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228話


 「来な…」


 蛮族王はこちらから攻撃するまで待っているようだ。強者の余裕か否か…しかし、こちらとて負けるつもりは微塵もない


 「あぁ、俺が相手―」


 「待って」


 カルミアが俺の肩を掴んで止める。そのまま無言で蛮族王と相立った。どうやらカルミアは蛮族王とのタイマンを求めているようだ


 「私がやる」


 カルミアは大太刀を振り払うと、その勢いに任せて鞘を蛮族王に投げ飛ばす。カルミアの初見殺し技だ。大抵の賊は、これで不意をつかれて頭を潰されるか、戦意を喪失する。


 人外の膂力で抜き放つ鞘は最早弾丸のようだ


 超高速で迫る鞘。しかし、蛮族王は大剣の刀身で咄嗟に守った!


 衝突時にガァンと頭に響く音が鳴り響く。岩をも砕く丈夫な鞘は大剣にぶつかった衝撃でくるくると回転して何処かへ飛んでいった。


 蛮族王は面白いものを見つけた少年のように無邪気な笑みを浮かべる


 「ほう…お前がリーダーの懐刀といったところか?そこの男よりずいぶんと強そうだ。立ち振る舞いに隙がない。殺意を研ぎ澄ませた不意打ちは芸術的とすら言える。口だけのその男には過ぎたる人財だ」


 「…サトルを愚弄するのは止めろ」


 カルミアは[電光石火の構え]をとった。ひとつ大きな呼吸を挟むと体からオーラがほとばしる


 蛮族王は目を丸くする。どうやらカルミアの戦闘スタイルに驚いたようだ


 「その構え…メイガスの民か…?それにしては魔力が感じられないな。そのヒリつくような力はモンクの気術に近い。そこらのメイガスとは違うということか?ますます面白い奴だ。気に入った。殺すのはもったいないな……痛めつけたら俺の女にしてやるよ。俺はそこの口だけの男とは違うぞ?俺自身が戦うからな。きっと考えも変わるだろう」


 言いたい放題な蛮族王だが、カルミアは冷静に否定する


 「…お前は勘違いしている」


 「ん?」


 「お前は勘違いをしている。サトルは戦っているわよ。ここに来るまでに、たくさんの葛藤を繰り返していた。優しい彼は涙を堪えて難しい判断を下し続けてきた。お前は言った。王が王たらしめるは覚悟と強さだと…サトルは誰よりもそれが備わっている。だから私は彼の側を離れたりなんかしない。彼が思い描く未来を見たい。私はサトルの道を切り開く剣士。そしてサトルは皆を導く存在」


 蛮族王は指を指して笑う


 「…?クハ…ハハハ!何を言い出すかと思えば。そこの男はお前ほど強くもあるまい?それの何が強さだ。何が涙を堪えるほどの覚悟だ。笑わせるな!」


 カルミアの気が体中に行き渡り、電流のようなエネルギーが発生する


 「『強さ』や『覚悟』は一つだけじゃない。困難な状況でも人を思いやれる強さ、諦めない強さ、人を信じ抜く強さ。協力し合う強さ。そして、サトルは私達のために、そして今は町のために…いつでも命を張ってきた。紛れもない想いの覚悟。そのどれもが、代え難く尊い人の強さなのよ」


 「そんなもの…まやかしだ。そんなもので人は救えぬ!」


 「そうやって諦めて弱者をいたぶるだけのあなたが作り出せる未来は、一体どれほどのものなのかしら」


 蛮族王はとうとう堪忍袋の緒が切れたのか、顔を真っ赤にして叫び散らした


 「こ…この現実知らずのくそあまがああああ!」


 鉄塊を地面に突き降ろすと地面が揺れる。さらに鉄塊を中心とした黒き魔法陣が発生したと思えば、そこから無数の魔物が生み出される。魔物はゴブリンからオーク、エレメンタル系モンスターからガーゴイルまでレパートリーに富んでいる。蛮族王は魔物使いのクラス持ちか…?それにしては剣士っぽさもあるが


 「殺れ!!」


 蛮族王がカルミアへ鉄塊を振るうと、呼応した魔物たちは一斉にカルミアへ飛びかかっていく


 「はぁぁッ!…[雷閃一文字]!!」


 カルミアの刀から繰り出される渾身の一撃が瞬間的に場を白く染める


 「フン…!」


 視界が戻った時には襲いかかってきた魔物の背後へ移動しており、血振りをすると轟音雷撃が加わり視界に映る全ての魔物を一刀両断にしてみせた


 蛮族王はたいそう驚いたが、さすがに肝が据わっているのか。すぐに状況を判断した


 「ほう……モンクのような強靭な肉体から繰り出す気術に加え、メイガスの魔法剣を模した型。やはりか。女、お前は『デュアルクラス』だな?奇遇だな…」


 デュアルクラス…TRPGにおいて、2つのクラスを取得したキャラクターを指す。2つのクラスの良いとこ取りができ、使いこなせる者がいれば無類の強さを誇るほどの利点がある。一方で、デュアルクラスにはデメリットも大きい。成長が遅いことと、どちらのクラスも極めることができないという弱点がある。


しかし、俺が持つ能力は、事実上デュアルクラスを統合し、一つの全く新しいクラスを生み出すことができるものだ。カルミアはメイガスとモンクを併せ持つ『剣聖門』だ。


 蛮族王の読みは、ある意味では正しいが、正確には間違えている。俺がイレギュラーである以上、読みを外すのは仕方がないことだが……


 「俺も『デュアル』だ」


 蛮族王は空いている手で更に魔法陣を展開すると、そこから大型の宙を舞う剣を呼び出した!




* * *

TIPS:

デュアルクラス

2つのクラスを自由に組み合わせ、オリジナルのクラスの創造を可能とするTRPG独自のクラスシステムで、スターフィールドの転生世界でもこの理は名称のままで存在する。

剣士とプリーストであれば、剣と回復魔法を両立できる

スカウトとナイトを組み合わせれば、前衛がこなせるスカウトになれる

更にレベルを上げることでそれぞれは上位クラスとなり、特別なアイテムがあればその組み合わせを変更することもできた。

RPGやゲームに慣れた者であれば、レベルに見合わぬほど強力なキャラクターを創り出せる一方でデメリットも存在する


TRPG上では原則、レベルは20までしか上昇しない。レベル20は通常のゲームに置き換えると100レベル相当といえば分かりやすいだろうか

つまり、剣士のシングルクラスであれば『剣士』を20まで上げることは可能だ。文字通り、剣士を極めることができる

しかし、デュアルクラスでは『剣士』がレベル10『プリースト』がレベル10といったようにクラスレベルを分散する必要がある。分散の比率はプレイヤー次第だが。分散すればするほど当然、覚えられるスキルも相応のものとなってしまう。自由度がとても高い分、計画性が重要な仕組みなのだ。


使いこなせばこの上ない強さを持つキャラクターを生み出せるだろう。


ちなみにスターフィールドの転生世界では、デュアルを会得するためには、両技術の長期間に渡る修行や、先人からの指南を受けるといった何かしらの修行過程を経る必要がある。そのため、デュアルのクラス持ちは希少なのだ




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