表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/478

21話


俺たちはドーツクがキャラバン用の荷台に荷物をまとめるのを手伝っていた。すると二匹の中型魔物が近くまで寄ってきた。姿は鷲の翼、馬の後半身、立派なクチバシをした魔物だ。これはヒポグリフの特徴と一致する。ルールブックによると、ヒポグリフは本来、人里離れた土地に住んでいる雑食性の生き物だ。生涯を通して同じパートナーを持つという一途な奴らしい。鳥の見た目が混じっているが、子供は卵ではなくそのまま子供として産み落とす。気性は荒い方だが、一度信頼を勝ち取るとこができれば、生死を共にするほど忠実な仲間になってくれると書いてあった。ルールブックを閉じてドーツクに聞いてみる。


「ドーツクさん、このヒポグリフは?」


「あぁ、こいつらは僕の大事なパートナー。オスとメスのヒポグリフさ…」


ドーツクは先程とは違い、優しい笑みを浮かべてヒポグリフたちを撫でる。


「僕が商人を目指したときから、ずっと一緒にやってきた。最初は軌道に乗らずに上手くいかなかったが、こいつらとは苦楽をずっと共にしてきて、ここまで来たんだ。ヒポグリフは大食いでね…ずっと満足に食べさせてやることはできなかったが、僕は必ず成り上がって、こいつらにたらふく食わせてやるのさ。苦い思い、理不尽をかぶり続けて…ようやくなんだ、ようやく商人ギルドから大きい仕事を貰えた。絶対に失敗はできない」


真剣な表情に切り替えて、ヒポグリフを専用の紐でキャラバンにつなぐ。すると、無言でまた荷造りを始めた。う~ん、最初は無鉄砲な経験の浅い商人か何かだと思ったが、そういう事情があるという訳か。個人的には応援してあげたいが、はてさてどうなることやら。



 出発する頃には日も落ち始めていたが、商品の中には一ヶ月ほどしか持たないものもあるらしいので、そのまま出発することになった。ヒポグリフの速度についていく自信がなかったので、荷台に乗せてもらっている。結構な速度で進んでおりどんどん町が小さくなっていくのが分かる。


「そういえば、今から向かうランスフィッシャーってどんな所なんだ?」


ルールブックを開いて見るが、地名に関してはさっぱり該当するものが無い。完全に全てがスターフィールドの世界という訳ではないということか。


「サトルはこの辺りには詳しくないようね…」


「それじャ、アタシが説明してあげるネ!」


ニコニコスマイルでサリーが説明する。どうやら名前から想像できる通り、海の幸で栄えた町らしい。シールドウェストのように立派な外壁は無いが、その海辺ではランスフィッシュという魔物が大量に生息しており、油が乗っててとても旨いらしい。何故か海から陸にあげると槍の様にかたく鋭くなり、その状態であれば、何故だか不明ではあるが、かなり日持ちするという利点がある。そのため、その魚類をはじめ広く交易を行って栄えた町だということだ。で、あればその魚の名前にちなんだ町だ。シールドウェストの北に位置する森では木の実、薬草、森の幸や上質な木材が取れるので、昔から互いに支え合ってきた歴史があるそうな。専ら最近では盗賊のせいで停滞気味だが…。


 そんな話を続けていると、辺りはすっかり暗くなって、道が殆ど見えなくなった。そのため街道から少し外れた所で野営することに。俺たちは護衛する側だから、見張りを交互に行って辺りを警戒することにした。…朝日が出始める前ほどの時間だろうか。漆黒に染まった夜は徐々に青掛かった黒に変わりつつある。俺が見張る番になると、サリーはそのまま倒れるように眠ってしまった。


「さてと、もう少しで朝だ」


眠くならないように気合を入れて、ルールブックを開く。もちろん周りも警戒するが、暇つぶしには本が丁度いいのだ。しばらくして、凝った肩を首を回してほぐしているとドーツクがテントから出てヒポグリフにご飯をあげているのが目に映る。こんな早朝から毎日やっているのだろうか?大したものだ。ちょっと声をかけてみようかな。


「ドーツクさん、朝早いのですね」


「ん?あぁ君か。これは日課だからね、もう慣れてしまったよ」


町を出る前とは変わって、表情は真剣そのもので、この交易を絶対に成功させたいという意気が、言葉にしなくても強く伝わってくる。ちょっと雑談でもして気を楽にさせても罰は当たらないだろう。


「ドーツクさん、このヒポグリフたちは何て名前ですか?」


「…こいつらに名前は、つけてないんだ…」


「それは、どうして?」


「いつか、こいつらをたらふく食わせると門の前で言ったが、それだけがこいつらの幸せとは思わないからさ。もちろんこの商売が成功したら旨いものを食わせる。でもこいつらはツガイで魔物だ。ヒューマンの僕たちとは生き方が違うんだ。僕の都合でずっと我儘に連れ回す訳にはいかない。夢を叶えたら森に返して、二匹の人生を始めてほしいと思っている。誰よりも愛情を注いでるつもりさ…だからこそ、名前はつけないのさ。うん」


「そうですか…でも、そうすると荷物を牽引する次の魔物がいなくなってしまうのでは?」


「何もかもゼロになる訳じゃないよ。魔物は好きだ。知識だってたくさん身につけた。ノウハウがあればもっと上手くいく。またヒューマンの都合で捕まった手頃な魔物を町で買って育てて、同じことを繰り返せば良いだけさ、うん」


ドーツクが例外なのかもしれないが、商人は魔物をただ荷物運びの道具として使っている訳では無いのか。むしろ逆で、人に懐く魔物に対する深い愛情を感じてしまう。そんな他愛も無い話をしていると、いつの間にか空はだいぶ明るくなってきた。町から出発して一日、何も問題もなく順調だ。そう思っていた矢先だった。


「サトルくん…何か人影が見えないかい?それも数人」


開けた道の先、目視できるギリギリの範囲で、怪しげな影があった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