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240話


 砦の外に出てみると、確かに遠方で敗走したはずの兵たちが集まっている。蛮族王がいなくなった今、戦う理由などとうに無くなっているはずだろうに…。かくも勝敗が決した今、負け戦と知ったうえで弔い合戦でもするつもりなのか


 「アイリス様、まずい状況です。俺たちは今戦えるほどの力を残していません。双方の条件は同じかもしれませんが敗残兵とはいえ数が数です」


 「あぁ…これ以上死者を出すわけにはいかん。ここは我が身を差し出して―」


 無礼だとは思ったが、アイリスの手を掴みそれ以上の発言を阻止した


 「アイリス様。この戦いは、貴方と貴方が納める町が無事であってこその戦いであり、そのための勝利です。ここで命散っても死んだ者は絶対に報われません」


 「では負傷した部下に、私のために死ねと言うのか。私を慕う多くが死んだ。そんな理由で部下を見殺しにして生きても、領主として胸を張れるのか!生きて、生きて地獄の責め苦でも味わえと!?」


 アイリスが見せる初めての弱音。常に強く逞しく誰からも頼られる領主という立場。だが今の彼女は一人の女性として人の命を尊び葛藤しているのだ。ある意味では俺への信頼であり、ある意味では打つ手がないことへの苛立ちでもある。無論俺たちを含めて負傷したすべての部下をぶつければ、勝てる。そしてアイリスの兵は命令すればそれを嬉々と実行してしまうだろう


 打つ手は無いのか……


 遠方の兵たちが意を決して突撃を開始した。悩んでいる時間は、もう無い


 ・・・


 その時――


 ブオオオオオン―


 戦場を支配するほどの大きな音が響く。これは法螺貝に近い音だな。


 「なんだ、何の音だ…?」


 「分かりません…ただ、可能性があるとすれば…」


 謎の音に不安を感じ、持っていた遠視の魔道具で笛の音が鳴った方角を確認する。すると敵敗残兵の北方面から見覚えのある旗を掲げた集団が馬でこちらに接近していることが分かった!もしかしてあれは…


 「やっぱりだ……アイリス様!増援です!味方です!俺たちは、助かるかもしれません!」


 「なんだと!?」


 アイリスは俺から魔道具を奪い取り指を指した方角をのぞき込む。魔道具からはランスフィッシャーの旗を掲げた『海竜のアギト亭』に所属する冒険者の集団たちで間違いない


 「あれは!ランスフィッシャーの援軍!?なぜだ?なぜ我らに加勢すると分かった!」


 「あはは…実は戦の前にちょっとした仕込みをしていまして…」


 そう、俺はこの戦の前に『可能な限りの援軍』を連絡用の鳥であるルチルちゃんたちを使って要請していたのだ。


 「だが、戦に巻き込まれればランスフィッシャーの海竜のアギト亭も無事ではあるまい。なぜ不利益を被ってまでシールドウェストに力を貸してくれるのだ?こちら側の援軍とも限らないだろう」


 俺は胸を張った


 「それは安心してください。俺はランスフィッシャーでも結構、人助けをして来たのですよ…?」


 風は俺たちに向いている。援軍はこれだけには留まらなかった



 「アイリス様、それだけではありません。周りをご覧ください」「何…!?」


 

 戦場に続々と援軍が到着する



 「我らドワーフは、友の力となるため戦場に参った!我らが斧を受けたい奴から前に出ろ!」


 ブルーノーのパーティーを筆頭に、ドワーフの採掘町、ブローンアンヴィルからドワーフたちが



 「ジロスキエント・ミトスツリーは、サトルとわが娘の味方だ」


 サリヴォル、ダイン、チャーオス…エルフの里の皆が



 「ハルバードウツセミ最強の冒険者集団!新生・イエローアイ!サトルの兄貴!約束を果たしに来やしした!お前らぁ!用意はいいかぁ!!」


 男共の雄たけびと、綺麗な音色


 ダンジョンの町からは、俺が力を与えてから心を入れ変えたオーパスを筆頭に、数百にも及ぶ冒険者たちが集まってくれた…やっぱり皆、相変わらず黄色のファッションだ



 「サトル様~~!!わたくし、戻ってまいりましたの~!!」


 挨拶代わりに先頭を走る敗残兵へ特大の火炎球を繰り出した巫女の姿をした女性…リンドウだ!ジョナークヴィーン…竜人の里の皆も集まってくれた。もちろんカプシもいる



 至る方面からの頼りになる加勢で形勢は一気に逆転


 敗残兵は思わぬ援軍に成す術もない


 「どうです…アイリス様。俺もやる時はやる男なのですよ!」


 ちょっとだけ自慢だ

 

 「サトル……お前という男は、いったいどこまで…」


 アイリスは目を大きく開いている


 今日はアイリスの普段見られない表情を二つも見ることが出来たな


 初陣にして大勝利、それならやっぱり決め台詞が必要だよね


 兵たちもパーティーメンバーも皆、俺の合図を待っている


 わかっているさ、勝利の宣言だ


 「愛と正義は必ず勝つ!この戦、我らの大勝利だああああ!」


 勝鬨に合わせ、俺たちの陣営は己の武器を掲げた


 ウオオオオオオオオ!


 ・・・


 ほどなくして戦場はサトルの援軍によって制圧される


 敗残兵の生き残りは捕虜となりシールドウェストに連行された


 サトルと蛮族王との戦いは、サトルの勝利で終わった


 絶望的な戦いからの奇跡的な勝利


 この偉業は瞬く間にスターリムとフォマティクス両国に渡り知れ渡ることとなった


 人外の力を手に入れたサトルたちを背景に国の思惑が錯綜する……


 ボロボロになった皆と笑顔で戦場を後にするサトルたちは知る由も無い


 ―冒険者編 Clear―



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