領主編 3話
アイリスと話を済ませた後、そのまま冒険者ギルドへ向かった。
皆と戯れたい気持ちをグっと堪えつつ、ギルドへ入る。中は相変わらず耳が壊れそうなほど騒がしいが、その様子もすっかり俺の中では心地がよくなっていた。帰ってきたという感覚が安心感を生んでいるのか、人は環境に慣れる生き物だとはよく言ったものである。
板に張り出された依頼を眺めつつ、他の冒険者に混ざって受付に並ぶ。すると…
「おい、あの人サトルじゃないか…!?」「あら本当、この町の英雄よ!」「列を譲ろうぜ…」
何故か俺の前で並んでいた人たちがペコペコして列を譲りだした
「サトルさん!どうぞどうぞ!」「僕たちは後ろに並ぶので…ヘヘっ」
俺が並ぶだけで受付までちょっとした花道のようになってしまう。俺は冒険者として皆と同じ気持ちで並んでいたので、このような配慮は勘弁してほしいのだが…そこへ救いがやってきた
「おい、サトル!お前こんな所で何してる!」
振り向くと、俺にビシっと指差しを決めた何時ぞやの新人君がいた。何時もは腹立たしい言動だと思うのだが、冒険者ギルドで皆からこうも恐縮されてしまうと逆に寂しくなってしまうもの。今は新人君の強い当たりすら救いの手に感じる
俺は満面の笑みで新人君に近づき、肩を叩く
「やぁ、今日は冒険者ランク昇格のライセンスを取りに来たんだよ。君は?」
新人君は肩を強く払ってギャーギャー喚く
「やめろ、馴れ馴れしい!…まあいい。今日は仲間におんぶに抱っこな可哀想なサトルにも教えてやるとしよう。ふふん、なんたって今日は気分が良いからな!特別だぞ!…実は、俺は今日で冒険者Dランクに昇格したのだ!しかもソロだぞ!」
まだ発行したてなのか、汚れ一つない新品なライセンスをゴソゴソと取り出して自慢気に見せてくる
ライセンスを確認すると、確かにDランクと書かれていた。本物で間違いないだろう……なんだか、褒めてほしそうに見える新人君。確認している間にもチラチラと俺を見るのは止めていただきたい。男にツンデレをかましても需要がない気がするぞ!
俺はライセンスを新人君に返した
「す、凄いじゃないか!ソロでDなんて……うん、凄いじゃないか!」
語彙力ゼロな褒め言葉を送ると新人君は、それはそれはもうとても満足そうに、しかし表には出さぬよう努力しているような喜び方を見せつける
「ほ、ほんと…!?あ、ゴホン………ああ、当たり前だよ!いつかお前を倒すのも俺なんだからな!覚えていろ!…ところでお前はランク幾つになったんだよ?」
よく分からないが、何かを覚えていないといけないらしい。面倒だな
「うん、分かったよ…俺?俺は今日で……」
そこへ、いつもの受付嬢さんが騒動に気づいて駆け寄ってきた
「一体なんの騒ぎなの…あら、サトル様!?お待たせしてしまい、申し訳ございません!!」
「あ、あぁ、受付嬢さん。こんにちは!話に聞いているとは思うのですが、ライセンスを受け取りに来ました」
受付嬢さんは、深くお辞儀をした。何時ものように燥いだりしない…それはそれで結構なんだけど、急にどうしてだろう?
「ご足労いただき、ありがとうございます!こちらで今すぐにご用意いたします!」
受付カウンターまで案内されて、仰々しくゴテついた金色のカードとパンフレットを人数分渡された
カードには勲章のようなバッジがいくつか増えている。今回の征伐でついたバッジだろうか?
「王都スターリム、他冒険者ギルドの総意によって、これより冒険者サトルとそのパーティーメンバーをAランクに定めます。この町の冒険者で二組目の快挙です!どうぞカードをお受け取り下さい!このカードがあれば各町の入場は優先され、料金も発生しません。他、様々なサービスを優先して受けることが可能です。詳しくはパンフレットをご覧下さいませ」
いつの間にか俺を囲んでいた冒険者共は仰天して距離をとった後、拍手を送ってくれた。拍手は純粋に嬉しいが、何時も昇格したときは胴上げとか酒をぶっかけたりしてくれたのに、それが無いからちょっとだけ違和感だ
カードを受け取るとき、受付嬢の手が震えているような気がした
…う~ん。新人君以外、なんだか皆から距離を感じる……もしかしてAランクって俺が感じている以上に相当なことなのだろうか。
寂しくなって新人君に構ってもらおうと振り返ると、頼みの綱は五体投地していた
俺は絶望した
…もう、前のように対等な関係ではいられないのかな
冒険者としての俺は、居場所は…ここには無いのだろうか