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210話

* * *


 「お兄さんの居場所に土足で踏み入るなんて、本当に度し難いね」


 点在するように自生している大木の枝に身を任せ、シールドウェスト陣営が即席の砦を建設している様子を眺めるフォノス。サトルと別行動をとってからは、フォマティクスの者と思われる間者を片っ端から間引いていたのだ。血生臭い行いをサトルに知られるわけにもいかず、未だに一人で行動を続けている。


 今、彼の目に映る怒りの矛先は、砦の向こう側の沼地。フォノスの目視で、かろうじて視える先遣隊の野営地だ。町全体からきな臭い雰囲気を感じ取ってからは、冒険者ギルドや商人ギルドから情報を集め、蛮族王がシールドウェストへ侵攻してくる情報を知った。彼が今ここにいる理由でもある。


 日が沈むと同時に大木から飛び降り、音もなく着地する。そして、沼地の野営地に向けて走った。フォノスのクラスはスピードに特化している。速度だけで比較すれば、カルミアの一歩上のステータスを持つ人外じみた速度を持つため、人間が数時間かけて移動する距離も彼にかかれば目と鼻の先だ。


 あっという間に先遣隊の野営地にまで忍び込んだ。木の上から上へとつたっていき、敵がいる頭上まで移動。状況を確認する。


 今は丁度、敵兵が明日の偵察作戦について話し合っているようだ。


 「シールドウェストの奴らは、沼地の先にバリケードやら建物やらを建設しているようだった」


 「あぁ、それは俺も確認した。あんなもの作られたら侵攻に影響が出る」


 「我らが王もお嘆きになるだろうな」


 「そのための俺たちだろう。仕事は偵察だが、もし上手く妨害ができれば王の覚えも…」


 「…殺るなら早朝か?遠視で視る限り、戦えそうな者は少ないようだ。戦力が揃う前に叩いておきたい」


 焚き火を囲んで話し合っている兵が4人。一人だけ服の色が違う兵がいる。全員、装備は至ってシンプルな偵察用の身軽なものだが、色の違う服を着用したリーダー格のような男の腕の甲には、見たことがない装飾品がついており、中心には黒い靄が蠢く怪しい石がはめ込まれていた。


 (あれは…お兄さんと闘技場で戦った男が使った石に似ている…?)


 サトルのパーティーと壌土の手が戦った時だ。リーダーのカイオスがあの石を使い、力と引き換えに悪魔のような姿になったという黒き石だ。使用済みの石を手にとったときに感じた魔力で間違いない。込められている魔力量は違うようだが、見ているだけで気分が悪くなるような魔力は、明らかに同質のものだとハッキリと分かった。


なぜあの石を蛮族王の陣営が持っているのか。そして一介の蛮族たちの指揮官クラスが所持を?それに、肌に身に着けておいて、悪魔化せずに人の姿を保ち、平静としている姿にも違和感が残る。カイオスが石を使用したときは、魔力を取り込んだ時点で悪魔化したはずだ。フォノスの考えはまとまらないが、一つだけハッキリとしたことがある。


 (奴らはお兄さんの敵だ。お兄さんの敵は、僕が排除する)


 今野営で目視可能な人数は4名。残りの20名近くの兵はまだ戻っていないようだから、戦うなら今が好都合である


 フォノスは木から飛び降りると同時、4名の兵の頭上に毒を散布しながらダメ押しでナイフを投げつけた


 3名の兵は気がつくことなく無抵抗に毒とナイフの雨を浴びて、骸となった。しかし、色の違う兵だけは別格だったようで、すぐに口元を抑えてその場から距離をとってしまう


 「だ、誰だ!?」


 一手で仕留められなかったフォノスは、相手への警戒を一段階引き上げる。


 「やるね。君…普通の人では僕の動きを捉えるなんて無理なんだ。もしかして、その手甲の石の力かな…?」


 指揮官らしき男は隠すように、手で甲を隠し動揺する


 「な…なぜ石の存在を知っている!…いや、いい。知られたからには生きては返さん」


 「君にできるのかな?…『お前は僕の敵となった』」


 指揮官はガクンと膝をついて、どうにか顔をフォノスに向ける。しかしその顔は苦悶に満ちている


 「何を…した!ち、力が入らない…!」


 「さてね…」


 こうなればフォノスの確定的勝利だ。彼自身、その気持ちに揺ぎがない。だからこそ油断したのかもしれない


 指揮官の男は石のついた手に力を込めて握りこぶしを作ると叫びだした


 「蛮族王よ!今こそ私に力を!理想郷の実現を!」


 黒き石が赤黒く怪しい色へと変化し発光する。それに合わせて黒い靄は赤くなると、指揮官の男を繭のように包み込んだ


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