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領主編 9話


 玉座まで少し距離があるため、俺が先導して歩く。靴からでもレッドカーペットのふわふわ感がなんとなく伝わってくる。光の差し込みが計算され作られているためか、玉座が神々しく見えた。整列した近衛兵は武装しており、何十名といるが誰もピクリとも動かない。中身が入っていない鎧と言われたほうがしっくりくるほどだ。


 「そこで止まりなさい」


 王の御側付きと思われる者が玉座と少し距離がある位置で俺たちを止めた


 俺は玉座を直接見ずに男性メイド直伝のカカシ挨拶を練習通りに披露して膝をつく。俺に倣って仲間たちも同様の作法をとった。許可が出るまでは王様を見つめてはいけないし、発言もダメらしい。物を渡すときも人を挟むとかなんとか…面倒くさい


 「…フム。良い挨拶とは言えませんが、まぁ良いでしょう……陛下、次の謁見の準備が整いました」


 威厳のある若干しわがれた声がする


 「アルよ…先程も伝えたであろう。冒険者とはこのような世界とは無縁。故に、礼儀については所作ではなく真意を見て推し量るべきだと」


 「ですが、陛下…!」


 「所作は目的ではない。形式張ったおまじないでもない。彼らは、我が国の大切な友人である。ここからは儂が話そう。……よいな?」


 「…は!」


 「冒険者サトルと、その供回りの方々。どうか頭を上げてほしい。自由に話してくれ。先は宰相が大変失礼をした」


 口煩そうな御側付きは宰相だったようだ。顔を上げて初めて王の姿を拝見できた。威厳ある声とは反対に、顔は優しそうな、白いひげの立派なおじいちゃん。王冠、王笏と青ベースのローブを着用していなければ、親戚のおじいちゃんですって案内されても違和感がないレベルの親近感ある顔だった。その表情は柔らかく、安心感があった。


王の横に控えているのは宰相だな。男性で名前はアルと言ったか…年は若年層のようだが、切り揃えた髪にキリっとした表情でしっかり者といった印象だ。


 宰相を黙らせた王は、頭を軽く下げて挨拶をしてくれた


 「儂の名はデズモンド・インペリアス・スターリム…この国を統括している」


 先に名乗られてしまった。俺も名乗ろう


 「シールドウェスト冒険者ギルド『竜首のごちそう亭』に所属しているサトルです。ランクは先の蛮族王との戦いを経てAに昇格しました。パーティーを代表してご挨拶申し上げます」


 王は満足そうに何度も頷く


 「ウム……アイリス嬢ちゃんから話は聞いているよ。緊急用の連絡網からとは、少々驚いたが…あのおてんば娘らしいやり方だ。フフ……。数多くの町で功績を上げ、エルフ族やドワーフ族からの信頼を勝ち取り、ダンジョンの町、ウツセミでは竜をも屠った。他国の冒険者と戦った際は圧倒的な力を示し、町の権威を守った。蛮族王との戦いでは将軍として最も危険な作戦を担い、討伐を果たした。シールドウェスト…いや、この国にとって大きな貢献をしてくれた。こうして対面できたことを嬉しく思う」


 王は俺たちがしてきた数々の功績を読み上げるように、周囲にも聞こえるように話しているようだ


 その内容から謁見の間が騒がしくなる


 ―あの少年たちが… ―まことなのか…?


 王は咳払いをして場を留めると、俺の言葉を待った。俺は場が静まったのを確認して発言する


 「勿体なきお言葉です。俺たちが守りたい町、景色を本日に至るまで壊されることがなかった。それだけで本望です」


 「ウム……」


 王は自身のひげをナデナデして何かを思案している…考え事をするときにひげを触るのはドワーフの仕草に通ずる部分があるな、なんて場にそぐわない考えを巡らせていると、王から仕掛けてきた


 「代表としてサトルよ。そなたに問いたい。此度の活躍は挨拶のみに留まるものではないと、儂は判断した。故にそなたには褒美を取らせたい。如何様にも申してみよ」


 …きた!史上最大の選択、恐らく人生の分岐点。だが俺の目的は一貫して変わらない。ただ皆と笑顔でTRPGでもしながら楽しく過ごしたいだけだ。金貨は十分に稼いだ…あとはフェードアウトするだけで良い。ここで欲を張ってトラブルを持ち込むのだけは避けたいからな。


 「褒美は既に頂きました。こうしてご挨拶申し上げる切掛を頂いたこと…平和な町を守り通せたこと、皆の笑顔…それだけで十分でございます。これ以上頂くことはできま――」


 王は返答を予測していたのか、被せるように言う


 「それは、儂の判断を覆すことになると思うが…?儂は、此度の活躍は挨拶のみに留まるものではないと言った」


 ニコニコしたおじいちゃんだが、やはり王。腹芸では勝てないな……では無難な選択をしよう


 「で、では…金貨――」


 「戦後の地では必ず仕事にあぶれた者や生きる意味を失った者が一定数出てくるものだ」


 「え?…はい」


 「サトルよ。守りたい景色とは」


 「…皆の笑顔です」


 王はしてやったりの顔をして、自分の土俵まで持っていってしまう


 「道理だ。戦を終わらせた者は、道筋を立てる役割を担う。何かを始めた者は、必ずその後片付けまで行うものだろう。そなたにはその『素質』があるのだから。皆の笑顔のためにもな…?褒美とは結果を伴う楔ではなく、新たな研鑽のための糧なのだ。既に持っている物を幾ら貰っても、なんの糧にもなるまいて?」


 ぐぬぬぬ……この王、もしかして!


 「儂は、そなたには褒美として『領土』を与え、新たなスターリム国に連なる『領主』となる資格を与えたいと考えている」



 ええええええ~!?



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