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220話


 白化粧した野の一面を朱色に染める陽。綺麗な景色が、今日は何故だか空が泣いているようにも見えてしまう。日が落ちる頃には、別の色で染まることだろう。血を守るために沢山の血が流れるのであろうが、それは必要な犠牲だ。そう割り切ることができれば、どれほど良いものか。


 ・・・


 互いの陣営が睨み合う


 隊の編成はアイリスを先頭に置いた少数の遊撃が1百。騎馬が4百。歩兵が1千から成る部隊で、少数の遊撃を中心とした魚鱗陣で陽動し、後方の歩兵と砦に残った者が魔法と弓を叩き込む作戦だ。頃合いを見て、砦を活用した籠城戦に移行する。ここを抜かれたら終わりなのは明確なので、討ち漏らしなしで少しでも数を減らしたいのは分かる。しかしだ…相対的にアイリス本人と近衛の死亡率が最も高いのは言うまでもない。俺は止めたが、アイリスはこの作戦を強行する腹らしい。彼女がやられたら終わりなのは、重々承知のことだとは思うのだが……


 対して蛮族王の軍は、魔物と人の混成部隊で数はおよそ2千弱。装備も負けず劣らず金がかかっている。ほぼ全員が紫色で同規格の鎧で身を固めており、蛮族というよりも正規軍と戦っていると言われた方が納得できる程の兵装と数だ。戦力に自信があるのか?横一直線のシンプルな陣で、特に作戦らしい作戦は無く、数と魔物の差を以てして、力でねじ伏せるつもりか。


敵は十分に目視可能な位置まで迫っていた。将の近衛らしき者を後方に残し隊列を崩さずに、こうして今もゆっくりと近づいて来ている。しかし、その中には蛮族王らしき人物は居ない。敵陣の奥には近衛が守る天幕と謎の巨大な黒い繭…?のような何かが攻城兵器を運搬する道具で運ばれていた。魔法陣で防壁を張っているようで、狙撃は試したがダメだったようだ


 敵が数キロ圏内に差し掛かったタイミングで、近衛の一人が叫ぶ


 「傾注!アイリス様からのお言葉だ!」


 アイリスの近衛が、横一列に並んだ兵に拡声の魔道具で叫び散らす。そんな大声でも、この規模感であれば端の者には伝わっているかどうか疑問である。


 アイリスは近衛から魔道具を受け取り、張り詰めた声で語る


 「諸君、これは我らが領土を脅かし、村々を焼き払い、あまつさえ不当にも領土の正統性を主張する蛮族の王との戦争だ!ここで立ち上がった我ら同胞が敗北に至れば、シールドウェストとその近辺に住む、全ての者が等しく冷遇され蹂躙されるだろう。奴らは、我らの家族でさえも等しく死に追いやるだろう!」


 アイリスが6本足の馬を軽く走らせて、訓示を続ける


 「確かに我らは数では劣っている。此度の戦では、間違いなく戦では両陣営にて死者が出るであろう。隣で戦っていた戦友が、次の瞬間には死を迎えていても、何らおかしくはないのだ!…死を恐れるのは悪いことではない。しかし、死は誰にでも平等に訪れるものだ。私であろうが誰であろうが、ここに居る誰しもが必ず死を迎える!」


 兵が幾人か、身震いした。目ざとく発見したアイリスは呼びかけるように発する


 「だからこそ!この限りある生をもって、如何にして死すべきかが重要なのだ!!爪痕を残せ!自分の命を意味あるものへ、今ここで昇華させるのだ!!私は君たちが逃げたとしても、一切責めたりはしない!負ける可能性のある戦いに、死ねと命令するつもりも毛頭ない!しかし、ここで最期まで戦い死に征く者は、その志を糧に必ずや英雄となれるのだ!!」


 アイリスは馬をとめて、抜刀する


 「命は限りある!しかし、英雄は永遠に歌われる! 君たちの誇りも、この戦場に肩を並べた勇姿も、その死すら名誉として称賛されるのだ! 魂は戦女神ヘラヘクスに見初められ、天の地に招かれる。かの地では戦友と伴に、神々からの惜しみない喝采と無限の美酒を浴びるのだ!」


 アイリスが剣を掲げた


 「ここで、後世の歴史家が歌うのだ!我々の奇跡を!我々の誇りを!……正義は、我らにあり!!」


 皆の気持ちが一つになった気がした。


 全ての兵が武器を掲げ、それぞれの想いを胸に、大きな鬨をあげたのだ…!



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