200話
画面の前の貴方様の応援で、200話までお話を進めることができました。
この場を借りて感謝申し上げます。
最近は寒さも増して、寒暖差によって体調を崩しやすくなる季節かと思います。
貴方様におかれましても、どうかお体ご自愛くださいませ。
前書きにて失礼いたしました。
俺の合図と共にリンドウは、余裕の表情をしているフォティアへ一発かます
「いつまで余裕でいられますか![スピリット・オーバーウェルミング・グリーフ]!」
リンドウがクラスを獲得したことで行使可能になったスキルのひとつだ!相手を行動不能にして一時的に能力まで奪う効果がある。リンドウが持つこの妨害魔法は、頭にスピリットという詠唱がついているため、その種別単体にしか効果を発揮しないものかと思われるが、それ故に効果は凄まじいだろう。
リンドウの魔法は、魔力でつながったロープを辿ってフォティアへ。ロープを手放した時点で負けになるので、フォティアは手を離すことができない。つまりリンドウの魔法を受けるしかないのだ
フォティアの動きをバインドするように、魔力の鎖が体を雁字搦めにした。これでは引っ張り合いなどろくにできまい。
「のわああぁ!?な、な、なんじゃあ!?体が動かぬ…く!おい、サトル!これはルール違反ではないのか!?」
俺は肩をすくめる
「自身の持つ力を使ってはいけないというルールを設けてはいないよ?君を直接妨害しているわけでも、一対一を破っているわけでもないからね。リンドウさん。今のうちに!」
「はい♪」
リンドウはロープを手繰り寄せ、少しずつ勝利に近づいていく
「おのれ!謀ったなぁ!」
少しは冷静になってほしいものだ。フォティアには良い薬になるだろう。と思っていたのだが
「ぬおおおお!炎の底力をみせてやるううう!」
負けず嫌いなフォティアは必死の抵抗を始めた!
フォティアの体から緋色のオーラが出始めると、周囲にある焚き火や魔道具の光源、その他あらゆる熱源を取り込み始める
「…!サトル様!、せ、精霊様が周囲から力を集めているようです!」
フォティアは炎の精霊だ。周囲から熱源が消えたことから察するに、自然からエネルギーを取り込み、自身の糧に変える能力が備わっているのかもしれないな
「ぬおおおお!ふんぬ!」
フォティアの力が増大したことで、バインドしていた魔法が砕け散ってしまった。クラスチェンジしたとはいえ、まだレベルが低いリンドウの手には余るか
周囲から力を吸収した彼女は、今までリードされていた分を取り戻すようにロープをぐんぐんと手繰り寄せる
「ほほほ!何でもアリなんじゃろ!サトルゥ~!?」
っく…リンドウを援護するための忖度がかえって逆効果となってしまったか。こうなれば…
「サリーさん!」
「ン?どしたノ~?」
サリーは引っ張り合いの様子をご飯片手に観戦中だった。…自由人かな?
「ポーションがほしい!とびきり力が上がるやつだ!」
サリーが持つ能力の一つにポーションを創り出す力がある。よく使うものが[レッドフェイスポーション]という辛味成分が色々と上限突破したような薬があるが、今回は、その中でもとりわけ強力な効果を持つ、能力向上系ポーションだ。サリーにしか使用できない[能力値変性薬]ほどの力はないが、サポートには十分な力を発揮するはず
「わかっタ!少しだけ時間ちょうだィ!」
サリーがポーションを作成している間、俺も可能な限りリンドウに手を回そう。彼女の勝利が里を救うのだ
俺はサリーが作業したところを見計らって、彼女の鞄から秘蔵のお菓子を片っ端から取り出し、これ見よがしにフォティアの目に映る位置で並べてみせた。…サリーすまんな!尊い犠牲だ
「う~ん、どのお菓子を食べようかな?」
チラチラとフォティアを見ながら、彼女が好きそうなお菓子をわざとらしく視界にうつす
もちろん甘いものが大好きなフォティアは引っかかる
「ぬぁ!?そ、それは……さ、サトル。一口くれ」
「う~ん、どうしようかな?」
誘惑に負けて片手をロープから離しそうになるが、寸前でハッとする彼女
「っは…!ぐぬぬ、今手が離せん!直接、口によこせ!」
