226話
敵飛行部隊は俺たちの存在を認めると、会話をする暇なく魔法を打ち込んできた
「奴をこれ以上進ませるな!てぇー!」
部隊の先頭にいた男が手を下ろす。先んじて魔法の発動準備でも整えていたのだろうか?男の掛け声に合わせ、多数の高威力魔法が俺たちへ一斉に飛来した
「っく…!容赦なしか」
「サトル!カルミアちゃん!アタシのそばにきテ!」
サリーは俺たちの前に出て、魔法を素早く展開する!
「[メイジ・アーマー]!ついでニ[コミュナル・プロテクション・フロム・コンディション]!」
メイジアーマーもプロテクション系の魔法も本来、人に対して覆うように使うものだ。これは消費する魔力が大きくなってしまうからなのだが、サリーはお構いなしに結界型にアレンジして展開する
俺とカルミアはサリーが生み出した防壁に入り、攻撃をやり過ぎせるか試みる。
魔法が衝突することで、飛来する魔法の威力を物語っているように耳障りな破裂音が絶え間なく響く
上空からの絨毯爆撃に対抗するための即席防壁。サリーの突飛なアレンジはうまく働き、俺たちは大きなダメージを受けることなく、ほとんどの魔法を防ぎきった。サリーは自信満々に胸を張る
「アタシに魔法で対抗するなんテ、文字通り100年早いかもネ!」
「う、嘘だろう…」「あれを防ぐなんて人じゃねぇ」
これまでこの技で決着しなかったことがないのかもしれない。自慢の絨毯爆撃が防がれたためか、飛行部隊は動揺している。
「狼狽えるな!冷静になれ!あのような大技、そう容易く何度も使えるものではあるまい。こちらが上空にいる以上、攻撃し続けられる私達の優勢に変わりはないのだ!」
「…そうだ!俺たちにはこの魔物がいる!」「おう、力尽きるまでぶちかましてやるぜ!」
しかし、隊をまとめる先頭の男が檄を飛ばすと、すぐに持ち直した。
…飛行部隊の皆さんには申し訳ないが、サリーの魔力は無尽蔵と言えるほどに膨大であり、その成長と彼女特有の自在な応用力は未だに留まることを知らない。一度と言わずメイジアーマーやプロテクション系の魔法であれば、何発でもやってのけるだろう。こちらの命を取りにきた以上、それを教えてやる道理もないけどな…
だが問題は時間だ。空中からのヒットアンドアウェイ等の戦法を取られては、カルミアでは相性が悪い。彼女の身体能力であれば戦うこと自体は造作もないだろう。だがチクチクと空に逃げられたりすると、どうしても時間はかかってしまう。そんな相手に対抗するための理想的な采配は、対人妨害に特化した魔法に加えて遠距離攻撃手段を持つサリーになる
カルミアもサリーもそれを知ってか、互いに頷く。それだけで意思疎通が図れたかのように、カルミアは俺のそばに、サリーは敵の前へと歩を進める。
カルミアとサリーはこのパーティーでは俺を省けば一番付き合いが長い。食事のときも、休日を過ごす時も一緒にいることが多い。とても仲良しだ。だからこその阿吽の合図……しかし、俺もその意図を汲み取れなかったわけではない。彼女が一人で時間を稼ぐつもりなのは明確だった。
「サリーさん、一人で戦うつもりでしょう。でもその判断はダメだ。時間が惜しいのは分かっている。でもよく見てほしい、相手の隊長は例の石を身に着けているはずだ。戦闘能力は一般的な冒険者の比ではないんだ!」
そう、懸案事項は他にもある。ここまで会敵した兵の隊長格は、必ず例の石を手の甲に装着している。地上から上空を飛ぶ奴の装備を詳しく見れたわけではないが、例の石を装備していると考える方が自然だ。
しかし、俺の心配をよそにサリーは笑い飛ばして、腕輪を俺に見せびらかす
「アタシは一般的な冒険者じゃないヨ!Bランク冒険者、サトルパーティーの魔法使いダ!」
いつぞやの手作り腕輪。もちろん今も着用しているとも。俺とカルミアとサリーでお揃いだ。でも、そういうことを言っているのではない
「サリーさん!君の父親…サリヴォルさんだって、君をこんな危険な目にあわせることを許しはしないだろ!」
「ダイジョブ!バレなければ問題なシ!それに、オヤジは娘の心配をするって相場が決まっているノ!」
どんな相場だよ…そんな理由であのお父様が納得してくれるはずないだろう…。サリーならなんだかんだ言っても、困難な状況を切り抜けてしまいそうだが
カルミアが俺の手をとった
「…サトル」
「……分かっている。皆の思いを無駄にはしない、だろ」
胸が苦しいほど痛くなる。だけど、それでも前に進まないと…
カルミアが頷くと俺を担いだ。
…結局担がれるんだな。俺。 その方が速いのは分かるが、なんだか格好がつかない
「サリーさん!この場は任せたよ。でも、絶対に無茶するなよ」
「…またあとで」
カルミアは脇目もふらず全速力で天幕に向かって走る。
「奴が仲間を置き去りに逃走したぞ!」「追え!追えー!」
「[イリュージョン・ストライク]!」
カルミアとサトルを追おうとする飛行部隊に、大火球がぶつかり大きな爆発を起こす
先行していた者は跡形もなく消し炭になってしまっている
魔法というにはあまりにも大きな力…災厄に等しいそれは場に静寂をもたらす。
誰もが、この小さな少女が起こした魔法だと認識することに時間を要した
そしてサリーは叫んだ
「置き去りじゃなイ!サトルたちはアタシを信じて、任せてくれたんダ!アタシの仲間を悪く言うナ!」
先程までにこやかだった少女は最早どこにもいない。飛行部隊が相対しているのは膨大な魔力を纏った天変地異か
「っく…!なんだこの火力は!?」「隊長…!」
隊長は冷や汗を拭い去り、頷いた
「あぁ、どうやら数の力を持ってしても油断ならない相手らしい。こちらも相応の力で戦わねばな…」
隊長は手の甲についた石をかざした