領主編 6話
中継地点の町で補給を終えて、いよいよ王都までやってきた。国の中で一番栄えている町というだけあって、門は見上げるほど高く、城は遠方からも確認できるほど大きい。
門前では2つほど検問所を設けていて、ひとつは武器を携えた冒険者や他所からやってきたと思われる行商人らしき姿が目立つ。もう一つは並んでいる人や馬車が少ないが、身なりが良い人達や馬車の装飾が豪華だ。ここから察するに、貴族や重要人物、緊急搬送用の検問所だろう。俺たちは冒険者Aランクのため、貴族用の出入り口から入ることになるそうだ。
検問所前では重装備の兵士が門番、軽装備の兵士が立ち作業や事務手続きを行っていた。俺たちの番で兵士に止められる。一人の軽装兵士は不自然に身長が低かった。ノーム族だろうか?
「ウヒョヒョ…通行証か身分証になるものをお持ちでしょう~か?」
俺はゴテゴテなバッジだらけの金色Aランクカードを手渡す。…顔は防具で見えないが、なんか聞き覚えがある声なんだよなぁ
「ウヒョ!?こ、このカードは…!そ、そして此奴めは…!」
小さな兵は、カードを両手に持ったままプルプルと震えている
もしかして冒険者Aランクではこの入口を使えなかったのではないだろうかと不安になってくるが…
「御者さん、兵士の様子がおかしいみたいですが…本当にこの入口使って良かったのですか」
俺の問いに御者さんは自信満々に頷く
「あたりまえですぜ、むしろそのライセンスで通れない方がおかしいってもんでさ」
御者さんはせっかちなので、兵士の返答を待たずして馬車を入れようとするが、小さな兵が前に出てきて妨害する
「ウヒョ!?ちょちょちょ…ちょっと待て!……そうだ、そう、滞在目的はなんだ?」
御者さんは不機嫌そうな顔を作った
「冒険者Aランクは滞在目的や滞在料金を要求されることはない。一介の兵士に重要な情報が渡ってしまって、そこから情報が漏洩するほうが問題だからな。…それくらい知っているはずですぜ」
疑いの目を向けると兵士はより挙動不審になるが引かない
「そ、その通りだが……わ、わたくしめとしても職務を全うしているだけだ!すべてを話したまえ!話はそれからだ!それまではここを通せないな。ウヒョヒョ!」
「一介の兵士にとやかく言う資格はねぇはずですぜ!とっとと通してくんな!サトルさんは重要な仕事があるんだよ!」
御者さんと兵が言い合っていると、人が集まってきた。それを見かねた重装備の門番が仲裁に入る
「一体何の騒ぎだ!」
小さな兵はまくし立てるように俺たちに非があるような言い分を伝え、重装備の兵に最敬礼する
「此奴めたちが、旅の滞在理由を問うても拒否するのです!これは怪しい!怪しすぎますぞ!わたくしめ、検問所の鬼として、怪しい奴は一歩も通さぬ所存!ぜひ熟練かつ鬼のような公正極まる裁きをご照覧くだされ!ウヒョ!」
う~ん、やっぱりこいつ。あのノームっぽい気がしてきたぞ…
重装備の兵はため息をついて、俺たちの馬車と俺たちを交互に見る
馬車の装備はお世辞にも上等とは言えない。馬は筋肉のつきは良いが年老いて、馬車は木製、屋根は所々穴がある。俺たちの格好は、私服にローブというスタイル。これは先の戦争で所々傷んだり摩耗してしまった防具をガルダインに修繕を依頼しているためだ。今回は謁見だけなので強固な防具を持つ必要は無い。修繕完了まで鉄製防具を借りて使っている。…つまり、どこからどう見ても『一般人』に見える
重装備の兵はここでひとつ大きな誤ちをしてしまう。身なりから決め打ちしてしまい、身分証の確認を行わなかったのだ
「ふむ…『一般人』の方よ。ここの兵が言う通りだ。申し訳ないが、一般の検問所を使いたまえ。くれぐれも他のお貴族様の邪魔にならないように。判断は以上だ。これ以上の異議申し立てがあれば、捕縛させてもらう」
それだけ言うと重装備の兵は、俺たちの後ろに並ぶ貴族へペコペコと頭を下げに向かった
「ウヒョヒョ!!これは愉快!さぁ、一般人!とっとと並び直せ!シュ!シュ!!」
小さな兵は勝ち誇ったようにシャドーボクシングをかました
俺は冒険者カードを小さな兵から奪い返し、怒り心頭な御者さんの手を引く
「ほら、俺たちは大人しく引き下がるべきです。ここで荒立てては王に顔が立ちません」
俺たちは一般枠として並ぶが、王都の出入りはとにかく多い。時間もかかってしまうだろう…これは一日野宿かなぁ…
俺が手に持った黄金のカードが偶然、他の貴族の前で落ちてしまう。俺たちの後ろで並んでいた貴族らしき人物だ
「あの、これ落としました…よ…ってこれ!?」
「あ、あぁすみません。拾っていただき感謝します……急ぎますのでこれで…」
「あ、えぇ…!?」
重装備の兵が急ぎ足で去る俺たちを手であしらうと、ペコペコと頭を下げる
「ははは、すみませんね。一般人が紛れていたみたいで。偶に有るのですよ。ご不快にさせてしまったら申し訳ありません」
俺のカードを拾った貴族は、事態のマズさを把握したのか、顔を真っ青にして口をぽかんと開けた
「あ、あぁ、あなた…やってしまいましたね……」
「へへ…え?」
この兵がやらかしをしたことを知るのは少し先のお話