216話
カルミアが砲弾を投げると、鈍く風を切る音と共に上空へ飛んでいく。弾丸のように飛ぶ質量兵器は瞬く間に、遥か上空を飛び回る魔物の一匹に的中した!鳥型の魔物は見事撃ち落とされ、力なく自由落下する。他の魔物と、それに乗っている人は相当に驚いただろう。まさか何もない地上から砲弾が発射音もなく飛んでくるのだから。でも安心してくれ、何より俺が一番驚いているぞ…カルミアは歩く攻城兵器か何かだろうか。いや、攻城兵器でもこんなに威力が出るのかどうか……カルミアを見ると、ちょっとだけ得意そうな表情。かわいい
「す、凄い!本当に当ててしまった!」「見ろ!落ちてくるぞ、離れろぉ!」「検分を急げ!」
魔物と、それに乗っていた者は為す術がなく、そのまま地面に衝突する。急いで落下地点まで見に行くと、やはりというべきか?撃ち落とされることを想定していなかったのか?死体は見るからに兵装であった。どこかにバックが居ることは確定だな…。鎖帷子の上から着用している貫頭衣には、見たことがない紋のデザインが大きく描かれている。死体の損傷が激しいので詳しくは調べられないが…
魔物の方は腹から球体が貫通したような傷跡がある。これはカルミアが投げた砲弾が直撃したためだろう。見た目はまんま鳥のそれで猛禽類に近いが、角が生えており形状は鹿の角に近いようだ。顔が犬っぽく何故かクチバシがない。その代わりなのか鋭利な牙を持った口がある…これらの特徴は、スターフィールドにおけるペリュトンと呼ばれる魔物に一致する。ルールブックを開いて、概ね特徴が一致していることも確認した。
「ふむ…ペリュトンか!」
「サトル様は、この魔物をご存知で?」
兵は目をキラキラさせている。…言えない、前世の知識だよなんて
「あ、あぁ……冒険者をやっていると、魔物に詳しくなるんだ」
「なるほど!さすがです!…では、この魔物は我々にとって脅威となりうるでしょうか?」
「う~む…どうだろうね。空の魔物にしては珍しいけど、単体ではそこまで強くなかったはずなんだ」
ペリュトンは空の魔物の中では弱い部類に入るが、それでも人一人運ぶことは容易い膂力を持つ。肉食動物で主に自分より弱い対象を襲って食べるか、群れから逸れた動物を襲う。夜に近くで見ると人の顔にも見えるためか、設定上では最初のペリュトンは『恐るべき魔術の実験で変化させられたヒューマン』だったのではないかという魔術師たちの説があるようだ。
一方で、吟遊詩人たちの歌では、ペリュトンの誕生をこう伝えている…『伴侶の浮気によって恨みを持ったヒューマンのペリュトンという者が、嫉妬に狂い、伴侶の浮気相手を殺して心臓を取り出し食べてしまった。ペリュトンは浮気相手の心臓を得ることで、自身がその者の全てを奪うことができる。魅力的になれると信じており、伴侶からの好意が自分に向くと考えた。しかし、次の日に水辺で自分の顔を見ると醜い角が生えていたのだ。これを見た伴侶は、ペリュトンに対して更に嫌悪感を示した。その結果に対し、怒りと憎悪によってもがき苦しむと、更に次の日には翼と牙、そして鋭い爪を持つ姿にまで変化してしまった。最早、人として生きていくのは不可能だと悟ったペリュトンは伴侶を鋭い爪で惨殺し、死体を持ち去って、大きな翼で空へと飛び去った』と。いかにも吟遊詩人が好きそうな設定ではあるのだが、この世界における真偽の程は明らかになってはいない。何せ、空の魔物は殆ど地上の人族に関与しないのだから。
そんな逸話を持つペリュトンだが、獰猛で懐かせるのも当然難しい。本気でやるなら卵からかえるまで待ち、じっくりと育てるはずだ。しかし今上空で慌てふためく30近い鳥たちの数を考えると、その可能性も考えづらい。略奪を生業にする者であれば、単体で運用するのが精一杯だろう
「うん…。単体相手ならDランクくらいの冒険者であれば、どうにかなるか…?しかしあの数に説明がつかないな?」
死体の前で深く考えていると、兵が慌てて上空を指さす
「さ、サトル様!奴ら、降りてきます!」




