 機動力+7
・[オートインビジブルミラー]を獲得
パッシブスキル:敵から攻撃を受ける際、一定確率で残像を見せて躱すことができる
さすがカルミアさまだな。色々と可笑しい。そもそも、TRPGではレベルも能力の値もヒットポイント以外はそこまで大きな変動は発生しない。低レベルから能力値が三つも上昇するなんてありえないはず…。これも特別なクラスチェンジによる恩恵だというのか?こんなにも性質を変えてしまうのであれば、特別な方のクラスチェンジはホイホイしないほうが良いだろう。やるとしても、今回のように制限がついたものが望ましいかもしれない。しばらく検証が必要なことが増えてしまったな…。スキルはどうだろう?今回獲得できたパッシブスキルは、カルミアにピッタリなものだ。防御寄りのものなので、恐らく【モンク】から派生したスキルだと考察できる。防具が弱いカルミアには本当に助かるものだ。こうしてひとつひとつ、変化を見極めて記録して…ビルドを考えるのが最高に楽しいのだ。
*サリー*
レベル2 (上昇値)
ヒットポイント18 (+9)
筋力9
敏捷力16 (+1)
耐久力11 (+1)
知力19 (+1)
判断力15
魅力13
知識 +9 伝承 +6
知覚 +9 魔道具の扱い +7
・[変性薬作成]を獲得
アクティブスキル:能力値を一定時間上昇させる薬品を作る。ただし作成者にしか効果がない。
・変性魔法獲得容量+1
サリーの成長も魔法使いとは思えないものだ。これも特別なクラスチェンジを行ったが故だろう。変性薬があれば、一定時間自分の筋力や敏捷力を飛躍させることができる。カルミアの王道的な能力とは違って、トリッキーではあるものの、使いこなせれば非常に汎用性に優れたスキルだと言える。
*サトル*
レベル2 (上昇値)
ヒットポイント16 (+10)
筋力9 (+1)
敏捷力9 (+1)
耐久力10 (+1)
知力11 (+1)
判断力13 (+1)
魅力19 (+1)
・逆立ちの上手さを獲得。四秒もできる!やったね!
ってええかげんにせい!!…俺は本を地面に叩きつけて苛立ちを爆発させる。そして拾い直す。はぁ、あのさぁ…いや、能力値は正しく凄まじい上がりだよ?TRPGでは考えられないよ?でもね、逆立ちはちょっといらないかなぁって思うんですよね。切実に! 神様ぁ…俺も魔法とか使いたい!派手に敵をぶっ飛ばしたり空を飛んだりワープしたり剣や槍で超強えしてぇよぉ!!転生させてくれた神様、そこんとこヨロシク。
レベルアップの内容に一喜一憂を繰り返し、なんとか立ち直る。カルミアやサリーにレベルアップしたことと、新しい能力について教えてやらねば。あと一時的な護衛対象とはいえドーツクさんにも、ヒポグリフの特徴を伝えてやるべきだろう。腰を上げて服から草を払い落とす。
「お~い、サトルく~ん。僕が作ったご飯を皆で食べるぞ~こっちにおいで~」
いつの間にか日は真上に差し掛かって、温かい光と良い匂い。お腹も空いたからまずは腹ごしらえをしよう。泣くな俺、頑張れ俺。こんなにも楽しい冒険の真っ最中なのだから。
「今行きま~す!」