229話
蛮族王は鉄塊を片手で自在に扱い、更にもう片方の手で召喚した宙を舞う大剣を装備した。
大剣はリビングソードの一種だろう。リビングソードはそれ自体に殺意を研ぎ澄ませたような意思が宿っている。基本的には相手を突き刺すことしか考えない魔物で、食事も睡眠も必要がなく、浮くことに全ての魔力リソースを割いているため、基本的に魔法は使わない。無機物という点ではミミックに近いが、待ち構えるミミックとは違い、リビングソードはとにかく動きまくる。常時浮いており、敵を発見すると刀身を向けて飛んでいく方法で相手を仕留めるのだ。
蛮族王のクラスは恐らく剣士系と魔物を扱うクラスのデュアルだ。魔物のリビングソードを武器とすることで、鉄塊との二刀流を実現したといったところか?
「カルミアさん、気をつけて!あの剣はそれ自体が魔物だ!勝手に動き回るかもしれない!」
「ほう…ただのお飾りだと思えば、少しは魔物に詳しいらしい。だが、その仕組みに気づいたとて俺を止めることなどできないがな!」
蛮族王はカルミアに接近して鉄塊を振り下ろす、カルミアはバックステップで回避。鉄塊は地面に直撃して大地を揺らす
武器を持ち上げようとするスキをカルミアは逃さない。距離を詰めて蛮族王の首を断ち切るように太刀を横に打ち払って切るが、もう片方の剣で防がれた
「私の太刀筋が見えるの?」
「あぁ…お前の剣は大したものだ。威力も速度も人のそれを超えていると言ってもいい。単騎で乗り込んできた理由も納得だ。通常であれば今ので首が飛んだだろうな。…だが!」
蛮族王はリビングソードでカルミアの攻撃を弾く。フンと気合を入れると、更に手の甲から黒き靄がその大きな体をより濃く包む
「俺にはこれが…ある!この攻撃を受けきった者は一人もいない」
先程よりも素早く鉄塊とリビングソードを上段で構え、カルミアに迫る
「絶望を受け入れろ。[暴虐滅斬]!」
大きな体を存分に利用し、鉄塊とリビングソードを交互に振り下ろす。鉄塊を振り下ろしては、リビングソードを振り下ろす。外せばまた鉄塊を振り上げ振り下ろす。またリビングソードを振り上げ振り下ろす。幾度となく繰り返される暴力的な斬撃攻撃だ
カルミアは鉄塊から繰り出される攻撃を回避に徹し、リビングソードは刀で受け流す。この攻防が高速で繰り返されており、俺の目でもギリギリ追えるかどうかの嵐のような攻撃をカルミアも負けずと回避し受け続ける
…カルミアが頑張っている。俺にもできることをやるぞ
俺はルールブックを開き、蛮族王の弱体化を試みる
「対象、蛮族王のアレックスを[農奴]へクラスチェンジ」
*試行に失敗 レジストされました。対象のレベルがサトルを上回っています*
…想定していたがやはり、そう上手くはいかないか。奴は俺たちよりもレベルが高い…それが1なのか2なのかは分からないが、俺が使える方法での弱体化は難しいのか。ファイアブレスはまだ物にしていない。現状指向性を持たないから手を借りなければ漏れなく俺自身が焼け死んでしまうだろうし…
俺が手をこまねいている間も戦いの状況は変化していく
斬り結んで1分も経過していないが、既にフィールドはボコボコ。いかに戦いが激しく凄まじいものかが分かる
「ハハハ!これを受けきるか、女!それならこれはどうだ!」
蛮族王はリビングソードを投擲する。剣は激しく回転しカルミアへ到達するが、これも刀で打ち払う
リビングソードは勢い余ってカルミアの背後に飛んでいくが、そこへ蛮族王が追撃の一撃
「剣を投げるなんて、自暴自棄になったのかしら?」
「フン…それはどうかな?」
蛮族王は企むような笑みを見せる。…リビングソードは自律できる…ということは、そうか!
「カルミアさん!後ろだ!」
飛んでいったはずのリビングソードはブーメランのように戻ってきた!
「ッチィ![迅雷脚]!」
背後から迫るリビングソードを躱すため、足技の威力を使って蛮族王が振り下ろした鉄塊をジャンプ台にバック宙で回避した
蛮族王は溜息をついて、一歩手前でピタっと止まったリビングソードを手に取る。どうやらこれで決めるつもりだったようだ
恐ろしい奴だ。リビングソードを自在に操り、手元から離れても独自に動いで攻撃をしてくる。
「ここまでで生きられたのは女、お前が初めてだ。どうだ?俺の剣は凄いだろう。さて…お前が何処まで耐えきれるのか…見ものだな?」
蛮族王は更に魔法陣を展開する
…まさか




