領主編 5話
王都スターリムは、名称に国の名前がついているだけあって、スターリム国では一番大きく栄えているそうだ。王城はもちろん、各ギルドやめぼしい施設はすべて揃っているとのこと。シールドウェストが未開の地を除いてスターリム国の最西端にあることから、大きな町を経由して向かう必要がある。
それぞれの町でもアイリスのように領主がおり、町を管理しているのだが、魔物の襲撃が絶えないシールドウェストと違い、各町は平和そのもの。魔物の襲撃に関しては、時折人里までやってきたゴブリンやコボルトに遭遇する程度のものだ。それも冒険者や騎士たちによってすぐに駆除される。王都に近づくにつれて道が整備され森は減って、魔物が弱体化し、治安は安定…賊も少なくなるようだ。いかにアイリスが統治する町が修羅めいているかがわかる。
治安が良いのは結構なことだが、この世界では魔物が生産を賄っている部分が大きい。魔物が少なければ肉や素材などの資源は生まれない。資源がなければ出せるものがない。そうなってしまえば流通も先細ってしまいそうなものだが、スターリムには大きな町を支えるに足る要素がひとつあったのだ
・・・
御者さんが懐からくしゃくしゃになったパンフレットを、荷台にいる俺へと放る。俺が受け取るのを横目で確認すると、前を向いて馬車の操縦に戻った。
「それが、スターリムを支える一本柱…通称、スターダンジョンですぜ」
俺はパンフレットを広げて表紙を見る。魔法で印字されているためか、紙の劣化具合につり合わない文字で『ようこそ!スターダンジョンへ ~ご新規さま限定パンフレット~』と書かれているのが分かった
「スター…ダンジョン?」
紙はそこそこ貴重だろう。道歩く人々へ見当をつけないで、やみくもに渡されたものじゃないはずだ。ご新規さま限定って書いてあるし、ダンジョンに入るときに初めて手渡されるものなのかも。御者さんは冒険者や雇われの傭兵でもしていた時期があったのだろうか
「…どれどれ」
頁をめくるとデカデカとした文字で『あなたの夢を叶えよう!一攫千金のダンジョン! そこに眠るは伝説の剣か?はたまた不治の病を癒す薬か!?』と書かれておりその下部にはゆるキャラのような生き物がにこやかな表情で剣と盾を持っていた。
「なんです…これ?」
御者さんは少し間をとって話始める
「…それは王都の地下に存在する未踏破ダンジョンですぜ。未踏破といっても、10階層程度であれば腕利きの冒険者共であれば到達可能と聞きやした。そこの階層辺りで出土したアーティファクトがなんでも、どえらい性能だったとかで王都の冒険者たちが賑わっているとかなんとか…」
俺はゆるキャラについて聞きたかったのだが、珍しく饒舌な御者さんのお話を妨げるのも憚られたので、おとなしく話を合わせることにした。本当にこのゆるキャラはなんなんだ……
「な、なるほど…ちなみにこのゆる…じゃなかった。アーティファクトはどんなものだったのですか?」
「それがあっしにもわかりやせん。話が誇張されすぎていて、人によって意見が分かれる始末で。どれが本当なのかも定かじゃないのですぜ」
「例えばどんな話があるんですか?」
御者さんは手綱を片手にまとめて、ふーんと空いている片手を顎に添えて考える
「あっしが聞いたのは、人を生き返らせるもの。不老長寿。…地震を起こす。なんて噂もありやした」
なるほど…確かに噂にしてもアーティファクトの性能に一貫性がない。誰も知らないというのが真相っぽいが…面白そうだな
「王への謁見があるからなぁ…」
サリーが割って入った
「アタシ、行ってみたい!ダンジョン!何があるか分からないなんテ、わくわくすル!」
カルミアが首をふった
「サリーあなた…私たちの目的忘れていない?」
効果不明のアーティファクトが眠る王都のダンジョンか…もし余裕があれば寄ってもいいかもな