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218話


 夜が明けた。


 アイリスの兵が夜通しで敵兵の手当と尋問の手筈を整えてくれたらしいので、さっそく奇跡的に生き残った敵兵さんへご挨拶だ。


 尋問用の簡易的な小屋に入る。そこではアイリスの兵数人に囲まれた状態の敵兵が一人、厳重に捕縛されていた。回復魔法でキッチリと手当されているので、お話をするくらいには回復できているようだ。


 「おはよう、捕虜の君。お名前は?」


 「お前がここの大将か?…何も話すことはないぞ」


 そうなるだろうな。この捕虜からすれば、人間大砲から繰り出される砲弾を掻い潜ったと思えば、大規模魔法によって、仲間が空から落とされるだけという…戦いとも言えない戦いだったのだから。恨みこそすれ俺たちと仲良くする道理など無いだろう


 アイリスの兵は肩をすくめる


 「ずっとこのような態度なのです。拷問の訓練を受けていたのか、痛めつけても効果がなく…」


 「そうですか…」


 少なくとも、誰からの差し金で動いていたかは知りたいところだ。アイリスと本隊が到着し、全面的に蛮族王とぶつかるまでは、有益な情報を少しでも多く集めておきたいが…俺はこの手のやり口を知らない。元々、平和的な場所で育ったからだ。アイリスの兵たちでどうにもならない相手を、俺がどうにかできる訳も無く


 「…サトル、大丈夫?うまく聞き出せたかしら」


 困っていたところ、小屋にカルミアがやってきた。すると、生意気な面構えだった捕虜はみるみるうちに顔色を青くして震えあがった。おぼつかない足をバタつかせ、必死にカルミアとの距離を離そうとするが、胴体が椅子に固定されているためうまくいかずに倒れてしまう。


 「おま…おまおま、おまえ…ば、化け物!人の皮をかぶった化け物だ!」


 …どうやら捕虜はカルミアを化け物だと思っているらしい。こんなに美人なのに


 「実は、まだ何も聞き出せていないんだ。どうすれば良いか分からなくて」


 カルミアは地面に這いつくばる恐怖した捕虜に向かっていく


 「サトルが尋問…? ふふ。貴方は優しすぎるもの。向いていない」


 恐怖する捕虜の耳元まで顔を近づけ、何かをコソコソと呟くと捕虜は絶望めいた表情を作り、何度も頷く


 「わかった!わかった!話す…話すからやめてくれええ!」


 カルミアさんや…一体なーにを吹き込んだのです。平和的な思考の俺には到底及びもつかない何かを発言したのだろうが、ちょっとだけ怖いもの見たさで知りたくなる


 カルミアは俺の気持ちを視線から感じ取ったのか、口の端をつりあげて言う


 「…知らないほうがいい」


 逆に気になりました


 捕虜は一息ついて、諦めたようにポツポツと話始める


 「俺の名前はサムだ。フォマティクス国の農村出身で、今は国に仕える兵だ」


 やっぱり絡んでいたか…


 「元々、簡単な仕事のハズだったんだ。敵国であるお前たちの情報を蛮族王の勢力に売り渡すだけ。支給された魔物を使って、上空から定期的に偵察するだけの…安全な任務のはずだったんだ。お前たちに対空兵器がまだ無いことは砦の状況から逐一把握していた。それなのにまさか、そこの化け物が!人間が遥か上空の俺たちをぶち抜くなんて、考えもしないだろうさ!!そもそも、計画が狂ったと思い始めたのは数日前だ。野営地が騒がしかったから様子が変だと思って確かめに走った。そしたらどうだ。突然、黒服の子供が野営地から消えるのを見たんだ。隊長は外傷がない状態で殺されていたよ。状況からして、黒服の子供が殺したんだ。そうとしか考えられなかった。副隊長から任務続行を言い渡されたとき、俺は逃げるべきだと内心思っていたよ。結果は…このザマだ。副隊長は、そこの化け物に真っ二つに斬り裂かれたよ」


 カルミアに一番槍をしかけた者が副隊長だったのだろう


 つらつらと経緯を話す捕虜はどこか諦めが入ったような、達観めいている


 「ふむ…経緯は分かりました。それで、ペリュトンをどうやって手懐けたのですか?簡単ではないはずです」


 「あぁ、あの魔物か。さっきも言ったが支給された。詳しくは知らん。教えられたのは乗り方くらいだ」


 「フォマティクスは魔物を扱う技術があるのですか?」


 「いいや、俺の知る限りだと無い。だから最初にあの魔物を見たときには腰を抜かすほど驚いた」


 最近からなのか…?蛮族王の力によるものだろうか


 「本隊の数は?いつ攻撃を仕掛けるのか教えてください。備蓄はどれほどありますか?本隊の構成は?」


 「魔物を入れて2千程度あるだろう。俺たちが戻ってこなければ、攻撃に移るだろうな?備蓄も構成も情報統制されている。隊長なら知っていたかもな」


 数は適切かもしれないが、攻撃に移るのはブラフだな…敵本隊へ返してほしいための嘘だ。軍の情報をこれ以上聞き出すのは難しいかもしれない


 「フォマティクス国はなぜ、蛮族王に協力するのです。村々を焼き払うような奴に協力するメリットは無いでしょう。隊長が持っていた怪しい石の正体は何ですか?」


 「メリットが無いのはお前たちの方だろう。それに、フォマティクスはこの地の正統性を主張する蛮族王を支持しているだけだ。隊長が持っていた石の情報は、隊長しか知らない。俺たち下っ端が知るわけないだろ。それに、お前たちの手に有るということは…やっぱりあの黒服はお前の手先だったんだな!」


 正統性を主張する王の支援とは…何とでも言えるな。小さな犠牲はお構いなしか。フォマティクスの本音の方はスターリムの弱体化に他ならないというのに。それに蛮族王の力は危険すぎる。利用するべき相手ではない


 「よく分かりました…サムさん。申し訳ないのですが、戦が終わるまでは捕虜として捕まっていていただきますよ」


 「…勝手にしろ」


 「カルミアさん、一旦外に出よう」


 「うん、分かった」


 砦もほぼ完成だ。あとはアイリスが本隊を連れてくるまで待つのみ…


 蛮族王との真っ向からの戦になるだろう……


 尋問用の部屋から出ると、雪が降り始めていた。



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