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202話


 少々邪魔も入ったが、精霊祭も滞りなく完了した。フォティアにお願いして、俺が持ち帰る用のドラグリリーの祝福もしてもらった。リンドウと契約してからというもの、ウォーロックの力故なのか?彼女はすっかり協力的になっているので助かる。


 これで、この里へ出向いた本来の目的が達成された。あとはドラグリリーをポーション化してあのお坊ちゃんに届ける必要があるが、あまり時間的余裕はない。サリーが用意してくれている延命用のポーションの残りだって無限ではない…寂しい気もするが、里を出発する時だ。


 「リンドウさん、…そろそろ俺たちはシールドウェストへ帰らないといけないんだ」


 「…もう、行ってしまわれるのですか?」


 「あぁ…ごめんね。急患がいて、どうしてもすぐに戻らないといけなくて」


 「まぁ!お引き止めするのはよろしくありませんね…あの、サトル様…私も一緒に―」


 杖先を強く地面に打ち付ける音が、リンドウの言葉を遮った


 「ならぬ」


 里長だ。……まぁ、そうなるよな。妥当な判断だと思うし、俺が里長でもそう言うだろう…なぜなら


 「里長!どうしてです!私はサトル様と―」


 リンドウが戸惑っていると、被せるように言葉を紡ぐ


 「巫女の仕事は誰が継ぐのじゃ」


 「えっと、それは…」


 「それだけではないぞ、リンドウ。お主は里の守り神である、偉大なる炎の大精霊様をその身に宿している。我らと精霊様は、常にともにありそれはこれからも変わらん。わしらには日々感謝を捧げ、豊作をもたらす精霊様が必要なのじゃ。それは、分かっているであろう」


 「…」


 リンドウは拗ねた表情で、口を尖らせて土を蹴っている。かわいい


 まぁ、里長の言うことは至って普通だ。今まで信じて信仰してきた対象が、突然消えてなくなれば、里の者は何を信じて生きていけば良いか分からなくなるだろう。事態を無視すれば大きな混乱を招くだけではない。炎の精霊がもたらすもっと実質的な恩恵…つまりこの寒冷地で作物が育たないといった問題まで出てきてしまう。リンドウとしても、仲間がそんな目にあうのは好ましくないだろう


 「では、私はサトル様にお会いすることはできなくなるのですか?そんなこと嫌ですの!!」


 リンドウは激しく首を振っている。かわいい


 「そうは言っておらん。長期間、里を離れるのは困るが、里をいっさい出てはいけないと言っているのではない。定期的にシールドウェストまで顔を出しても良いじゃろう。精霊の力を手に入れたお主はそこらの冒険者より強い。護衛も必要ないじゃろうし。……だがその前に、ボロボロになってしまった里の復興と、さしあたり寒くなる間は、お主がここに居てもらわねば困るのじゃ」


 リンドウの体からフォティアが出てきた。本当にフォティアは自由自在だな


 「リンドウよ。とっとと里の復興を手伝うぞ。我もサトルからお菓子が貰えないのは困るでな!ほほほ!」


 「もう!精霊様が里を壊したんですからね?分かっていますか!?」


 「な、何のことかのーっ最近耳が悪くてのー」


 リンドウとフォティアは仲の良い姉妹のようで、見ていて微笑ましいな


 里長がコホンと咳払いをすると、俺の所まで歩いてきて丁寧なお辞儀をしてくれた


 「…サトル様。申し訳ございません」


 「いえいえ、里長が仰ることは至極当然なことです。これから厳しく寒い季節になるのであれば、フォティアさんが活躍するでしょうし」


 「ご配慮、感謝いたします」


 …この里でも素晴らしい出会いが沢山あった


 ステロール子爵とわがままなお坊っちゃんには、思う所があったものの、結果的にはこんなステキな出会いがあった。このキッカケがなければリンドウに出会えることも無かっただろう。そう思えば多少の溜飲も下がるというもの。


 リンドウも落ち着いた頃合いに会いに来てくれるようだし、今は少し寂しいが…お互いやるべきことをやる時なのだ


 「リンドウさん、里長、それでは俺たちはこれで」


 「…お料理、ご馳走様」


 「リンドウちゃん、フォティアちゃんまたネ♪…ところでアタシのお菓子知らなイ?」


 「またね~!…ウチ、今回は食べてないよ?」


 「今回ってなにィ!?」


 パーティーメンバーは相変わらず騒がしいが、寂しい気持ちな時はサリーとイミスの掛け合いが頼もしく感じるものだな


 俺たちはシールドウェストへ向かうため、里に背を向け歩き出した


 互いに手をふる姿が遠くなる


 もう少しで見えなくなるといった所で、前を向く。その瞬間、リンドウの声が聞こえた


 「サトル様~~~!!!」


 足を止めて振り返る


 遠くてよく見えないが、リンドウが錫杖をかかげているのは何となくわかる


 すると、上空に綺麗な花火があがった。正確にはフォティアの火の球だろう


 彼女が錫杖をぶんぶんふって、どうだ!といったように振る舞っているようにも見える


 とても綺麗な空だ。この日、この光景は俺の心にずっと残り続けるだろう


 「最後にステキなプレゼントを貰っちゃったな…」


 「…サトル」


 「ん?カルミアさん、どうしたの?」


 「いえ…やっぱり何でもないわ(私の目では彼女の顔がよく視える。きっとサトルがいなくなるから寂しいのね。歯を食いしばって、必死の笑顔をつくって涙を流しているなんて、やっぱり言えないわ)」


 「そっか…何でも無いんだね」


 「えぇ、何でもよ」


 「……よし、帰るぞ!」


 「オー♪」



 その日の空は、明るくなるまで赤き焔が灯っていたという




TIPS:

***

リンドウ


竜人の里の巫女。先代が亡くなってから後継し、若くして精霊降ろしの巫女となった。

佇まいが優美で、見た目もほぼヒューマンで、カルミアやサリーに負けず劣らずたいへん美人さん

努力家でお人好し、それ故に里の者でも彼女を妬む者が多かった。

この里では珍しい蒼き鱗を腕周りに纏う。

赤色とは対極で、里の大多数からは水に対する高い適正があると見られ、このような者を炎の精霊の巫女にするべきではないという反発を買っていた。

自信を喪失していたところ、サトルに出会ってからは、自分の特殊性に関係なく目的を達成するための強い気持ちを持つようになり、周囲の心を動かし始める。


実は彼女の青い鱗は、炎の適正が無い訳ではなくむしろ逆で、炎の竜の力を色濃く受け継ぎ先祖返りを起こしたため赤ではなく青になった経緯がある。彼女自身も里の者も、それを知る由はないが。サトルのクラスチェンジで、才覚を如何なく発揮し今に至る。


里の有力株であるカプシはリンドウのことが大好きで、とにかくちょっかいをかけまくる

ヒートアップしすぎていじめっぽくなるが、サトルとリンドウが一緒に歩いている姿を目撃したときは、居ても立っても居られない状態だったようだ。リンドウはサトルに思いを寄せるため、カプシの想いが彼女に届くことは、残念ながら無い


今日も彼女は炎の如く、強い想いをサトルへ抱く

***



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