208話
俺はこの場に集まっている全員の注目を集めている状況だ。そしてアイリスの願いは、蛮族王との戦いで一人でも多くの協力者を募ることだろう。それならば今のうちに、この状況を活かすべきだ!
「みんな!俺は今、領主様の願いを届けにギルドまできた!」
「領主様だって?」「なんだなんだ?」
騒々しい雰囲気から一変、皆ぞわぞわして俺の次の言葉を待っている。荷物入れからアイリスの書状を取り出し、よく見えるように掲げた。
「これから全員に行き渡る情報になると思うけど、聞いてほしい。かいつまんで説明をすると、この書状には『蛮族王がシールドウェストに向けて侵攻を開始した』ことと『みんなの力を貸してほしい』ということが書かれているはずだ!」
「蛮族王!?」「それは本当か!」「まさか…」
やはりというべきか…気温が暖かくなってから戦が始まると思われていたためか、動揺する者が多いな
「これから俺はこの書状を今からギルドに提出する。早ければ明日にでも皆に、ギルドからの遠征協力願いがあると思う。…俺は、遠征の主力メンバーとして先頭に立って戦うつもりだし、そうなると思う。でも、これは大人数の戦いだ。俺たちのパーティーだけでは征伐を成し得ることは難しいとも考えている。もちろんランク毎の参加条件もあるだろうけど、シールドウェストを守るため、そして蛮族王から罪のない村々がこれ以上、犠牲にならないために、可能な限り勇敢な皆の力を貸してほしい」
俺は頭を下げる。転生してからというもの、この場所にはすっかり愛着がわいてしまった。町の活気も広場で一緒に遊ぶガキンチョも、この冒険者ギルドも…。この場所を壊されたくない。そのためには、町の騎士団だけではなく、冒険者である皆の力が必要不可欠だ
しんと静まり返るギルド内……ここからは、命をかけた戦いだ。町から出て首都にでも行ってしまえば、それで身の安全は保証されるわけで、ここで戦う義務は彼らにはない。冒険者は自由であらねばならない。町の事情問わず、不参加でも無理もないが…
「わしらは、サトルと戦う。これ以上、ライバルパーティーに手柄を取られてたまるかってんだ」
ドワーフのブルーノーが一番に声をあげた。それに合わせるようにパーティーの面々も俺の元へ集まってくれる
「ブルーノーさん…!ありがとうございます!」
ひと目見た時から良い奴だと思っていたよ!やっぱり頼れるイケメンダンディドワーフだ!
「その話、混ぜてもらいましょうか」
冒険者ギルドの入り口。スイングドアが開くと、懐かしい姿が
「ドーツクさん…!?」
護衛依頼で俺がクラスチェンジさせた人だ。今は魔物を従える力をクラスによって会得している。
「お久しぶりです。サトルさん」
「ドーツクさん。なんだか雰囲気が変わりましたね」
「あはは。色々ありましたから。今は一から商会を立ち上げ、ランスフィッシャーとシールドウェスト間の二点交易で魔物を使った運送業をしています。今日は偶然寄ったのですが…面白い話をされていたようですので。サトルさんに、お返しできる日がくることを待ちわびていました…。運搬は任せてください」
確か彼は、パートナーの魔物とは一度お別れしていたので、新たに運送業として魔物を使役することから始めたのだろう。彼の力があれば物資がスムーズに行き渡るだけではなく、少数精鋭を基本とした作戦の面ではこちらが優勢になるはずだ
「ドーツクさん。本当にありがとうございます」
「お礼を言うべきはこちらです。貴方がいなければ、今の自分はありませんから」
俺たちのやり取りを見ていた人が、一人、また一人と手伝えることや戦闘要員としての参加を申し出てくる
「俺も乗ったぞ!」「俺たちも戦おう!」「町への恩返しだ!」「サトルに借りもあるしな」
ほんの数分で、ギルド内のほとんどの冒険者が参加を表明する結果となった
その勢いはとどまることを知らず、やがて他の町の者へも知れ渡り、さらに大きな動きを生み出した