「ははは、何を仰いますかフォティアさん。今は戦いの最中でしょう……う~ん!これ美味しいなぁ!なんて美味しいんだ!あぁ!?これも美味しいなぁ!あぁ全部食べてしまいそうだ!?なんてことだ!」
「ぐわあああ!それを食べるんじゃない!それも…わ、我のものだぞ!せ、せめてはんぶんこしてよ!」
何故なのか、誘惑用のお菓子は彼女の中ではすでに自分の物となったようだ。血の涙でも出しそうな形相からして精神攻撃としては超絶有効らしい
「ほ~れ、ほ~れ」
「くれ!お菓子ぃいい!」
彼女の目の前でお菓子を見せつけ、顔に近づけては、食べられないギリギリなラインで距離を取る。それを繰り返す
フォティアは顔にお菓子が接近する度に、大型の人食いサメも真っ青な形相で空を噛み切る
そう…これを繰り返すことで、リンドウの勝利条件ラインまで彼女を歩かせるのだ!名付けて『馬の鼻先に人参をぶら下げる作戦!』だ
「ほれほれ!美味しいお菓子だぞ~!」
「ほわああああ!お菓子だ~!」
作戦通り、ゆっくり ゆっくりとリンドウの位置まで誘導する
あと一歩のところまで来てポンコツ精霊ちゃんは気がついてしまった
「はわ!?わ、我は勝負中であった!サトル!誘惑するでない!危うく負けるところであった。妨害は禁止じゃろう!」
「はて?何のことやら。俺はお腹が空いたので、ここでお菓子を食べていただけだよ?」
「えぇい、我にもよこせ!」
押し問答で時間をかせぐ
既にあと一歩引っ張ればリンドウの勝ちだ。そして……そろそろ―
「サトルー!できたよォー!」
サリーの能力向上ポーションが完成する頃合いだ!
「でかした!ほれ!」
サリーが投げたポーションをキャッチ。お菓子をフォティアの頭上へ高く投げて、彼女の視線を上に。その隙にリンドウへポーションを飲ませた
「リンドウさん!これを!」
リンドウの両手が塞がっているので、ポーションを飲ませてあげた。すると、リンドウの体から尋常ではないほどの魔力が!
「サトル様。力が…力が溢れてくるようです!」
サリーはここぞとばかりに胸を張る
「変性薬ほどじゃないけど、それでもパワーアップ量は自信あるのヨ!名付けて、サリースペシャルパワーアップポーションミラクル――」
「おほおお!この菓子最高じゃな!」
上空のお菓子を上手く顔面でキャッチしたフォティアは、満面の笑みで咀嚼している。チャンスは今しかない!
「リンドウさん!今だ!引っ張り上げて!」
「[スピリット・オーバーウェルミング・グリーフ]!……てぇぇぇい!!」
満面の笑みで隙だらけなフォティアを、ロープごと魔法でバインド状態にして、魚釣りのように思い切りフォティアをリンドウ側へ釣り上げた
「ほへ?…のわあああぁ!?」
力が超強化されたリンドウのフィジカルパワーによって、フォティアはダイナミックに空中を舞い、中心線を超えたあたりで、頭からズザアと音をたてて地面へ落ちた
「ぶべえええ!…っは!?わ、我は一体…!?も、もしかして負けちゃった…?」
リンドウは息切れしつつ肩から崩れ落ちた。…精霊との綱引きだ。無理もない
「はぁ…はぁ…精霊様。約束通り……私と契約して頂き、里への制裁も止めてもらいますの!」
「っく…ふん。契約を破ることは絶対なる禁忌……約束を違えることはせん。好きにすれば良いのじゃ」
「やった~!やりましたの!サトル様~!!」
先程までの疲れはどこへやら。リンドウは俺の肩を揺さぶりまくり、ハグをしたと思ったら俺の両手を取って振り回す。リンドウさんや?ポーションの効果が残っているのですから、俺をスイングするのはやめてもらえませんかね!?
「わかったからやめてくれぇ~~!」
「プ!くは、あはははは!」
そんな様子をフォティアは腹を抱えて笑い始める
どうやら彼女の頑張りを認めてくれたようで、これ以上暴れるのは止めてくれたようだ。それに、なんだかご機嫌な様子
最初から俺をスイングすればフォティアの機嫌はなおっていたかもしれないという、ちょっとした可能性を全力で脳内否定しつつ、今は無事解決したことを安堵した
…それより!
「だれかとめてくれええ~~~!」
リンドウの喜びスイング回転はもう暫く続くのであった