238話
スカーレットの埋葬が終わった。簡易的な墓になってしまったが何もしないで放置するよりはずっと良いはずだ。イミスはそれから一言も話すことは無かったが、俯くことなく目には決意めいた力が宿っている。
・・・
少し遅れてフォノスと別れた場所まで戻ってこれた。ここまでも首を掲げて知らしめて回ったおかげか、戦場の殆どで動きらしい動きも次第に無くなってきている。蛮族王というリーダーを失って、どうしたら良いか分からないのかもしれない。
フォノスと別れたあたりまで来たが、敵兵の死体以外が見当たらない
「フォノスー!いるのかー!?」
イミスの相棒のこともあって、俺の心はどうしてもマイナスな感情が過ってしまう。彼はカルミアが超強化されるまではパーティーで一番疾かった。アサシン系のクラスは対人戦闘と生存能力が高く、たとえピンチになっても逃げることは容易いはずだが…
「お兄さん…?お兄さん!」
幾つか積み上げられた死体からフォノスが這い出てきた。もしかしたら隠れていたのかもしれない
「フォノス…!」
駆け寄るフォノスを抱きしめて頭を撫でる。死臭がキツイが関係ない
「無事だったか!」
「うん、僕頑張ったよ。お兄さんも、やったんだね」
「あぁ、間違いなく倒した。この戦は俺たちの勝ちだ。…ところで、どうして死体に潜んでいたんだ?」
フォノスは慌てて何か言い訳を考えているそぶりを見せる。怖かったのだろうか、でも格好良いこと言っちゃった手前、引っ込みがつかなくなったとか…?でも、それでも必死で戦おうとしてくれたその気持ちは嬉しいぞ
「あはは…敵が怖くて…ちょっとね……」
「そうかそうか!でも、よく頑張ってくれたね」
フォノスと抱き合っている中、カルミアは死体の山に注目する。どの死体も一撃で首を掻っ切られており、余計な傷が一切ない。傷口が見当たらない者は体中がまだら模様で、劇物にでも触れたかのような皮膚だった。どの敵兵も所持品を漁ったような服の乱れが確認できる
(…?あの子、何か隠している?)
カルミアは死体をかき分けると、人一人分入れるかどうかといった縦穴が見つかった。
自然な素振りでバレないように覗いて見ると、縦穴の中から比べ物にならないほど強い死臭が漂っている。カルミアは直感的にそれは数百にも及ぶ死体だと判断した。
(穴を掘って殺した敵兵を可能な限り埋めていたのね。でも何故…?)
カルミアは死体の山から離れて、サトルとフォノスの会話を眺める
フォノスはキラキラした目で懐から麻袋を取り出すとサトルに手渡した
「お兄さんこれ、敵の偉い人が持っていたんだ。何かの役に立つと思って」
「これは…例の石か!」
麻袋の中身は全て石だった。敵兵が手の甲に身に着けていたもので間違いないだろう。
「褒めてくれる…?」
「ありがとう!フォノス、偉いぞー!!これがあれば石の調査も進むかもな!」
フォノスを更に強く抱きしめるとフォノスは満足そうにケラケラ笑う。その表情は本当に幸せそうだった
「アハハハハ!やった!お兄さんに褒められた!頑張ってころ…頑張って良かった!」
(…サトルに、甘えるために敵兵から持ち物を奪っては全てを殺していたのね。この様子だと皆殺し…投降すらも)
カルミアは、フォノスに狂気じみたサトルへの忠誠心を感じとる。サトルを慕うという意味合いでは着心地知れる仲間なのかもしれないが、彼はサトルのこととなると、手段に容赦や手加減という概念が無い。彼にとっては、サトルに褒められるという動作ひとつとってしても、人の命と釣り合っていないのだろう
「…よし、フォノス。そろそろ行こう。アイリス様もお待ちだろうし」
「……うん、分かったよ」
・・・
砦前まで戻ってきた。足の踏み場もないほど敵と味方の死体で溢れかえって、砦は一部が倒壊している。だが、なんとか砦と分かる程度には体をなしていた。戦場の中心だったとはいえ、本当に激しい戦いだったことが伺えるな
味方の生き残りや衛生兵は忙しなく走り回り、負傷者の対応に追われているようだ。砦の門前ではアイリスが動ける兵に指示を送っている
攻撃が止まったことで、外で動けない負傷者にも手が回るようになったのだろう。今はその救助中という訳か。肝心の敵の生き残りは敗走するか蛮族王の天幕方面だろう
俺たちを確認すると兵たちは喜び叫ぶ
「サトル様ご一行が帰還なされたぞー!」「蛮族王の首だー!俺たち、本当に勝ったんだ!!」「生き残ったぞおおおお!」
その騒ぎで、アイリスは俺たちが戻ったことに気が付き振り返ると、いつもの凶暴な笑みを浮かべた
「サトル、それに皆!本当によくやった!」