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237話


 「蛮族王、討ち取ったぞおおおお!」


 俺は蛮族王の首を掲げながら、カルミアの肩を借りて駆ける。とある鍔迫り合いをしていた兵たちは、その姿勢のままこちらに注目すると、争いを止める。…そう、もう戦う意味は無いだろう。お前たちのボスは死んだのだ。


 とあるアイリスの兵は歓喜し、勝鬨をあげる。一方で蛮族王の勢力の兵は焦るように敗走する者もいれば、脱力しその場に崩れ落ちる者も


 敵の士気を完膚なきまでに挫くにはこれが一番効果があるのだろうが…


 気がかりなのは俺のパーティーメンバーだ。時間を稼ぐためとはいえ、皆一人で置いていってしまった。可能な限り元来たルートを戻ると、まずはサリーを発見


 「サリーさん!」


 慌てて駆けつけようと思ったが、足が癒えておらず躓いてしまう


 「サトル!蛮族王、倒せたノ!?ヤッター!でも…ププ、ボロボロだネ」


 サリーは山積みになった死体を背に座っており、いつもの笑顔を披露する。だがその笑顔も少し、疲れているようにも見える。羽の生えた魔物と人の死体の山は数えるのが億劫なほどあり、その戦いが一筋縄ではいかなかったことを示している。その証拠に、サリーのローブもボロボロになっていた。きっと、ずっとここで新手の足止めをしてくれていたんだ。俺たちがやり遂げると信じて…


 「うるさいな…サリーさんも人に言えないでしょう。こっちのセリフだって」


 手を貸してあげると、勢いのまま抱きついてきた


 「サトル……良かっタ」


 「それも…こっちのセリフだよ。生きててくれて、本当に良かった」


 「みんなとハ、まだ合流できてないノ?」


 「あぁ、今からだよ。来た道を戻っているところだからね」


 「それなら急がないト!」


 サリーは慌てて手をワタワタさせた。可愛い


 …


 サリーの安否と合流を果たして、イミスの場所まで向かう


 現場に近づいていくにつれて、焼け焦げたような臭いが強くなる


 所々で黒煙が上がっていて心配になるが…


 戦いの場となったのであろう中心でイミスを発見した


 「イミスさん!!」


 イミスは武装解除モードになっており、スカーレットと思われるゴーレムを膝枕して俯いている


 周囲の敵は全て原型を留めていない程に損傷しているが、イミスは無傷だった。ただ…


 「サトルくん…」


 イミスに膝枕されているスカーレットはうんともすんとも言わない。目から光が消えており、体の大部分は破損していた。大破してしまっているのは明確だった


 スカーレットはイミスに作られた時から、二人はセットでずっと一緒だった。機械だから修理すれば良いだとか、そんな野暮な考えは無い。紛れもなく彼女には感情があり、俺たちと戦ってきた仲間であることには違いないから


 「イミスさん…」


 「スカーレットちゃんがね…守ってくれたんだよ。ウチが油断してて…相手は自爆覚悟の攻撃を出してきて、ウチ、どうすることも…できなくて……」


 「…」


 「ウチが守るべきだったのに、守られてしまって…。おばあちゃんの形見の魔石も壊れちゃった」


 「………そうか」


 俺が振り絞って出せた言葉はそれだけで


 これは戦争で、仲間一人も失うことなどないと、都合の良い考えでいたわけではない。どのパターンも想定して悔いが残らないように行動してきたつもりだ。でも、それでも…ゴーレムとはいえ、いざ仲間の死に立ち会うことがこんなにつらいことだとは思わなかった。


 俺の意図を汲み取ってか、イミスは立ち上がった。目は潤んでいるが、前を見据えている


 「サトルくん、ウチね。もっと強くなりたい。もっと料理も上手になって、いつか町に自分だけの酒場を開くの。そのためには、みんなが笑っていられる世界を作りたい。だからもっと力が必要なの」


 「…あぁ。自分の想いを通すためには、力は絶対に必要だ」


 「うん、だからウチ。強くなるから…。このパーティーで一番強いカルミアちゃんにも負けないくらい、何でもできるサリーちゃんにも負けないくらい。絶対に」


 「…あぁ、スカーレットも、きっとそう願っていると思う。強くなって、強く生きることを」


 そこから彼女はあまり口を動かすことなく、スカーレットの埋葬を進めた。


 最適解は、一刻も早く首を掲げて回るべきなのかもしれないが、俺たちはその埋葬を手伝った。スカーレットがいなければ、ここまで来られなかっただろう。何処かで死んでいたかもしれない。だからこそ、必要な時間だと判断した







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