199話
ウォーロック。まず俺の頭を過ったのはそのクラス名だ。ウォーロックとは系統上はウィザードやソーサラーと同じように魔術を扱うクラスに該当する。しかしそれらの魔法使いとは魔法の体現方法やルーツが全く違うのだ。
ウィザードは自身の魔力や神から齎される恩恵によって、そしてソーサラーは自身に流れる血統…つまり血脈によって魔法を体現してみせる。ウォーロックにはウィザードのような魔力も無ければ、ソーサラーのような血脈に由来する力も無い。しかし、このクラスだけが会得する能力として、この世ならざる者と契約を交わすことができるのだ。
ウォーロックが契約できる者は、精霊から超次元的な存在まで幅広く、総じて生物としての格が高く、高位の存在である。むしろ生物ですら無い剣や書物の無機物、はたまた曖昧な存在の場合だってある。そんな契約相手から魔力や魔法を体現するための手段や力を授かり、血脈や恩恵に劣らぬ力を発揮する。
更に、ウォーロックは契約時の加護により身体的能力が向上するため、いざという時は戦士のように前線に出て戦うこともできる。もちろん、専門職には叶わないが。敵に接近された場合の自衛や不意打ちに対する立て直しの強さ、加えて契約者をルーツとした魔法を扱う…そんな汎用性バツグンな活躍を期待するのであれば、このクラスを選ぶ。
リンドウはフォティアと契約する必要がある以上、クラスもそれを遵守したものが選択肢になる。ウォーロックはその条件にうってつけのクラスということだ。
今までのような儀式ではなく、強い誓約によって結ばれた関係性を作る。契約さえ交わせばどちらかの意思で一方的に力を行使することが難しくなるから、抑止力として期待できる。
「うまくいってくれよ……」
*対象 リンドウのクラスチェンジを開始*
*リンドウがチェンジ可能なクラスです*
*
ウィザード
ウィッチ
ウォープリースト
ウォーロック
オラクル
カーディナル
クレリック
シャーマン
ドルイド
*
「よし…あるぞ!」
想定通り、ウォーロックが存在する。もちろん俺は迷わずクラスを選択する
黄金のペンが現れ、空っぽだったリンドウのクラス枠に、1文字1文字にしっかりと願いを込めて書き込んだ
「さぁ…君の可能性を魅せてくれ!」
*リンドウはクラス 『ウォーロック』を獲得しました*
*適性値が高いため、大幅に能力向上 サトルの能力によって能力向上*
*クラス特典として、契約の錫杖を付与*
*クラスチェンジを完了します……*
灰の世界を打ち破り、激しい光の奔流が本からリンドウに降り注ぐ
「な、なんじゃあ!?その光…いや、その力は」
フォティアは予想外な出来事に手を止めて、まだその身に光の輝きを残すリンドウと俺を交互に見ている
「リンドウさん」
「はい!……精霊様。どうか怒りを鎮めて下さい」
「ふ、ふん!何をしたのか知らぬが、定命の者が我の力を止められると思うてか!」
「止めるつもりはありません。精霊様、その前に私と勝負をして頂けないでしょうか。私が勝てば暴れるのを止めて、契約を交わしてください。私が負ければ、精霊様の言う通りに従いますし、制裁も大人しく受けますの」
「ほほほ!勝負か!まさかとは思うが、我に勝てるとでも…?面白い奴じゃ。良いだろう、受けて立つ!して内容はどうするのじゃ」
リンドウはクラスチェンジ後から笑みを崩さない。何か勝算があるようだ
フォティアが単純なのか、リンドウのクラスチェンジによって対話まで持ち込むスキルがついたのかは知らないが、少なくともこの賭けに乗ってくれるようだ!ナイスだリンドウ
「勝負は、私と魔力の綱引きをしましょう。半分以上の魔力を奪い取った時点で勝負有りとする…その内容で如何でしょうか?」
「我と魔力の引っ張り合いだと…?力でお主が我に勝てる道理などなかろうに」
「どうなさいますか」
フォティアは口の端をつりあげて、腕を組む
「よかろう…定命の者と精霊の力の差を思い知らせてやる」
フォティアは自身の手の平から魔力のみで構成されたロープ状の物体を生み出し、リンドウへ投げる
「ほれ、受け取れ」
リンドウはそれを受け取り、フォティアと距離を離してロープが伸び切った状態で向かい合った
「丁度、サトル様が私たちの中央におります。どちらかがサトル様の足元を通った時点で決着としましょう」
「ふむ、我は構わないぞ。サトル、開始の合図をするのじゃ」
「わかった。じゃあ行くぞ?綱引き、開始だ!」