204話
サリーの調合したポーションによって、カルボンは体を自力で起こせるにまで一瞬で回復した!
彼からシュ~っと空気が抜けるような音が鳴り、体の至る所から煙を出している。煙が晴れると、カルボンは声を出した
「ケホケホ……こ、ここは…お父様?お母様まで…?いったい―」
「おおお!カルボ~ン!我が息子ぉ~!!…ちょっと痩せたか?」「カルボンちゃん!…あら?」
グリセリーと奥様はカルボンを双方から挟み込むように抱きしめた。しかしすぐに違和感に気がついたようだ
これで一件落着としたいが、驚くべきことはもう一つ…いや、二つほどあった
「お父様、お母様、大切な恩人の前でおやめください!照れてしまいます。あぁ、すみません…サトルさん、そして皆さん。この度は助けて頂いて本当にありがとうございます」
カルボンはそう言うと、慎ましやかにお辞儀する。グリセリーと奥様はハグを止めて、一歩下がるが彼の姿を見て動揺している
「あ、あぁ済まない。しかしお前…その体はいったい。それに話し方も何か変だぞ。カルボン…我が息子で間違いはないか?」「どうしちゃったのかしら~」
カルボンは人格が反転したように常識的かつ大人しくなった。更に、体格まで大きく変化していたのだ!!その姿にグリセリーと奥様は少し驚いている
小さくてまるまるした姿も、それはそれで愛嬌があって良かったかとは思うが、今のカルボンはどこからどう見ても、年相応なヒューマンの外見。体は痩せており、明るい髪が似合う貴族の美青年に…!?
「変…でしょうか?はて…僕は僕ですが…偉大なる父と母の子。カルボンにございます」
「本当にお前か?お前の好きな食べ物は?」
「人の金で食べる食事全般です。しかし、今はそうは思えません」
「むぅ、正解だ。最後のセリフ以外は正にお前だ」
グリセリーは替え玉を疑ったようだが、紛れもないカルボンの答えだったようだ
「カルボンちゃんの座右の銘は?」
「食べること、暴れること、冒険者を使い潰すこと。しかし今はどれもやりたいとは思えません」
「あら、最後のコメント以外は本物のカルボンちゃんだわ」
…いったい何をどうすればこんな結果になるんだ?いや、原因は分かっている。十中八九サリーが作成したポーションの所為だろう
体格の変化に加えて、あの意地悪な性格がキレイさっぱり消えてなくなった。まるで、彼に関連する全ての毒気を抜いたかのような……ん?待てよ、毒気?
「サリーさん、カルボン様の姿が変わっちゃったよ…?その、話し方というか雰囲気も変わられたというか」
「そう?でも元気そうだし『解毒』できて良かった良かっタ♪」
重要な部分を誤魔化しやがった…この~!もしかしてお菓子か?竜人の里でお菓子を無断で奪ったのを根に持っているのか!?
考えられるのは、サリーが作ったポーションは、きっとカルボンに存在していたあらゆる毒素を取り除くものだったのかもしれない…それにしたって解毒の範疇広すぎませんか?
「あぁ、サトルさんとサリーさん…そして皆さんには感謝してもしきれない」
サリーに便乗するようにカルボンが乗ってきた…ややこしくなるから黙っててほしい
「プライドの塊のような我が息子が冒険者にお礼を伝えただと!?」「あらあら、とうとう毒で頭がおかしくなっちゃったのかしら」
酷い言われようである
「お父様、お母様…お戯れを。この方達は僕にとっての命の恩人…お礼の言葉をいくつ重ねても足りるということはないでしょう」
「お、おぅ…」「う~ん?カルボンちゃんじゃないみたい」
カルボンは美青年化したせいか、身振り手振りでお話する様子もどこか絵になる。ポーション飲む前と飲んだ後では別人も良いとこだ。その変化にあまり取り乱したりしない父と母の適応能力も凄いが
「とにかく…僕のことより恩に報いることが先決でしょう」
「そ、そうであったな。我が息子の変化については、まずは置いておこう。サトル君、いやサトル殿。この度は我が息子を救ってくれたこと、感謝する」
グリセリーと奥様、そしてカルボンは深く頭を下げた
「いえいえ、助けたのはアイリス様の思惑と見返りを期待した部分があってのことです。完全なる慈善ではないのが心苦しいですが…」
カルボンがまるで別人化したのだけが予想外だったが
「気にすることはないぞ。我が息子は何にも代えられない。我がステロール領が受けた恩、今日のことは忘れない。アイリス殿との約束もしっかりと守るとしよう。フォマティクス国との付き合い方も、考え直す時期かもしれぬ」
「それは良いことを聞いた」
シールドウェストの領主、アイリスだ。どこから聞いていたのか?そしていつの間にか居たのか?壁に背を預け、含むような笑みを見せながら、お気に入りのはちみつ酒を煽った
「アイリス様!」
「あぁんサトルぅ。帰ってきたのであれば、真っ先に私に会いに来てくれると思っていたのだがぁ…?お姉さん妬いちゃうぞ~♪」
酔っ払っているのか、アイリスは俺の肩に腕を回して絡んできた
「申し訳ございません。カルボン様の容態が急を要する状況でしたので!」
「そんな冷たくしないでよ~。お姉さんずっと待ってたんだぞ~?私の胸に飛び込んできたって罰は当たらないぞ?」
「領主様に恐れ多いですよ…」
「ははは!可愛いやつめ~うりうり♪」
アイリスは俺の頭を自身の体へ押し付ける。相変わらず酔っ払ったら激しいスキンシップをしてくる御方だ。しかしカルミアがいるときは止めてほしい。切実に!
「と…それよりも……ん?カルボン殿の姿が見えないようだが」
「僕ならここにいますよ」
カルボンは爽やかな笑みを浮かべる
「…本当にか?姿が違うようだが」
「僕自身も驚いているのです。しかし、こちらのサリーさんのポーションによって解毒に成功しました。その副作用か何かは分かりませんが、姿が変わってしまったのです。サリーさん当人も、よく分かっていないようで」
「ふむ…」
アイリスは少し考え込むと、サリーを見る
サリーはニコニコ顔で見つめ返す
「まぁ良い…結果的にはカルボン殿の解毒が成功したのだ。この話はこれまでにしよう。サトル、私はこれからグリセリー殿と今後の話をし調印まで予定している。終わり次第、屋敷まで来てくれ。例の石の話もある…」
「かしこまりました」