領主編 1話
苛烈な戦いを生き延びた俺たちはシールドウェストに凱旋。先に吉報を受け取っていた市民たちは、ボロボロになった兵と俺たちを暖かく出迎えてくれた。花吹雪につつまれ、町の存続のために命を張った英雄たちへ惜しみない喝采が送られる。
俺たちはそんな声に応えつつ、城まで向かった。これはちょっとしたデモンストレーションだな。アイリスの統治下では蛮族王の武力にも屈さない。武で成り上がった彼女らしいやり方だ
城まで凱旋した俺たちは、後日アイリスと改めて話をする約束をとりつけて休養をいただくことに
…さすがに戦の後に打ち上げをやりきる元気はない。無駄に広い家に戻り、犬のクリュとスキンシップを済ませてからベッドにダイブ。そのまま眠りこけた。
・・・
その夜……
ベッドと一体型になっているというほどにバッチリと寝ていると、頭に声が響いてきた
「領地を統べる…者よ…その資格足る者よ…」
うーん…眠い
「領地を統べる…者よ…その資格足る者よ…」
…新手の嫌がらせだろうか。こっちは疲れているんだ。寝かせてくれ
「領地を統べる…者よ…その資格足る者よ…」
「ああ~~もう…うるさいな……」
体のダルさを頭を振って取っ払い、体を起こした。辺りを見渡すが俺の部屋で周りは暗く誰もいない
テーブルにある魔道具までヨタヨタ歩き、火を灯して椅子に座る
「はぁ…ダルい。眠い。一体誰だい?こんな時間に…まだ夜中だよ」
何もないはずの部屋の空間に光が集まり、やがてそれは人の形を形成した。…精霊か?
人の形をとった光は、女性のシルエットだ。それ以外は分からないが、間違いなく普通のヒューマンでは無いだろう
「資格足る定命の者よ…」
先程よりもずっとハッキリとした声だった
「…あなたは誰で、何が目的ですか?」
「私の名前はありません。私は、かの地で信仰対象として存在します。土地に住まう者の祈りに応え恵みを与え、時には命を救う。贄があれば、その見返りに繁栄を約束する存在…」
土着神らしき者は光の手から果実を幾つか出現させてみせた。俺はその様子を黙って観察していると、話を続ける
「あなたの力は、人の理に反しています。その力を見込み、頼みがあるのです。私は、あなた達が蛮族王と呼ばれる王の器を討ち破ったことを知っています」
蛮族王が不当に占拠していた場所の土着神か何か…
「その土地神が何か…?」
「…!?、時間がありません。あなたが混沌の南西を統べるそのときにまた…いずれ……」
光は徐々に霧散し、地面に転がっている果物以外の痕跡を一切残さずに消えた
…何だったんだ
バタン!と強く扉が開かれた。寝巻き姿のカルミアだ。手には刀を持っている。後ろには半分寝たままのサリーもカルミアに連れられていた。サリーは枕を持ったまま口を半開きにしている
「カルミアさん?…寝巻き姿、可愛いね」
カルミアは顔を若干赤くして、目をキリっとさせた
「そんな、場合じゃない…サトル、今、何か居た。強い魔力を感じた」
「あぁ、確かに何か…人ならざる者だった気がするよ」
…俺はカルミアと、話を聞いているかどうか怪しいサリーに対して、先程の状況を説明した
「―ということで、何か頼みがあるようだった。でも、すぐに消えちゃった」
「…無事なのね?」
「うん、無事。だと思う」
「…良かった。……今日は、心配だから私たちと眠って欲しい」
「え…!?」
「…さぁ、こっち」
否定する暇も与えられることなく、俺とサリーはカルミアの部屋に連行されて、一つのベッドで狭苦しく眠る羽目になった。カルミアやサリーはそのままスヤスヤと寝てしまったが、俺は緊張でそれ何処じゃない。
…全く、明日にはアイリスから重要な通達があると言われているのに、この調子じゃ朝まで緊張で寝れないよ。寝坊しないことを祈ろう
俺は無理やり目を閉じて、眠ることに集中した
人は寝ようという意識が働くと全く寝られなくなる。結果は火を見るより明らかだった
ここからは領主編になります




